国境
イテハルン王国とトナーリャ王国は大きな川を国境としている。
どちらの国に入国するにも川に架けられた大きな橋を渡らなければいけない。橋の両端にはそれぞれの検問所があり、入国してくる者を厳しく検査していた。
オウフェが城から出発する少し前、予定より大幅に遅れてホーディは遂にトナーリャの検問所に到着した。
検問官の前に座りホーディは入国審査を受けていた。
「入国の理由は?」
「仕事を探しにきました!」
非常に態度が悪い検問官を前にホーディはいつもの様子で元気よく答えた。
ホーディは鞄の中から商人ギルドで貰った紙を検問官に渡した。それを面倒臭そうに受け取った検問官は疑いの目を向けながら紙に目を通した。
「確かに商人ギルドからの証明書だな。じゃあ鑑定石に手を添えな」
「はい!」
検問官の前に置かれた鑑定石にホーディが手を添えると鑑定石は淡く光りだした。そして浮かび上がった文字を検問官は読み始めた。
「えっと……犯罪歴は無し、身分は市民……無能?無能ってなんだ?」
検問官は長くここに勤めているが無能なんてものは初めて見た。
「よく分からないんですが自分無能らしいです」
ホーディの答えに検問官は声をあげて笑いだした。その様子は一斉に周りの注目を集めたが検問官はそんな事を気にしない。それどころか、
「はっは!なんだこれ!おい見てみろ!」
「何だ?どうした?」
「こいつを鑑定したら無能だってよ!」
「なんだそりゃ、はっは!」
検問官は他の仲間を呼び出して一緒になって笑い転げた。ホーディは自分を馬鹿にされていながらその様子を楽しそうな人達だなとのんびりと眺めていた。
ひとしきり検問官達は笑うとそれぞれの持ち場に戻っていった。
「それで入国していいんですか?」
「おう!いいぜ、後はこの誓約書にサインしな」
検問官は笑いながら一枚の誓約書をホーディに渡してきた。
誓約書にはトナーリャの法律を守り、トナーリャ王国の一員として秩序ある行動を心掛ける事を明記されていた。
ホーディは誓約書を特に読まず自分の名前をサインした。
「どうぞ、これでいいですか?」
ホーディからサイン入りの誓約書を渡された検問官はサインを確認した。
「よし、入国を許可する。それと外に傭兵がいるが騒ぎを起こすなよ」
「はい!」
「じゃあ次」
ホーディは検問所から出て遂にトナーリャ王国の地を踏んだ。検問所の外はイテハルン王国へ向かう馬車の列ができており、更に少し開けた場所ではガラの悪そうな傭兵集団がテントを張りキャンプをしていた。彼らはトナーリャ王国から雇われていたり、ここにいれば仕事を貰えると待機している傭兵達である。
ホーディはそんな傭兵達を横目で見つつ王都に向かう馬車に乗り込んだ。
王都行きの馬車は満員でホーディも身を縮めながらの移動となった。
ぎゅうぎゅうの馬車の中で動く事もできないホーディはいつの間にか眠ってしまった。
ホーディが眠りに落ちしばらくすると御者が大声を上げた。
「ドラゴンだ!」
その御者が叫ぶと皆一斉に馬車から降りて近くの森の中に身を隠し息を潜めた。御者も馬を置き去りにしてさっさと身を隠したが、ホーディだけは寝ぼけて何が起きているか分からず馬車の中に一人取り残されていた。
ドラゴンは馬車の真上をクルクルと旋回していたが遂に馬車の真後ろに降りてきた。
ホーディがドラゴンの羽ばたきで風をその身に受けるとようやく目が覚めてきた。
「ん?なに?もう着いたの?」
ホーディがキョロキョロ馬車の中を見回すが誰もいない。仕方なく馬車から降りると一頭のドラゴンがホーディの顔を覗いていた。
ホーディはこのドラゴンに見覚えがあった。
「あれ?ワーマさんとこのドラゴンじゃん。どうした?散歩?それより少し大きくなった?」
このドラゴンはワーマの研究所の地下で捕えられていた子供のドラゴンである。ホーディは知らないがあれから研究所を燃やし尽くして自由の身になっていた。
森に逃げ込んだ乗客達はホーディを助けたくても恐怖で身がすくみジッと息を潜めるばかりである。
ドラゴンはホーディの服を咥えて持ち上げると自身の背中に乗せた。そしてホーディを乗せたまま空高く飛び上がった。
「おお!空飛んでる!すごーい」
ホーディは初めてドラゴンの乗せてもらい空の旅に感動した。
国境に架かる橋は小枝ほどの小ささになり、空高く浮く雲がホーディの目の前にあった。
「それより、どこ連れてくの?」
ドラゴンはホーディを険しい山脈に連れて行った。人が入れぬような崖にぽっかりと穴が空いている。ドラゴンがその穴に入りようやく地面に着地した。
ホーディもドラゴンの背中から降りて辺りを見回すがホーディ以外に人は見当たらない。
ドラゴンが一鳴きすると奥からズンズンと音を立てて何かがやってきた。それはホーディが見上げる程大きなドラゴンであった。
「おお!大きなドラゴン。君のお父さん?それともお母さん?」
誰も助けに来れないような断崖絶壁で大きなドラゴンを目の前にしてホーディは呑気な感想を述べた。
ホーディを連れてきたドラゴンは大きなドラゴンにギャアギャアと何かを話している様子であるがホーディは何を言っているか全く分からない。そもそも何故こんなところに連れてきたのか分からないのである。
ひとしきり小さなドラゴンが何かを伝えると大きなドラゴンは器用に尻尾を使い奥の方から何かを持ってきた。
それはドラゴンが溜め込んできた財宝である。
「ん?くれるの?あー干し肉のお礼?いいよ、いいよ、そんなに高い物じゃないし」
ホーディは小さなドラゴンに干し肉やリンゴをあげたお礼だと思っているが大きなドラゴンにとっては子供を助け出してくれた恩人である。本当はもっとお礼をしたいがドラゴンが出来ることは人間にとって価値のある財宝を渡すだけである。
小さなドラゴンは遠慮するホーディの鞄の中にグイグイと財宝を押し込んでいく。
子供と言えどドラゴンの力に負けたホーディはお礼を渋々受け入れた。
「分かった、分かったから、貰うから」
鞄の中は宝石やら金貨やらでパンパンになったがホーディは嬉しさよりある心配が勝っていた。
「それよりここどこ?近くの村まで送ってくれる?」




