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真相

ホーディはロマク侯爵の屋敷で何食わぬ顔で働いてた。

 真正面から屋敷に侵入して「ロマク侯爵に挨拶しに来ました」と使用人に言い放ったホーディだが当然そんな事出来るはずがなかった。

「ロマク様は忙しいのだ!そんな暇があるなら働け!」

 と一蹴されてしまった。使用人は新しく配属された奴が挨拶する為に来たと勘違いしていた。それも仕方ないだろう、堂々と屋敷に入り挨拶したいと言ってきたのだ。まさか本当に挨拶だけしに来たとは考えもしなかった。

 そして暇があるなら働けと、その言葉をそのまま受け取ったホーディは屋敷で働くことにした。

 ロマクに挨拶とお礼を言えないならパーティーの準備を手伝って恩を返そうと考えたのだ。

 ホーディが使用人に混じって働いている事に誰も疑問を覚えなかった。それは今の侯爵家の惨状のせいである。

 賃金が下がり、更に支払いが滞った事から力のある使用人は次々に辞めていった。その穴埋めのために低賃金で多くの使用人を雇った為、誰も今屋敷にいる使用人の数を把握していなかった。

 それに加えてパーティーの準備に忙しく誰も気にしていられない、物資の搬入の為に多くの商人が屋敷を出入りする。そんな事が積み重なった結果ホーディは雇用契約をする事なく屋敷で働いていた。

 ここで一番おかしいのはお金をもらうのでもなくタダ働きをしているホーディになのは間違いない。

 そうして数日間屋敷を出入りして働いたホーディは誰もがこの屋敷の使用人だと勘違いした。そして誰よりも動き、誰よりも働いている為、一部の使用人から昔からここで働いているベテランだと思われていた。


 そしてパーティー当日、ホーディは当たり前のように屋敷を歩いていた。

 そしてパーティーに招待されたショーンと出会い、ホーディの顔を見るなり逃げられてしまった。

「さっきの招待客、商人ギルドのギルド長だろ?」

 慌てて逃げ出したショーンを見た使用人の一人がホーディに質問をした。

「そうなんですか?お世話になってるのに気付きませんでした」

「どうして帰ったんだ?」

「何か悪い物でも食べたとかなんとか」

「なんだそりゃ?毒かなんかか?」

「え!毒ですか!」

「ははっ!そんなわけあるか!」

「そうですよね」

「仕事に戻るぞ」

「はい!」

 最近ここで働き始めたばかりのホーディだが使用人との仲は良く、冗談混じりの会話をしながら仕事に戻った。

 その後、ホーディが裏で仕事をしていると噂好きの使用人がホーディに近付いてきた。

「何かギルド長が帰ったとかいう噂って本当?」

「そうなんです。突然帰っていきました」

「何でだ?」

「なんか毒を盛られたんじゃないかって言ってましたよ」

「本当か?」

「でも違うだろって」

「だろうな。まだパーティーは始まっていないし」

 噂好きの使用人はホーディから面白い情報が得られないと分かるとさっさと話を切り上げて自身の仕事につまらなそうに戻った。

 その後入れ替わりで入ってきた女性の使用人は噂好きの使用人を見てホーディに質問した。

「何の話をしてたの?」

「ギルド長が毒を盛られて帰ったって話です」

「え!毒!」

 女性の使用人は思わず大声をあげてしまった。すると向こうからホーディを呼ぶ声がした。

「ホーディ!こっち来て手伝ってくれ!」

「はい!すぐ行きます!」

 ホーディは話していた重要な部分を語らないまま走って行ってしまった。ホーディはどんな仕事も引き受けるので面倒くさい仕事をいつも押し付けられていた。

 女性の使用人はホーディが言った事を黙っている事が出来なかった。この重大な事件を誰かに言わないと気が済まなかった。

 そうしてしばらくすると使用人の間ではギルド長は毒を盛られた事が事実として広がった。

 噂の主役であるギルド長はこの場にいない為誰一人噂を否定する事が出来ずにいた。

 本来侯爵家の使用人ならそんな馬鹿馬鹿しい噂は簡単に否定されてしまうが、今いるのは低賃金で雇われた仕事に誇りを持ち合わせていない数合わせの者達である。

 そうして回りに回った噂は改めてホーディに下に伝えられ、ギルド長は本当に毒を盛られて帰った事になった。

 そしてその噂は不運にも招待客にも届いてしまった。

「おい、本当なのか?ギルド長が毒を盛られたって!」

 招待客の一人がホーディに詰め寄って質問してきた。

「はい、なんか料理に毒が入ってるらしいです。気を付けて下さい」

 ホーディは何の悪気もなく噂話を真実だと即答した。そして本当に心配して食べないように忠告してしまった。

 招待客は急いで会場に戻ると家族その話をして食事に手をつけない事を言い聞かせた。そしての会話を来た別の招待客がまた別の招待客へと話してしまった。

「料理に毒が入ってる?」

「本当なのか?」

「誰が?何で!」

「詳しくは知らないがギルド長が関わっているとか」

「ギルド長がロマクに恨みがあるとか」

「そう言えばギルド長が逃げていくのを見たぞ」

 こうしてホーディから始まった根も葉もない噂はホーディを経由したにも関わらず訂正される事なく、より悪化して広まっていった。

 ギルド長が帰っただけなのに噂にはおヒレが付きもはや最初の噂の原型は無くなり、ギルド長によるロマク侯爵暗殺計画なるものが存在する事になっていた。

 そして会場から笑顔が消え、噂の真偽を確かめる事も帰ることも出来ずにいた。

 そんな事を知らないロマクはこの最悪な空気を変えるために執事にワインの準備を急がせた。

 使用人達は当然の命令に慌てて準備をしている。人数分のグラスを用意して、ワインセラーから何十本もワインボトルを運んでいく。

 ワインの準備を取り仕切る使用人が大声を出した。

「おい!全然足りないぞ早くワイン持って来い」

「分かりました!」

 いの一番で返事をしたホーディは命令されるがままにワインセラーに向かったが、ホーディは所狭しと並ぶワインの中からどれを持っていけばいいのか知らなかった。

 命令をした使用人もまさか知らずに元気よく走り出したとは思ってもみなかった。

「どれだろ、この新しそうなやつか!」

 ホーディはワインを持ってこいと言われただけなので近くにあったワインを何の迷いもなく持っていった。

「持ってきました」

「早くよこせ!」

 息を切らせてホーディが持ってきたワインは忙しさから丁寧に確認することなく、次々にワイングラスへと注がれていった。

 こうしてロマク侯爵が秘蔵する特別なワインが振る舞われる中で、ホーディがなんとなく持ってきたワインがごく一部の招待客の下へ紛れ込んでしまった。

「さあ!どうぞ芳醇な香りと爽やかな甘みをご堪能を!」

 ロマクが勧めるがままに運悪くホーディが用意したワインを口に含んだ招待客はそのワインを吹き出してしまった。

「ゴッアホ!ゴッホ……ゴッホ」

「毒だ!」

「きゃああ!」

 ホーディが流した毒が仕込まれているという噂を聞き、目の前でワインを吹き出す招待客を見た人間が考えた末に導き出された答えは言わずもがな、この招待客は毒を盛られたと勘違いをした。

 ホーディが用意したワインは毒が入っている訳ではなくただ酸味の強い品であった。飲む前にその事を知っていれば何も問題はなかったが、知らずに飲んだ招待客はその強い酸味に咽せただけであった。

 そして会場は混乱してパーティーどころではなくなってしまった。


「パーティーの片付けをします」

 しばらくすると裏で待機していた使用人達は執事の命令により動き出した。

「もう終わったんですか、早いですね」

「まあ、そうですね……」

 ホーディの質問に執事の返答は何だか歯切れが悪かった。

 ホーディはそのまま執事の後について行き会場に入っていた。

「えーなんだこれ」

 ホーディが見た光景は椅子もテーブルもひっくり返り、床はワインでびちゃびちゃになっている見るも無惨なパーティー会場であった。

 ホーディだけではなく他の使用人もここで何が起きたか分からず立ち尽くしている。

 そして会場の隅には椅子に座り項垂れるロマクの姿があった。

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