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ワーマ研究所

魔導士ワーマの研究所は都の外れにある大きな建物である。

 飾り付けの無いシンプルな外観はワーマの性格をよく表しており、無駄な見た目より機能性を追求していた。

 およそ三十人の研究者がワーマの研究所に在籍しており、その誰もが魔導士として極めて優秀なエリート達であった。

 そんな研究所の中ではワーマとその助手が話していた。

 ワーマは長い白い髭を蓄えた高齢の男性である。柄の無い黒いローブだがそれが逆に彼の威厳をより一層際立たせていた。

「魔導士ギルドからの提案はどうしますか?力仕事を任せられる人材を派遣すると。確かにそういう人材を求めていましたがこのホーディという男は魔導士どころかギルドの職員ですらありません」

 助手からの報告にワーマは長い髭を撫でながら答えた。

「確実に罠だろう。どうやらギルドではワシが作った隷属の短剣の鑑定をしているらしい」

「まさかもうバレたのですか!」

「いや、確証があるならそんなことしない筈だ。おそらく何かしらの探りを入れたいのだろう。バレバレだがな」

 ワーマは冷静に魔導士ギルドの、ミラールの考えを分析した。そしてその分析は見事に当たっていた。勿論ミラールもその事は想定済みである。

「では断りますか?」

「断るのは簡単だが今度はどんな提案をしてくるか分からない。とりあえず受け入れて外の納屋でも掃除させておけばいい。ギルドには短期なら受け入れると言っておけ」

「分かりました」

 ワーマの指示を助手はメモを取り記録した。そんな事よりワーマが気になっていることがあった。

「それよりドラゴンの様子は?」

 ワーマが気にしているドラゴンとはこの研究所の地下で飼育されているドラゴンの子どもである。

「今のところ順調に成長しています。これならあと数ヶ月で素材になります」

「よろしい」

 ワーマは助手の報告に満足気な表情をした。

「それとサッキーノファミリーから催促の連絡が……早く魔道具を作れと」

 助手が申し訳なさそうに報告するとワーマは先程とは打って変わってあからさまに不機嫌な顔になった。

「ちっ、戦うしか脳のないアホ共が。抗争なんてして魔道具を無駄使いするからだ!」

「でもサッキーノからの支援が無ければ研究も続けられませんよ」

「分かっておる!ミラールの老ぼれがドラゴンの捕獲を禁止しなければマフィアに頼らなくてもよく、こんな事にならなかったのだ!忌々しい!」

 ドラゴンの素材は魔法の研究において非常に重要な物であった。その為その素材は高値で取引されドラゴンは冒険者によって乱獲された。

 著しく数を減らしたドラゴンを保護する為に魔導士ギルドのミラールと冒険者ギルドのハンスはドラゴンの狩猟制限を取り決めた。

 これにより研究所に対して卸されるドラゴンの素材は激減し、外国から輸入するにはさらに多額の資金が必要になった。

 ワーマはドラゴンの素材を入手する為にラグーロ商会に違法な魔導具を売り金を作り、サッキーノファミリーからドラゴンの子供を裏取引していた。

 ワーマにとって自身の研究がこの世で最も優先させる事であり、それによって犯罪に手を染めることなど全く気にならなかった。

「それでどうします?」

「手の空いてる奴を集めて作らせろ!ワシは研究に忙しい」

 恐る恐る聞いた助手にワーマは怒鳴りつけるように指示を出した。ワーマはとにかく自身の研究を邪魔させるのが我慢できなかった。

「分かりました」

 そんなやり取りがあった数日後ホーディはワーマの研究所の前にいた。

 ホーディはアッシーから力仕事出来る人を探している研究所があるとだけ伝えられて、ワーマの研究所に出向させられた。

「今日からここで働かせてもらいます!ホーディです!よろしくお願いします!」

 ホーディは玄関先まで出てきた助手に元気に挨拶をした。

「はい、よろしく」

 助手ははなから相手をするつもりが無いのか淡々とした口調で話している。

「よろしくお願いします!」

「ホーディ君には研究所の外にある納屋の掃除をしてもらいます」

「はい!」

 助手は研究所の中に入れずにそのまま広い庭にある納屋に案内した。ワーマは警戒をしておりホーディには研究所の中に一歩も近付けないよう助手に厳命していた。

 魔導士ギルドからの回し者であるホーディが研究所の中に入れば何をさせるか分からない。ワーマの判断は的確であった。

「中にあるのは不要な物だけだから全部処分して貰います。ここの掃除が終われば契約満了です」

「頑張ります!」

「処分方法は分かりますか?」

「いいえ!分かりません!」

 元気よく分からないと言ったホーディに助手は呆れつつ丁寧に説明してあげた。

「木製の家具は分解して薪にして下さい。金属は工房に持っていけば引き取って貰えます。陶器は街の外に処分場がありますのでそこに。本や小物は燃やしていいです」

「分かりました!」

 元気に返事をしたホーディに助手はほんの少し不安を覚えた。しかしどうせ中に入っているのは使わなくなった物ばかりなのでどうなってもいいかと思い、特に何も言わずに後のことをホーディに任せた。

 ホーディが納屋の扉を開けるとそこには物置とかし、乱雑に積み上げられた不用品の山があった。本は棚の中にギチギチに収納されたり、そのまま床に置かれて積み重なっていた。

 家具も壊れかけのまま放置されており、少しでも触るとバラバラになってしまいそうである。

 天井には蜘蛛の巣が張っており、空気も悪く埃臭かった。

「よし!頑張るぞ!」

 そんな酷い有様の物置を見てホーディは気合を入れて掃除を始めた。

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