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他人の体の中で



---


イントロダクション


二度目の朝。

目を覚ました瞬間、アレックスはもう“アレックス”ではなかった。

かつての彼を映す鏡は、いまや他人の顔を返す。


愛した人の隣に、再び立てる奇跡。

けれど、それは同時に――罪でもあった。


これは、一度死んだ少年が、

もう一度「愛」を選ぶために歩き出す、

静かで、切ない物語。







---


第2話 ――再会、そして揺れる心


朝の光がカーテンの隙間から差し込み、アレックス――いや、今の彼はリョウタ・サカモトとして目を覚ました。

昨日まで夢だと思っていた出来事が、現実だということを脳がゆっくりと理解していく。


「……俺、本当にリョウタになったのか。」


鏡に映るのは、以前の自分ではない。

整った顔立ち、明るい髪、そして何よりも自信に満ちた瞳。

かつて憧れていた“親友”の姿が、今は自分自身だった。


心臓が不自然なほど強く鼓動を打つ。

けれど、そんな感情を押し殺しながら制服に袖を通した。



---


学校の門をくぐると、いくつもの視線が彼に注がれる。

それはリョウタがいつも受けていた視線――羨望、憧れ、そして恋。

だがアレックスには、その全てが重く感じられた。


「サカモトくん! おはよう!」

振り向くと、そこにいたのはヒナタだった。

柔らかな笑顔、優しい声――記憶の中と変わらない。

だが今、彼女は“自分”を見て微笑んでいる。


「お、おはよう……ヒナタ。」

声が震える。

彼女の名前を口にした瞬間、胸の奥に刺すような痛みが走った。


「どうしたの? なんか変だよ?」

「いや、ちょっと寝不足で……」

そう誤魔化しながらも、アレックスの中では感情が爆発しそうだった。

この距離、この時間、もう二度と手に入らないと思っていたのに――。



---


授業が終わった放課後、ヒナタが小さく手を振ってきた。

「ねぇ、リョウタ。放課後、屋上で話せる?」

彼女の瞳には、どこか迷いがあった。


屋上に吹く風の中で、ヒナタは小さな声で言った。

「最近のあなた、少し違う気がする。優しいけど、どこか悲しそうで……。」


アレックスは答えられなかった。

言えるはずがない。“彼”はもういない。

そして“自分”は、リョウタという名の借り物の人生を生きている。


「もし……もし、やり直せるなら。君に、伝えたい言葉があった。」

「え?」

「いや、なんでもないよ。」


ヒナタの髪が風に揺れ、陽の光に透けて金色に輝く。

その美しさに、アレックスの心は再び揺れた。


――もう一度、君を愛してもいいのだろうか。



---


次回予告:

第3話「記憶の重なり」

リョウタとして過ごす日々の中、アレックスの心に小さな違和感が芽生える。

“本当のリョウタ”の記憶が、少しずつ彼の中に流れ込み始めていた――。




エピローグ ― 第2話


夕暮れの校舎に、静かな風が吹き抜けた。

ヒナタの笑顔が、沈む太陽の光に包まれて消えていく。


アレックス――いや、リョウタとしての“彼”は、

その姿を見送りながら小さく息を吐いた。


「もう一度、君を守れるなら……」

呟いた言葉は、誰にも届かない。

けれど、その胸の奥で確かに燃えていた。


過去は戻らない。

だが、この身体、この時間、この痛み――

すべてが、再び彼に“生きる理由”を与えていた。


そして夜が訪れる。

次の朝、彼の運命はまた静かに動き始めるのだった。



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― 新着の感想 ―
ヒナタに自分の気持ちを伝えることは勇気がいると思います。でも、どんな結果になっても、それがヒナタの気持ちなんだと受け止めるしかないですよね。 応援の気持ちを込めて、ブックマークと評価をさせていただきま…
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