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パーティー

ロマク侯爵の屋敷では使用人達が忙しなく動いて今週末催されるパーティーの準備に奔走していた。

 このパーティーは影響力が下がったロマク侯爵の力を取り戻す為のものである。

 ロマク侯爵は違法な奴隷を鉱山で働かせていた事により国から強制捜査を受けた。ロマク侯爵本人はあくまで違法とは知らずに奴隷を受け入れていただけで自分は無関係だとシラを切ったがそれでは納得してもらえなかった。

 その為多額の裏金を監査官に送りなんとかその場をやり過ごした。ロマク侯爵にとって手痛い出費である。

 しかし国から目をつけられたと周辺の貴族に知られると彼らは次々にロマク侯爵から距離を取り始めた。元々ロマク侯爵の取り巻きはその甘い汁を啜るために媚を売ってきただけであり、恩も忠誠心も持ち合わせていない。なので自身に火の粉が降りかかるとなれば我先にと逃げ出すのは当然の事であった。

 そして侯爵夫人までもが雲行きが怪しくなった途端、さっさと実家に帰ってしまった。

 ロマク侯爵は金も無くなり人も離れたこの状況をなんとかしなければならなかった。

 そして開催されるのがロマク侯爵主催のパーティーである。盛大にパーティーを開く事によって貴族達へロマク家は安泰だとアピールする狙いがある。人が戻れば影響力が増し、影響力さえあれば金も自然と集まってくる。なのでこのパーティーは何がなんでも成功させなければならなかった。

 ロマク侯爵は豪勢な昼食を食べていた。いくら金銭的に苦しくても自身の生活の質は決して落とさない。その皺寄せは賃金の低下として使用人達に来ているがロマク侯爵はそんな事気にしなかった。

 ロマク侯爵は所作こそ綺麗であるがその贅沢な暮らしが贅肉として腹と頬にたっぷりと現れていた。

「パーティーの準備は進んでいるのか?」

 ロマク侯爵は不機嫌そうに執事に質問した。この質問も今週になってから何度も執事にしている。

「はい、滞りなく」

「必ず成功させるのだ。ロマク家の命運がかかっている事を忘れるなよ」

「はい、重々承知しております」

 このやりとりも何度もやっているが執事はその度に同じように丁寧に返答している。

「くそ、これも何もかもラグーロの奴がしくじったからだ。あやつのせいで派閥の連中が離れてしまった」

「鉱山の落盤事故も同時に起きたのも不運でした」

 最悪違法な奴隷の件がバレても鉱山さえ無事なら人を正式に雇って採掘をする事ができた。しかし鉱山は落盤事故により完全に坑道が埋もれてしまい採掘することができなかった。ただでさえ出費が重なっているのに収入源も途絶えてしまった。それがロマク侯爵を困窮させている原因であった。

「そうだ!鉱山もだ!まだ再建しないのか!」

「騎士団の目が厳しくなり今までのように奴隷を働かせる事ができません。安全重視でやっている為再開は早くても一年後かと」

「そんな時間があると思うか!さっさと再開するのだ!」

 ロマクも無茶だと分かっているが怒鳴りつけずにはいられなかった。

「出来る限り早く進めておりますが大規模な落盤でして……」

「ぐぐぅ……」

 ロマク侯爵は悔しそうな顔をしながら料理を口に運ぶ。もはやなんの味もしないが食べないとやってられなかった。そして一口ワインを口に含み飲み込むと一旦冷静さを取り戻した。

「まあいい、とにかく今週を乗り切ろう。ロマク家は健在だと知らしめればいい」

 無理矢理笑っているがロマクの表情には余裕は無かった。


 パーティー当日、ロマク侯爵の屋敷には多くの馬車が停まり、続々と招待客が屋敷の中に入っていった。

 その中には商人ギルドのギルド長、ショーンの姿もあった。

 パーティーに参加する際に失礼が無いようしっかりとめかし込んだショーンの表情は暗かった。

「はぁ、ギルド長をパーティーに招待するなんてロマク家も随分と余裕がないのだな」

 ロマク侯爵は手当たり次第に招待状を出した。貴族に豪商、大地主などなど少しでも自身の力になるものなら誰でもよかった。そんな理由でこれまで一度もロマク侯爵のパーティーに誘われなかったショーンにも声がかかったのだ。

 本来ショーンがパーティーに参加する義理は無いのだが、影響力が落ちてもロマク侯爵は貴族である。無礼を働けば何をされるか分からない。

「仕事も落ち着いてきたし、たまにはのんびりパーティーに参加するのもいいだろ。目立たず隅っこで食事を堪能しよう」

 ショーンは気持ちを切り替えてパーティーを楽しむ事にした。侯爵家のパーティーとだけあり出される料理も一級品であるのは間違いない。

 まだ見ぬ高級料理に胸を弾ませてショーンが長い廊下を歩いていると一人の男とすれ違った。

「こんばんはー」

 使用人であろうその男は招待客に対してあまりにも軽い挨拶をした。他の招待客なら無礼だなんだと怒りを露わにするがショーンは違った。男の顔を見るなり血の気が一気に引いた。

「なっ!ホーディ!何故ここに!」

 ショーンは振り返りホーディを見た。ホーディはショーンと面識は無いがショーンは商人ギルドで何度もその顔を見ている。決して忘れるはずの無い、見間違えるはずの無い顔が何故か目の前にあった。

「ん?どうかされました?」

 ジッとこちらを見つめるショーンにホーディは不思議そうな顔をしている。

 ――まずい!なんでこんな所にいるんだ!トナーリャに向かってるはずだろ!どうする?コイツがここにいるということは何か悪い事が起こるに決まっている!直ぐにここから離れなければ!

 ショーンは頭の中で考えをまとめた。その間、五秒にも満たない。しかしそれでも面と向かって黙っている時間としてはあまりに長かった。

 何も喋らずジッと見てくるショーンにホーディは心配そうに改めて声をかけた。

「大丈夫ですか?何かありました?」

「す、すまん……何か悪い物を食べたようだ私は帰らせてもらうよ」

 ショーンはそれだけ言い残すと足早にその場から去った。額から汗が止まらなかった。招待客の波を逆走して一目散に屋敷から脱出した。

「逃げよう!とにかくこの街から出なければ!」

 ショーンは馬車に乗り込むと御者に街から出るよう指示をした。


 招待客が大きなホールに集まりその中心でロマク侯爵が感謝を述べている。

「皆さんようこそ、今日のパーティーの為に当家自慢のシェフが腕によりをかけて最高級の料理を準備した。今日は時間を忘れて存分に楽しんでいってほしい」

 ロマク侯爵がパーティーの挨拶をしたが招待客の反応はイマイチであった。元々良い反応を期待はしていなかったがそれでもどこかおかしかった。

 何か警戒して緊張している落ち着かない空気が会場内に溢れていた。その空気は何度も大規模なパーティーを主催しているロマクも直ぐに感じとった。

 ロマクは挨拶を終えると執事を呼び出した。

「おい、何か騒ついてないか?何があった」

「私にも分かりません。どうも皆様落ち着きがない様子で」

 せっかく入念に準備してきたパーティーなのにこれではロマク家の名に傷が付く。とにかくこの会場の空気を変えなければならなかった。

「秘蔵のワインを振る舞え!酔わせて空気を変えるのだ」

「承知しました」

 ロマクの命令により執事は大急ぎで会場から出て行きワインの準備を始めた。

 ものの数分で招待客にワインが行き渡り改めてロマクが会場の中心に立った。

「さあ!三十年熟成させた侯爵家自慢のワインです!」

 これには招待客も驚きと興奮が隠せなかった。

「おお、これが噂の!」「なんと豪勢な!」「決して表に出さない伝説の!」

 先程までの暗い表情が一変、グラスに注がれたワインに皆夢中であった。

「さあ!どうぞ芳醇な香りと爽やかな甘みをご堪能を!」

 ロマクの掛け声と共に招待客は一斉にワインに口をつけた。ある者はその味に酔いしれ、ある者は感動している。

 しかし招待客の一人が突然ワインを吹き出した。

「ブホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

 ワインは床に飛び散りグラスは床に落として割れてしまった。招待客は苦しそうに咽せている。

 そして吹き出したのは一人だけではない。会場のあちこちでワインを吹き出している招待客がいた。

 その様子を見た周りの招待客の顔色が一気に変わった。そして一斉に騒ぎ出した。

「毒だ!毒が仕込まれてる!」「やっぱり本当だったんだ」「私も飲んでしまった!助けてくれ!」「水だ!水をよこせ!」

 会場は混乱を極めた。高そうなドレスはワインで汚れ、テーブルに並んだ高級料理は床に散乱した。使用人達も必死で宥めているが混乱は増すばかりで我先に招待客は会場から逃げ出していく。

「なんだ……何が起きてるんだ……」

 その様子をロマクは誰よりも見える場所からどうする事も出来ず呆然と立ち尽くすしかなかった。

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