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真相

ホーディが支配人から仕事を貰い地下にあるボイラー室に向かっていると正面から来た赤髪の男に声をかけられた。

「お前、ライルズが言ってた新入りだろ?」

 突然知らない男に知らない名前を出されたホーディは立ち止まり少し考えたがライルズと言う男に心当たりは無かった。

「えっと誰でしょう?ライルズって人は」

「頬に傷がある奴だよ。お前と話してた」

「あー!そうです!新入りのホーディです!よろしくお願いします」

 ホーディは赤髪の男に頭を下げてボイラー室に向かおうとしたらまた声を掛けられた。

「おい、何処行くんだ?組員は全員で警備だ」

「え?でも支配人に仕事頼まれてんですけど」

「あんな奴ほっとけ。あんな奴より俺の方が偉いんだ。お前は俺の代わりに非常階段に立っとけ」

「えっと……分かりました」

「言ったからな。急いで行けよ」

 そう言い残すと赤髪の男は何処かへ行ってしまった。

「どうするか……」

 一人残されたホーディは困ってしまった。

 支配人からは火を絶やさないよう見張を頼まれており、さっきの男からは外の警備を代わりに任された。

「そうだ!火を消しちゃいけないなら沢山薪を焚べればいいんだ!」

 名案を思いついたと誤解しているホーディは急いでボイラー室に向かった。

 

 ボイラー室で薪をこれでもかと大量に焚べたホーディは急いで外に出てホテルの裏手に回った。

 裏手にもガラの悪い輩が多く立っており、場違いな見た目のホーディをジロジロ睨みつけた。アトゥカーラファミリーの組員は勿論、余所者を信用するわけがなくサッキーノファミリーの組員も警備をしている。

 喧嘩にはなっていないが互いに睨みつけたりと物々しい雰囲気が漂っていた。

「非常階段の警備に来ました」

 そんな重い空気なんて微塵も感じとれないホーディは非常階段の前にいた男に声を掛けると男は訝しげな目でホーディを見た。

「誰だお前?」

「えっと赤い髪の人が代わってくれと」

「あ?あの野郎サボりやがったな」

 男は不機嫌そう顔になったがホーディは全く気にしない。

「それで何処に行けばいいですか?」

「四階の扉の前に立っとけ。怪しい奴を絶対に出入りさせるなよ」

「はい!」

 男から指示を受けるとホーディは元気に非常階段を登り始めた。

 非常階段は表と違いそこまで綺麗ではなく、掃除道具や木箱など踊り場に置かれていた。

 ホーディは四階に着くと非常ドアの前に立った。そこでホーディは何をするわけでもなくジッと言われた通りそこに立っていた。

 寒空の下、外で警備をしている双方の組員は手を擦ったり肩を動かしたりと何とか体を温めようとしていた。

 そんな中、下の方から階段を上る音が二つ聞こえてきた。

「さみーな」

「俺らも中に入りたかったぜ」

 二人組の男はどうやら外の警護を任されて不満があるようだ。二人が四階まで上ってくると「おい!お前!」と男の一人がホーディに向かって偉そうに声を掛けた。

「俺ですか?」

「寒いから酒買って来い!」

「え!でもここに立っとけ言われてんです」

 突然命令された事よりも仕事が気になるホーディは強面の男にも平然と反論した。

「ああ?早く行けよ」

 それでも男はホーディに対して偉そうに命令する。

 どうしたものかと困っていたホーディはある事に気がついた。

「もしかしてサッキーノファミリーの人ですか?」

「そうに決まってんだろ」

 ホーディは思い出した。支配人がサッキーノファミリーの要求は応えるよう言っていた事を。

「分かりました!直ぐに行きます」

「分かりゃいいんだよ」

 そう言うと二人組は雑談をしながら階段を上っていった。

 ホーディは少しの間考えた。

 ――ここを警備しろ言われたけどサッキーノファミリーのお願いも聞かなくちゃいけない……どうするか……

 そうして一つの答えを導き出した。

「少しの間だけこれで押さえとくか」

 ホーディは自分が外している間に誰か出入りしないよう近くにあった箱を扉の前に置いた。積み重なった箱はちょっとの力では微動だにしない程ど厳重に扉を押さえつけた。

「よし!」

 ホーディは満足気な顔してから勢いよく階段を駆け下りていき、酒を買う為に夜の街に消えていった。


 ホテルの中ではアトゥカーラファミリーの組員が機嫌悪そうに話しをしていた。

「ちっ、サッキーノの奴等偉そうにしやがって」

「ボスからの命令だ、今は我慢しろ」

「必ず潰してやる」

 男達の視線の先にはテーブルに置かれた高級料理と酒を堪能しているサッキーノファミリーの組員達がいた。

 ボス以外にもサッキーノファミリーには料理が振る舞われており、その対応に増長したサッキーノファミリーは料理が足りないやら酒を持ってこいやらと好き勝手に振る舞っていた。

 サッキーノファミリーのホテル内での振る舞いにアトゥカーラファミリーは我慢の限界に達していた。

 そもそも気の短い奴等が多い為、あと少し、ほんの少し刺激を加えれば簡単に争いが起きるのは容易に想像できた。

 そしてそんな時に狙ったかのように問題はやってくる。

 何やら扉の向こうが騒がしい。

 アトゥカーラファミリーの男が気になり扉を開けると下の階から煙が上がってくるのが見えた。吹き抜けから見下ろすフロントは煙が立ちこめて何が起きているのか全く分からない。

「何だ?煙?」

 何が起きたか分からず呆然としていると下から大声が聞こえた。

「おい!地下から煙が出てるぞ!火事だ!」

 騒ぎを聞きつけたサッキーノファミリーが頭を覗かせて様子を見ている。

「なんだこれ!火事じゃねーか!」

「一旦外に出るぞ!」

 一同部屋から慌てて飛び出した。サッキーノファミリーが避難誘導し非常階段に繋がる扉に手をかけた。

「開かない!」

 アトゥカーラファミリーの男が非常扉を開けようとするが扉の向こうで何かが置かれているらしく全く動かない。

 いつまで経っても扉を開けない事にサッキーノファミリーの男が見ていられずアトゥカーラファミリーの男を押し除けた。

「おい退け!」

 後ろから強引に引っ張られ転倒したアトゥカーラファミリーの男は遂に積もり積もった我慢の限界に達した。

「何だ!やんのか!」

 転倒させられた男は扉を開けようとする男の背中を蹴飛ばした。それを見た周りの男達も一気に頭に血が上る。

「やんのかゴラ!」

「やるぞゴラ!」

 キレた男達は腰の剣を抜き切りかかった。相手がサッキーノファミリーだろうがホテルの中だろうが全く関係ない。

 戦闘が始まると他の階から騒ぎを聞きつけた双方の組員が戦闘に参加した。

 その内の一人、サッキーノファミリーの男が服の中から赤い球を投げつけてきた。

 その球が床に落ちると光が激しくなり爆発した。それをモロに受けた人間は吹き飛ぶ窓ガラスを突き破って外に落ちていく。

「爆発だ!」

「魔道具を使いやがった!」

 ホテル中は火事の煙を無視して争いが勃発した。一階から五階まで全ての階で両者入り乱れる激しいものである。

 マフィアと関係ない一般人のスタッフは悲鳴をあげながら必死で外に避難していった。


 ホテルの戦闘は外でも聞こえ騎士団が一般市民の避難誘導をしている。

「お金貰ってなかった……あれ?」

 酒を買いに行ったはいいもののお金を忘れたホーディが急いで戻るとなんだか街の人間が騒がしい。みんなホーディとは逆方向へと走っていく。

 何が起きたのだろうと疑問に思いながらもホテルに着くとホーディは足を止めた。

 ホテルの窓が割れ、怒声が中から聞こえて玄関前では騎士団が必死に避難誘導をしている。

 割れた窓から煙が立ち上り、時折窓から勢いよくよく煙が吹き出してそこから人が落ちてくる。

 あの美しい外観のホテルはホーディが少し目を離した間に廃墟同然になってしまった。

「えーなんだこれ……」

 その有様をホーディはそれをただ呆然と眺める事しか出来なかった。

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