真相
「おはようございます!」
早朝ウェンディとフレンが村から逃げ出したがそんな事を知らないホーディは今日も元気に屋敷にやってきた。
何やらみんな慌てているようだがホーディには何が起きているのか分からない。
屋敷から出てきたリーダスはホーディを見つけると駆け寄ってきた。
「ホーディ!馬を準備しろ!直ぐに出る」
「何処へですか?」
焦っているリーダスとは対照的にホーディは呑気に質問しているがリーダスには時間が無い。
「いいから早くしろ!」
「分かりました」
リーダスに怒鳴られたホーディは急いで馬小屋に向かった。
そこで馬に鞍を装着させようとした時にある事に気付いた。
「あれ?鞍のベルトが切れてる?どうしよう」
馬の背に鞍を乗っけたがベルトが切れている為、鞍を装着する事ができなかった。
「あれ?これもだ」
フレンが行った妨害工作はホーディを悩ませた。どの鞍もベルトが切れており出発の準備が終わらない。
そして少し考えた後ホーディはある結論に至った。
「うーん、結ぶか」
ホーディは切れたベルトとベルトを結んでとりあえず鞍を馬に装着させる事にした。
鞍がしっかりと馬の上に装着しているように見えたホーディは馬を馬小屋から連れ出してリーダスの下へ連れて行った。
「リーダスさん!馬の準備ができました」
「どけ!」
リーダスはホーディを押し除けて馬に跨った。リーダスも急いでいる為ベルトの事は全く気付いていない。
「俺はこの後何したらいいですか?」
「知らん!いつも通り働け!」
それだけ言うとリーダスは颯爽と馬で駆けて行った。
「行ってらっしゃーい!」
ホーディは呑気な事を言ってリーダスを送り出したがリーダスから返事は無かった。
リーダスはベルト同士で結んだだけの鞍に跨り草原を走っていく。
ベルトの結び目は馬が走り揺れるたびに少しずつ緩んでいった。
「見つけたぞ!」
リーダスは道のはるか先にフレンとウェンディを見つけた。
リーダスは馬に鞭を入れて更に加速させる。
馬が加速すると遂にベルトの結び目は解けてしまった。それに気付いていないリーダスは更に馬を加速させて丘を駆け上がっていこうと鞭を入れた。
馬はリーダスの指示に律儀応え加速するとリーダスは外れた鞍と共にズルリと馬の背から滑り落ちた。
「うはっ!」
ドスンと地面に体を強く打ち付けたリーダスはその場でうずくまった。突然リーダスが落ちたことに馬は心配してリーダスの周りをウロウロしているがリーダスは痛みに苦しみ立ち上がる事が出来なかった。
そうしてリーダスはまんまとフレンとウェンディに逃げられてしまった。
一方、リーダスを見送った後ホーディはいつものように庭の掃除を始めた。
庭の掃除をしていると忙しく走り回る使用人がホーディに気付いて駆け寄ってきた。そんな状況でもホーディは呑気に挨拶をした。
「おはようございます、今日は何だか賑やかですね」
「ホーディ!あんたお嬢様とフレンを知らないかい?」
「何かあったんですか?」
「お嬢様がフレンと逃げ出したのさ」
その時初めてホーディは二人が逃げ出した事を知った。そして「だからみんな忙しそうなんだ。そういえばフレンも見てないな」とようやく理解した。
「えー何でですか?」
「ほら、大きい声じゃ言えないけどお貴族様との結婚が嫌だったんだろ。結婚が決まってから暗かったし」
「なるほど」
これについてもホーディは全く知らなかった。淡々と結婚の準備をしていたからてっきり乗り気だと思っていたのだ。
「アンタも何か分かったら直ぐに旦那様に知らせるんだよ」
「分かりました」
そう言って使用人はまた何処かへ走り去っていった。
何か分かったらと言われても何も知らないホーディはそのまま庭の掃除を続けた。掃除をしながら二人は元気かなとぼんやり考えているとウェンディの部屋の窓の隙間に紙が挟まっているのに気が付いた。
窓の隙間から紙を引き抜くとそれは封筒であった。
「あれ?手紙?俺宛だ」
封筒にはホーディの名前が書かれていた。ホーディは封を開けて手紙を取り出して読み始めた。
――ホーディへ
突然姿を消して本当にごめんなさい
私はロマク侯爵との愛の無い結婚をするつもりはなく、フレンと一緒に逃げ出す事にしました。
場所は言えませんが遠くより貴方の幸せを祈っております。
ウェンディより
「お嬢様、本当に逃げたんだ」
ホーディはウェンディとフレンの幸せを祈った。別れを告げずに逃げた事に怒りや悲しみなんて微塵もない。
手紙を読み二人との思い出を浮かべながらしみじみしているとある事を思い出した。
「そうだ!村長に伝えなきゃ!」
ホーディは手紙を持って走り出した。
その時オジーヌは屋敷の玄関前でロマク家から来た執事の対応に追われていた。
花嫁を迎えに来たロマク家の執事だが、その肝心の花嫁が行方不明なのだ。
「これはいったいどういう事ですか?」
鋭い眼光で執事が睨みつけると額に大粒の汗を流しながらオジーヌは答えた。
「いえ、それが娘は使用人が攫ったらしく、今追わせております」
「本当に攫われたのか?」
執事はオジーヌを疑いの目で見ている。それはオジーヌも十分分かっていた。
「本当です。部屋には置き手紙を一つ無く、我々も混乱しております。娘も大変楽しみにしていたのにこんな事態になって……」
オジーヌはあくまでウェンディは結婚に乗り気だがフレンがそれを無理やり阻止した事にしていた。
オジーヌはロマクにウェンディが結婚したがっていると伝えている為、ウェンディの意思で逃げ出したとなると都合が悪いのだ。
そんな時にオジーヌと執事の前にホーディが現れた。
「あ!町長!手紙ならありましたよ」
先程の話を聞いていたホーディは手紙をヒラヒラさせながらオジーヌの下へ駆け寄った。
「ホーディ!何を言って……!」
まさか、予想外の所から手紙が出てきてオジーヌは慌ててホーディを静止しようとしたが執事の方が動きが速かった。
「見せください」
執事が先にホーディの前へグイッと出るとホーディが持ってきた手紙を読み始めた。その手紙を横から覗き込んで読んだオジーヌの顔は真っ青になった。
「あっ、あの!その……これは!」
オジーヌは必死で取り繕うと口をパクパクさせるが何一つこの場を打開できる素晴らしい言い訳が思い浮かばない。
「この手紙を侯爵に渡して判断を仰ぎます。では私はこれで」
執事はそれだけ言うとさっさと帰って行った。まるでオジーヌがいないかのように無視して淡々と馬車に乗り込んだ。
「そんな……」
馬車は花嫁を乗せずに出発してあっという間に小さくなり見えなくなった。
それを呆然と見る事しかできないオジーヌはその場で崩れ落ちた。そんな生気が抜けたオジーヌにホーディは声をかけた。
「村長、この後の仕事は何したらいいですか?庭の掃除は大体終わったんですけど」
あまりにも状況を読めていないその発言にオジーヌは村中に響き渡るような大声で叫んだ。
「お前は追放だ!二度とそのツラを見せるな!」
ホーディは特にウェンディとフレンの逃走に関係なかったが村から追放された。




