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オウフェ王子

イテハルン王国へ向かうオウフェは森の中にある道を進んでいた。オウフェ直属の騎士団を従え進むその姿は次期トナーリャ王に相応しい風格を漂わせていた。

 オウフェはゴーマンによる何かしらの妨害を懸念していたが何事もなく進軍している。それがかえってオウフェを警戒させていた。

「ゴーマン殿下の妨害も無く、このまま行けば夕方には宿泊地に到着するでしょう」

 騎士からの報告にもゴーマンは安心しない。

「油断するな。ゴーマンの奴だ何か仕組んでいるかもしれん」

「肝に銘じます」

 オウフェはこれまで全く動きを見せないゴーマンを警戒していた。何か裏があるのは確実だがそれが何か分からない。そんな気持ち悪さを胸に抱えつつ進んでいた。

 しかしどれだけ待ち構えてもゴーマンの妨害は無かった。オウフェは一応ゴーマンの事を頭の片隅に置きつつこれからの戦争について考えた。

「傭兵部隊はどうなった」

「はい、先行させて国境で待機するよう指示しています」

「よろしい」

 オウフェは自身の騎士団の他に多くの傭兵を雇い侵攻するつもりであった。元々傭兵に期待はしていないが戦争は数であり、幾らでも補充ができる傭兵はオウフェにとって都合のいい捨て駒であった。

 しばらく森の中を進んでいるとオウフェはある事に気付き歩みを止めた。

「何の音だ?」

 遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。それもどんどんこちらに近付いてくる。それは木々を倒す音、悲鳴の様な鳴き声、そして大量の足音であった。

 騎士達も周囲を警戒しているがその音の正体が何なのか誰も分からない。

 すると森の中から見回りをしていた一人の騎士がオウフェの前に転がり込んできた。

「魔物です!魔物の大群が迫っています!」

 その顔は恐怖のあまり血の気が引いており、事態の深刻さを物語っていた。

 その報告を聞いた瞬間オウフェは即座に叫んだ。

「戦闘態勢に入れ!」

 オウフェの命令に騎士達は直ぐに応えた。流石オウフェ直属の騎士達であり淀みなく陣形を組み、森の中から現れる魔物の群れを迎え討つ準備を整える。

 轟音がどんどん近付いてくるのが分かる。盾と剣を構えた騎士達もジッと待っている。不安があるのだろう騎士の一人は額から冷や汗が流れている。

 ほんの数秒であるが騎士達は待ち構えている時間が何十分にも感じられた。

 そして遂に魔物の群れが姿を現した。ゴブリンの大群である。

 群れは部隊を押し流すように雪崩れ込んできた。目的は分からないが騎士達を襲うというより何かから逃げてきたようである。

「くっ!」

「何だこれは!」

「隊列を崩すな!」

 騎士達は必死でゴブリンを斬り伏せていく。騎士達の前にゴブリンの死体が重なっていくが後続のゴブリンはそんなこと気にする事なく突っ込んでいくる。

 ゴブリンは戦おうとせずただ正面からぶつかり、ぶつからない者はそのまま素通りしていく。目的はただ一つ、ゴブリンは何から逃げているのだ。人間よりも恐ろしい何かから。

 そして最後のゴブリンが森の奥へと姿を消した。残ったのは大量のゴブリンの死体とゴブリンの雪崩を真正面から受けて疲弊している騎士団である。

 剣は折れ、盾は凹み、打身や流血も多い。何より物資を運んでいた馬車の損傷が激しかった。

「被害の確認をしろ!」

 オウフェは直ぐに騎士達に指示を出した。予想外な事態でもオウフェの指示は的確である。

「剣が使い物になりません」

「積み荷にも被害が出ています」

「車輪が壊れています」

 次々に来る悪い報告にオウフェは顔を歪ませた。

「王都に一旦引き返して物資を補給する」

 オウフェはこのままでは戦争どころではないと判断して王都に戻る決断をした。オウフェは好戦的であるが勝てる戦と負ける戦の分別はついていた。このまま戦争をしてもイテハルンに勝てる見込みは薄いと判断した。幸いな事に王都出てからそれほど経っていないので戻るのは簡単である。

 これまで来た道を引き返しオウフェ達は王都に帰還していく。

「あれは何だったんだ」

「恐怖に怯えていた。ゴブリンは何に襲われたんだ」

「まさかこんな事になるとは」

 騎士達の間にも動揺が広がっていた。

 オウフェが渋々来た道を引き返し王都に戻っていると微かに鐘の音が聞こえた。その鐘の音には聞き覚えがあった。

「まさか!」

 オウフェは走り出し森を抜け王都が見えるところまで急いだ。その間、鐘の音はどんどんと大きくなっていく。

 視界が開けオウフェが王都を見ると出発した時と違い物々しい雰囲気が遠くからでも感じ取れた。門が閉まり、城壁の上では慌ただしく兵士が動いている。そしてなにより王都から非常警報の鐘が聞こえてくるのだ。

「何故非常警報が鳴らされている!何が起きた!」

 オウフェが怒鳴り声を上げたが誰一人状況を説明できる者はいなかった。王都でこのような厳戒態勢になった事はこの場で経験した者は一人もいなかった。

「は、旗が!」

 騎士の一人の指差す方を見ると城門の屋上に掲げられていた筈のトナーリャ国旗がズタズタになっているのが見えた。

 国旗の破壊、それは国への反乱を意味する。その瞬間オウフェは全てを悟った。

「ゴーマンの奴!強行策に出たか!」

 オウフェはゴーマンが力尽くで王位をものにするつもりであると一瞬で理解した。その為に自身は出立を遅らせてオウフェを先に行かせたのだと。

 しかし誤算があった。それはゴブリンの襲撃によりオウフェが即時帰還した事だ。

 オウフェは剣を掲げてた。

「ゴーマンを討つぞ!奴に王位を渡してはならん!」

 オウフェは騎士団に命令し王都に侵攻を始めた。長いトナーリャ王国の歴史上初めての王都襲撃である。そしてそれを指揮したのが他ならぬトナーリャ王国の王子であった。

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