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村の生活

ホーディと妹のリトスは都から離れた小さな村の一軒家に二人で暮らしていた。

 両親と家族四人で慎ましく幸せに暮らしていたが数年前の流行病で両親を同時に亡くした。

 働き者だが少し抜けている兄ホーディと優しくしっかり者の妹リトスは二人で力を合わせて生活をしていた。

 二人の朝は早く、まずは庭にある畑の手入れから始まる。二人で雑草を抜き、作物に水をあげて、その日に食べる野菜を取って朝食になる。

 二人で朝食の準備をして、席に着くと一緒に朝食を食べ始める。これは四人で暮らしていた時からの習慣であり、必ず家族揃ってご飯を食べるのだ。

 朝食を済ませると村長の屋敷に仕事へ行く。この村に仕事らしい仕事はなく、お金を稼ぐ為には村長の下で働くしかない。

 そうして仕事へ行く準備が終わり意気揚々と外に出たホーディの後ろからリトスは大声を出した。

「お兄ちゃん!お昼忘れてる!」

 リトスがホーディのお弁当を持って家から出るとそれをホーディに渡した。

「本当だ、ありがとうリトス」

「ほら寝癖も」

「ありがとう」

 ホーディの後頭部の寝癖を甲斐甲斐しく直し真っ直ぐになったのを確認したリトスはホーディの背中をポンと叩いた。その手つきは手慣れておりこの二人のやり取りは幾度となくあったのが容易に想像できた。

「直ったよ、じゃあ行こう」

 二人は仲良く話しながら村長の屋敷に向かった。歩きながら外で農作業をしている村人に会うとそのたびに挨拶をしほんの少し雑談をしてまた歩き出す。そんな事を繰り返しながらようやく屋敷の前に着いた。

 村長の屋敷は村の中でも一際大きい建物である。大きいと言っても都の建物と比べると大したものではない。しかしこの小さな村で暮らすには無駄に大きな屋敷であった。

「じゃあねお兄ちゃん」

「うん、頑張って」

 二人は屋敷の玄関前で別れるとそれぞれの持ち場に向かった。リトスは屋敷に入りホーディはそのまま外を歩いていく。

 屋敷の外には庭仕事用の使用人が使う小屋がある。ホーディが小屋に入るとそこには既に一人の男性がいた。

「おはよう、ホーディ」

「おはようフレン、いい天気だね」

 ホーディに爽やかに挨拶したフレンという男はホーディの同い年の幼馴染である。

 爽やかな短髪に凛々しい顔立ちの彼はこの村の中で一番の男前である。

「今日の仕事は庭の落ち葉の掃除と冬に備えて薪を作る」

 フレンは屋敷のまとめ役から指示された内容をホーディに伝えた。

 ホーディはそれを聞くや否や「分かった、よし行こう!」と言い仕事を始めようと出て行こうとした。

「その前にまとめ役に顔出せ、サボりになるぞ」

 そんなホーディをフレンは慣れた様子で止めた。フレンはホーディとの付き合いが長いのでこんな事はしょっちゅうあった。

「リーダスさんはこっちだ」

 フレンはまとめ役であるリーダスの下へホーディを連れていった。

 リーダスはこの村でも一際大きな男である。ここに来る前は冒険者として暮らしていたが、歳を理由に引退して村の警護をするようになった。

 冒険者を歳で引退したとはいえその体は鍛えられており、ただの村人であるホーディとフレンでは束になっても敵わない。

 顔にも傷があり怖い見た目であるリーダスにホーディは遅刻をしながらも元気に挨拶をした。

「おはようございます!リーダスさん!」

「ようやく来たか、今日の仕事は聞いたか」

「はい!」

「じゃあ直ぐに取り掛かれ」

 リーダスに簡単な挨拶をしたホーディはフレンと一緒に庭の掃除を始めた。

 庭と言っても貴族が所有しているような大庭園ではない。それでも自然の多い田舎の為、多くの木が生えており放っておくと庭中落ち葉だらけになる。

 そんな落ち葉だらけの庭を二人は雑談をしながら掃除を始めた。手慣れた様子で箒で落ち葉を掃いていく。落ち葉を一箇所に集めてまとめると、また場所を変えて落ち葉を集めていく。

 そうやって2人で庭の掃除をしていると女性が声をかけてきた。

「おはようございます。フレン、ホーディ」

 屋敷の窓を開けて声をかけてきた女性の名はウェンディ、この屋敷に住む村長の娘である。

「おはようございます、ウェンディお嬢様」

「おはようございます!お嬢様!」

 フレンは爽やかに挨拶をし、ホーディは大声で挨拶をした。

「お兄ちゃん、声が大きい」

 ホーディの大声を注意したのはリトスである。外からは見えなかったがリトスはウェンディの後ろに立っていた。使用人の服に着替えたリトスは背筋をピンと伸ばしていかにも仕事ができる雰囲気を漂わせていた。

「ふふっ、いいのですよ」

 そんな微笑ましい兄妹のやり取りをウェンディは楽しそうに眺めていた。そんな笑顔のウェンディをフレンは見つめていた。

 その視線にリトスは直ぐに気が付いた。

「そうだお兄ちゃん、ちょっと荷物を運ぶのを手伝って」

「いいよ」

 唐突なリトスの頼み事にホーディは二つ返事で承諾した。

 リトスが部屋を出る際ウェンディにイタズラっぽくウインクをした。それを見たウェンディほんの少しだけ頬を赤らめ「もう!」と一言つぶやいた。

 そんなやり取り見せられたフレンはリトスに感謝しつつ窓に身を寄せてウェンディと話し始めた。

「お節介な奴だな」

「本当ね」

「今日は何をするの?」

「庭の掃除をして、その後山に行って薪の準備をします」

「気をつけてね。冬眠前の熊がいるから」

「肝に銘じます」

 仲睦まじく話す二人はただのお嬢様と使用人の関係を超えているのは誰が見ても明らかである。

 一線こそ超えていないが二人は相思相愛であり、この窓越しで秘密の愛を育んでいた。

 二人が時間を忘れて話し込んでいると扉を叩く音が聞こえて先程ホーディに仕事を頼んだリトスが部屋に入ってきた。

「お嬢様、旦那様がお呼びです」

「分かったわ」

「それじゃあ俺も仕事に戻ります」

「帰ってきたらまたお話ししましょ」

「ええ、その時は花でも持ってきます」

 フレンは軽く手を振ってウェンディと別れ再び庭の掃除に戻っていった。

 ウェンディは部屋を出てリトスと共に父である村長の部屋に向かった。

 リトスを部屋の前に待たせて部屋に入ると村長がニヤニヤとご機嫌な様子で待っていた。この村の村長でありウェンディの父であるオジーヌ、小太りで頬にもたくさんの肉がつき肉体労働とは無縁の生活をしているの容易に想像ができた。

「お父様、話と言うのは?」

「お前の結婚が決まった」

 オジーヌの言葉にウェンディは息を呑んだ。まだ二十歳にもなっていないウェンディにとって結婚とはまだまだ先の話であると関係ない事だと思っていたからだ。

 それでもウェンディは震える声でオジーヌに質問をした。

「……それはどちらの方と」

「喜べロマク侯爵だ」

 オジーヌは下品な笑みを浮かべながら答えた。

 ロマク侯爵の噂はウェンディも知っている。色々黒い噂が絶えないがその身分を使って無理やり揉み消していると聞いている。

 そんな怪しい人物の下へウェンディは嫁ぐ事になったのだ。

「ロマク侯爵には確か夫人がいたはずでは?」

「そうだ、お前は妾として第二夫人として嫁ぐのだ。そうすれば侯爵はこの村への道を整備して貯水地も作ってくれるそうだ」

 オジーヌの明るい表情と比べウェンディの表情は真っ青であった。

「……それは喜ばしい事です」

「そうだろ?一週間後に迎えが来る。それまでに準備を済ませておけ」

 ウェンディが絞り出した返事にオジーヌは満足そうに答えた。父であるはずのオジーヌはウェンディの事を全く見ていない。これから潤う村の事で頭がいっぱいであった。

 オジーヌの部屋から出るとこちらも真っ青な顔のリトスが立っていた。結婚に浮かれるオジーヌの大声は扉の向こうでもはっきりと聞こえていた。

 ウェンディは何も言う事なく自室に戻り、リトスも何も言えずただ着いていくことしかできなかった。

 自室に戻ってからもウェンディは何も話さず、リトスもまたウェンディが切り出すまでジッと待っていた。

 窓の外を見つめているウェンディは外を見たままリトスに問いかけた。

「ねえ、リトス」

「はい、お嬢様」

「この申し出を私は受けた方がいいの?私が嫁ぎさえすれば貴族の庇護に入ってこの村も豊かになるでしょう」

「家に使える立場からは何も言えません」

 リトスの答えは使用人としては正しかった。使用人が貴族との結婚に意見するなどあってはならない事だ。

「じゃあ私の親友としては?」

 ウェンディは振り返りリトスの瞳を見て問いかけた。その瞳には潤んでおり、リトスに助けを求めているのは明白であった。

 リトスは少しだけ使用人の肩書きを捨て、親友として自分の思いをウェンディにぶつけた。

「ウェンディには幸せになってほしい。ウェンディがフレンの事を好きなのは昔から知ってるから」

 リトスの言葉をグッと噛み締めたウェンディは先程の潤んだ瞳から何か決意をした凛々しいものに変わっていた。

「……じゃあこれは親友からのお願い。命令じゃないから断ってもいい」

「断らないよウェンディの頼みなら」

 リトスはお願いを聞く前に即答した。勿論これはお世辞でも嘘でもなく心から出た本心である。

 ウェンディはこんな親友を持って幸せであった。

「ありがとうリトス。私とフレンが逃げるのを手伝ってほしい」

 

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