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セイレン姫

その日の夜、ホーディは村でもてなされて一泊した。朝になると村を出発して王都を目指した。

 村をあげてホーディを歓迎しホーディを送り出した後に村人達はある事に気が付いた。

 あの人は何しにこの村に来たんだろうと。

 村を出たホーディは時計台がある街に行き、そこから馬車に乗って予定よりだいぶ遅れた旅を再開した。

 王都行きの馬車であるが国境から出ていたのと違い乗客はホーディだけでありのんびりとした旅になった。

 ホーディがゆったりと馬車に揺られていると進行方向から大きな荷物を抱えた集団が歩いてきた。その表情は誰もが暗く服は汚れており何処からか逃げ出して来たような有様であった。

 道を埋め尽くす人波に馬車は進む事が出来ずホーディはその場で降りて歩いて王都に向かうことにした。

 人波に逆らって歩くホーディに人々は怪し気な視線を送るがホーディは全く気付いていない。

 ホーディが人波に逆らって歩いていると聞き覚えのある声が聞こえた。

「お兄ちゃん!」

 それは妹であるリトスの声であった。

 ホーディは聞き馴染みのある声がする方向を見るとリトスが人をかき分けて来るのが見えた。そしてリトスは勢いそのままにホーディの胸に飛び込んだ。

「あれ?リトスどうしたの?」

「やっと見つけた!王都にいなくて心配したんだよ」

「ごめん、ごめん少し寄り道してた」

 リトスの頭を撫でながらホーディはさっきから気になっている疑問をリトスにぶつけた。

「それよりこの人達は?何かのキャラバン?」

「それが王都は今大変なの。なんだか第一王子と第二王子が揉めて内戦になってて」

「えーそうなんだ」

「それで街の人はみんな逃げ出してるの」

「そうか、リトスが無事でよかったよ」

 ホーディが少し寄り道をしている間に王都は王子同士の争いにより治安が悪化し物流も完全に止まってしまった。

 ホーディとリトスが嬉しそうに会話していると一人の女性がリトスに声をかけた。その後ろには警戒感を露わにしている初老の男も立っていた。

「リトスさん、お兄さんは見つかりました?」

「はい!ご心配おかけしました」

 リトスは姿勢を正し女性に頭を下げた。女性はあまり実用性のなさそうな綺麗な鎧を着ており明らかに普通の身分でない事はホーディでも理解できた。そしてその後ろに警戒感を露わにしている育ちの良さそうな男もいた。

「リトス、そちらのお姫様みたいな人は?」

「トナーリャ王国のお姫様、セイレン様です」

「あ!本当のお姫様なんですね!失礼しました」

 リトスがセイレンを紹介すると流石のホーディも姿勢を正して深く頭を下げた。あちらこちらで問題を起こすホーディにも常識はしっかりあるのだ。

「セイレン様は内戦に巻き込まれた人達を避難させているの、余所者の私にも親切にしてくれて」

「それは妹が大変お世話になりました」

 リトスがセイレンに助けられたと知りホーディは改めて深く頭を下げた。

「いえ、王族として当然の事をしたまでです」

「何かお礼でも……だけどお姫様にあげれるような物は……」

 ホーディはセイレンに何か贈ろうと鞄の中を漁り始めた。セイレンの後ろに立っていた男、セイレンの執事は万が一の時の為にセイレンの前に出て警戒した。

 もしかしたら鞄から刃物を取り出して襲いかかるかもしれない。しかしホーディが鞄から取り出した物は執事もセイレンも妹のリトスでさえ予想できない物であった。

「そうだ!貰ったドラゴンの鱗です!こちらをお礼に!」

 ホーディは鞄からドラゴンの鱗を取り出した。それを見た瞬間セイレンと執事の顔色が明らかに変わった。

「ドラゴンの鱗!お兄ちゃん、それどうしたの!」

「ドラゴンから貰った。干し肉あげたお礼に」

「お兄ちゃん何やってたの?」

 リトスはホーディを疑うような目で睨んだ。だがホーディは下らない嘘をつくような人間でない事はリトスは充分分かっている。おそらく本当なのだろうがどうしてそんな事になったのかリトスは想像できなかった。

 ホーディはドラゴンの鱗をセイレンの前に立っていた執事に渡した。受け取った執事の手は震えていた。

「姫様……間違いありません!これはドラゴンの鱗です!王位継承できますぞ!」

「え!でも、私は何も」

「どんな手段であれドラゴンの鱗を手にする、それだけでいいのです!歴代の王も自身でドラゴン狩りをしたわけではありません!これは神の導きに他なりません!」

「少し落ち着きなさい」

 興奮している執事をセイレンは落ち着かせホーディに質問した。

「本当にくれるのですか?ドラゴンの鱗はたいへん貴重な物であり貴族でさえ手に入れる事が困難な代物です」

「はい、俺が持ってても使いませんし。妹にも会えましたし」

「ありがとうございます」

 セイレンは頭を下げてホーディに感謝した。王族が平民に頭を下げるなんてあり得ない事だがセイレンはそんな些細な事などどうでもよかった。本来ならそれを止める執事も今回ばかりは止めずいた。

 セイレンはドラゴンの鱗を手に入れて王位継承するのに十分な資格を手に入れた。しかし問題はまだ残っている。

 それは二人の王子の争いを止めなければならない。内戦に明け暮れる二人の王子は王に相応しくないがセイレンがドラゴンの鱗を持ってきたところで納得する訳がなかった。

 セイレンには二人の王子を止めるだけの兵力が必要であった。

「後は内戦を止めるだけの兵がいれば」

 頭を悩ませる執事の言葉にリトスが反応した。

「兵ならいっぱい国境にいましたよ」

「そういえばよく分からないけど傭兵がたくさん国境にいたね」

 ホーディもやたらと物騒な集団が検問所近くで待機していた事を思い出した。その傭兵はオウフェがイテハルン王国に侵攻するする為に集めた傭兵達である。

 執事もリトスの言葉でオウフェが傭兵を集めている事を思い出した。

「姫様!兵を用意できます!ドラゴンの鱗物手に入りました!これは本当になれるかもしれませんぞ!新たなトナーリャ王に!これは神のお導きです!」

 執事の言葉を聞きセイレンは周囲を見回した。そこには家を捨て逃げてきたボロボロの民の姿であった。そして周囲にいる民のすがるような瞳を一身に受けたセイレンは覚悟を決めた。

「分かりました。私が王になります」

 セイレンの宣言に周りにいた民は歓喜の声をあげた。

「姫様!」「お願いします!」「セイレン様!」

 ホーディはなんだかよく分からないうちに大盛り上がりになった群衆と一緒にとりあえず喜んでみた。

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