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真相

「うるさい!お前は帰れ!全く……なんでワシが素材を集めなければならん……」

 ワーマに声を掛けただけで何故か怒鳴られたホーディはその小さくなっていく後ろ姿をぼけっと眺めていた。

「えー、みんな出てっちゃった。帰っていいのかな……」

 少し考えたホーディはとりあえず納屋に自分の荷物を取りに行った。言われた通り今日は帰ろうと決めたのだ。

 荷物を持って帰ろうと正面門を潜るとさっきまでいなかった厳つい男が立っていた。今日二度目である。

「おい!」

「はい、なんですか」

「おい、ワーマは何処だ?」

 男は見るからにイラついているがホーディはごく普通に対応した。

「なんかみんなで出掛けましたよ。素材がなんとか言って」

「そうかちゃんと作る気なんだな」

 男はそれを聞いて安心した。表情もどことなく和らいでいるように見える。それでも男は帰ろうとしないでホーディの前に立った。

「それでどうしました?」

「とりあえず完成した炸裂玉だけでも寄越せ」

「サクレツダマってなんですか?」

 ホーディはゴミ処理しか仕事をさせてもらえないので研究所の事は何一つ知らなかった。なのでこの厳つい男が先日ホテルですれ違ったサッキーノファミリーである事も全く知らない。

「ワーマに作らせてる魔導具だよ!さっさと寄越せ!」

「分かりました」

 イライラする男の指示に従いとりあえずホーディは研究所の扉を開けに行った。しかし何度ドアノブを捻っても扉は開く事はない。

「鍵が閉まってます」

 緊張感無く告げたホーディに男は痺れを切らした。

「おいどけ」

 男がホーディを有無を言わさず押し退けると、男は扉に向かって力任せに蹴りを入れた。すると扉はバンと大きな音を立て勢いよく開いた。

 流石のホーディも扉を蹴破るとは思っておらず心配そうな表情をしている。

「いいんですか?」

「いいんだよ、ワーマとは友達だからな」

「なら大丈夫ですね」

 何一つ大丈夫ではないがホーディは男の言葉に納得して研究所の中に入っていった。

 初めて入る研究所はホーディが見たことの無い物で溢れており、どの机も綺麗に整頓されていた。

 キョロキョロと研究所の中を探すホーディだが重要な事を忘れていた。

「炸裂玉ってどんな見た目ですか?」

「赤い色した球だ見れば分かる」

「分かりました」

 男の発言を頼りにホーディが研究所内をうろつくと赤い球がいくつも収められた箱を見つけた。

「あった!これだ!」

 ホーディは迷わずそれが炸裂球だと分かった。実際それは炸裂球であるが今はまだ中身のないただの容器である。

 そんな事を知らないホーディは箱を持ち上げて急いで男の待つ玄関に向かった。

「お待たせしました!これですね!」

「早く寄越せ」

 ホーディから箱をひったくると男は炸裂球の容器が入ってるのを確認してお礼も言わずにさっさと帰ってしまった。

「さて、俺も帰るか」

 ホーディも帰ろうと玄関から出ようとした時、奥の部屋からガタガタと何か動く音が聞こえた。ホーディが研究所の中を探している時にはそんな音は聞こえていなかった。

「まさか……泥棒!」

 無駄に正義感の強いホーディは帰るのやめ音の正体を突き止めようと決心した。」

 ホーディは慎重に歩みを進め音がする方へ行くと、そこは地下に繋がる階段があった。

「地下から音がする」

 ホーディは躊躇する事なく階段を降りていく。

 階段を降りた先は何やら見慣れない機器が大量に置かれており、謎の水晶玉がギラギラと光っていた。

 ホーディが辺りを見回していると大きな檻を見つけた。そこには小さなドラゴンが入れられており、ホーディを見つけると奥に引っ込んで身を縮めた。

「お!君か!ここのペットかな?ドラゴンを飼うなんて都は変わってるなー」

 ホーディが呑気にドラゴンを観察していると、ドラゴンは敵意が無いと分かりゆっくりとホーディに近付いてきた。

「キュルル……」

 ドラゴンはホーディに向かって情けない鳴き声をあげた。それはドラゴンにあるまじき弱々しい鳴き声である。

 ホーディはドラゴンが何かを訴えていると思いった。

「どうした?お腹減ってるの?俺のリンゴでよければあげるよ」

 ホーディは鞄の中から昼食のつもりで持ってきた林檎を取り出した。ドラゴンにあげようと檻に突っ込むが林檎は檻の隙間から入れることができなかった。

 そこでホーディは檻の鍵を開けて扉を開いた。

 ちなみにこの檻には下の方に食事を出す用の小窓があるがホーディは全く気付いていなかった。

 ホーディはドラゴンに林檎を差し出した。ドラゴンはそれを恐る恐る首を伸ばしてホーディから受け取った。ホーディから林檎を貰ったドラゴンはムシャムシャと林檎を頬張った。これまでろくな食事をもらえなかったのだろう。

 そんな嬉しそうに林檎を食べるドラゴンをホーディはにこやかに見守っていた。

「美味しい?」

「キュルー!」

「よかったーそんなに美味しいかー、じゃあこれもあげる」

 今度は鞄の中から干し肉を取り出してドラゴンに与えた。ホーディのお昼は無くなったがホーディはそんな事全く気にしていなかった。

 先程まで恐る恐る貰っていたドラゴンは干し肉に飛びつき、それも美味しそうに平らげた。

 ホーディはそれからドラゴンを撫でて可愛がり、ひとしきり遊んであげた。ドラゴンは初めて見た時と見違える様に活発になりホーディとのじゃれ合いを心行くまで楽しんだ。

「じゃあね、帰れって言われてるから」

 ドラゴンとの戯れに満足したホーディはドラゴンに手を振ってその場から立ち去った。ドラゴンは寂しそうな表情をした。

 ――あの人はまた来てくれるのだろうか

 ――ここから連れ出してくれないのか

 ――また美味しいご飯が食べたい

 そんな事をドラゴンながらに考えていた。

 寂しさのあまり無駄だと理解していながら檻の扉を押してみた。すると扉は簡単に開いてしまった。ドラゴンは何が起きたか分からなかった。

 実はホーディは檻の鍵を開けた事をすっかり忘れており、開けっぱなしのまま帰ってしまっていたのだ。

 ドラゴンは檻から顔を出して周囲に誰もいない事を確認すると空気が流れ光が差す階段を上っていった。

 ドラゴンは地下に閉じ込められて以来、この時をずっと待ち望んでいた。今のドラゴンの心の中は自由になった感動と閉じ込められていた恨みの両方が渦巻き、その衝動は破壊行動によって発散された。ホーディへの気持ちなんてすっかり忘れてしまっている。

 ドラゴンは目に見てる物を手当たり次第その長い爪と尻尾で破壊していった。柱を折り、屋根を燃やし、床を叩き割った。

 ものの数秒で研究所の中はぐちゃぐちゃになりゴミの山になった。

 心のままに暴れ回ったドラゴンは満足したのかぽっかりと穴が開き空が見える天井から空に飛び立った。そして最後に今までのお礼だと言わんばかりに屋根にできた穴に向かって炎を吹き出した。

 そしてドラゴンは自身の故郷に向かって飛んでいった。久しぶりの空は高く広く自由であり、ドラゴンは気持ちよさそうに飛行を楽しんだ。

 一方研究所は上から降り注いだ炎が瞬く間に広がりあらゆる物を燃やし尽くした。

 その中には炸裂球の素材に必要となる、引火したら非常に危ない代物もあった。

 そして研究所から大地を震わすような大爆発が起こった。


 翌日。

 ホーディが納屋の片付けの為にワーマの研究所に行くと、研究所は跡形もなく無惨に崩れ瓦礫の山ができていた。

 ドラゴンが壊したのは研究所だけだが、怒り狂ったワーマが暴れ回り塀や門、納屋、周りの無関係の住宅まで破壊されていた。

 これまで建物が封鎖されたり、火事になり外壁が落ちた事はあったが建物自体が跡形もなく崩れているのはホーディにとっても初めてであった。

「研究所が無くなってる……また潰れちゃった」

 ホーディは明日からの仕事の心配をした。

 

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