35話目─ヒッガーザ城下街─
───── 蒼月(7がつ) 下旬 ─────
ヒッガーザ国首都制圧。
その報が届いたのは初夏から真夏へと変わる頃だった。
元々ヒッガーザ国はノワルとアルダーナ国のおかげで滅びずに居たような国だったらしい。
そして、ヒーガーザ城に第一大隊と第四大隊が詰め。
第三大隊が城下町の治安維持に配備された。
第二大隊や第五大隊では少々威圧的すぎ、唯でさえ友好的でないのに力で抑えたら落ち着くものも落ち着かなくなる。
それも杞憂に終わったみたいで、思ったほどヒッガーザ国の人達も好戦的ではないようだった。多少はノワル国へ逃げたが、もう大半は残りそのままの生活を送っている。
多少は怯えた風ではあるけれど、それでも暮らしていく度胸はすごいなと思ってしまった。
それにしても気掛かりなのが何点かあった。
ヒッガーザ国を攻めたのにノワル国は動かなかった事。
ドリムス国は人間達が納める国なのに何も干渉してこなかった事。
裏切り者である俺があまり知られていなかった事だ。
3つ目の俺の顔が知られてないのは、ノワルが顔の情報等をもみ消したのかもしれない。
行方不明とでもされたんだろうな。
そして、一つ目……これはヒナと二人で街を巡回している時、ノワルから来た商人が教えてくれた情報でわかった。
ノワル国は新しい勇者を総指揮官に西伐を行い、巨人族が治めるオーグァ国を滅ぼしたと言っていた。
それも、ノワル国の被害はほとんどなかったらしい。
元来巨人族というのは人間や魔族達より遥かに強い固体種だ。
巨人族一人でコボルト続百人よりも強いと言われるほどに。
それを被害を受けずにオーグァ国を倒した。
竜族が収めるアッシュ国と戦争中だったとはいえ、異常なまでの制圧速度……
これも勇者の能力によるものなんだろうか?
ノワル国は一体何人……何人呼べば気が済むんだ……
俺は後何人あの世界の人達を斬ればいい?
巻き込まれた人しかいないあの人達をあと何人……
それとも……戦うからか?
「──とりあえずはこんな感じで行こうか……でシュン話はちゃんと聞いてたか?」
リョウの呼び声に思考が中断された。
何をしていたんだったか?
「あ……聞いてなかった……」
「頼むよ副隊長さん。じゃあ、確認も兼ねてもう一度言うぞ? 今後はこのまま戦力を整えながらノワル国の出方を伺う。そして……ドリムスと国境線が隣接したから、ドリムスと共同戦線を張れないかと相談に向かう……こんな所だな」
ん…? 副隊長…?
「リョウ、副隊長って誰が?」
「ん? 誰がってシュンお前だよ、本日付けで第三大隊の副隊長に任命する」
おかしくないか?
俺は第三大隊に所属されてまだ数日しか戦場に出ていない。
確かに相手の下士官とか何名か討ち取ったし。
「俺じゃなくてヒューリーとかの方が適任じゃないのか? 実戦経験も豊富だし」
「シュンに決定だ、補佐はココスがやってくれるから大丈夫だろ」
何故一番経験のない俺なんだ? ジーノとかもいるのに……
「適材適所……だとは思うぞ? 指揮官ってのは二種類居ると俺は思ってる。一つは安全な場所で作戦を練り戦うタイプ。もう一つは前線に立ち兵士達を引っ張るタイプ。シュンは後者だと思う」
それならヒューリーもジーノもだって後者なはずだし。
ヒューリーは俺よりも強いと思うんだけど。
思考が追いついていないせいか頭の中で「何故?」と繰り返し続ける。
「少なくともだ……ウチらの中で異議を唱えるのは、シュンお前だけだから」
「え……ええええぇぇぇ!?」
周りを見ても皆頷いている。
副隊長ってもなにをすればいいんだろうか?
「普段は俺の補佐を頼む、戦場では指示出すがその時の判断で動いてもらう時もあるから頼む」
退路は絶たれたという事か。
やれる事はやろう。
守ると決めたじゃないか、今更かな。
───── ヒッガーザ城下町 ─────
それにしても、占領されたばかりの街とは思えない程の活気だな……
確かに人は減ったとは思う。
実際空き家は結構あるのだから。
この国の街の人々は魔族に対しても友好的な人も多い。
ハーピー族を見ると男は戸惑っていたけれど。
正直な話、魔族の方が問題を起こす割合は多いのは困った……
実際目の前でその問題を起してる兵士が居るからな……
「人間は怯えて媚を売ってればいいんだ!」
何処の部隊だろうか、第三大隊には居ない蛇のような体躯のナーガ族みたいだけど。
ヒナとココスの三人で巡回中なんだけれど、ハルバードを持ったナーガ族の兵士三人が露天商に向かって騒いでるようだ。
「ですが……」
「貴様を殺してすべて奪ってもいいんだぞ?」
どうやら銀細工を見て気に入ったらしいが、お金を支払わずに寄越せと言っているようだな。
魔族にも反吐の出る者が居るのは事実だ。
というか、こんな奴が国の兵士というのが恥ずかしい。
「こらこら! 叔父さんが困ってるでしょ! 何処の所属だい!?」
って、いつの間にかヒナがナーガ族の兵士達の目の前まで言ってる!?
「シュン様、私たちも行きましょう」
「ああ、行こう」
追いつく頃には兵士が何時襲い掛かってもおかしくない雰囲気と化していた。
中央に居るナーガ族はヒナと口論しているが後ろに控えてる二人は武器を構えいつでも斬りかかれるようにしている。
「人間のなにが悪いのさ! 間違ってるのはそっちじゃない!」
ヒナも怒りを露に……いや、元々怒ってたか。
後ろに居るナーガ族二人にも警戒しているから正直ヒナ一人でも大丈夫だけど、俺達も手助けしないとな。
「俺は第三大隊副隊長のシュンだが、君たちの所属は何処だ?」
そう一言言うだけで奥に控えてる二人は顔を青ざめていく。
中央に居るナーガ族は頭に血が上っているのか意味がよくわかっていないみたいだけれど。
「ああ!? それがどうした、俺は第五大隊の指揮官ザーガンド様だぞ!」
第五大隊? 何故こんな所に第五大隊が居るんだ。
第五大隊はアグニスに戻ってるはずだ。
どうやら後ろの二人は焦った表情をしているから軍の命令で来たわけではなさそうだな。
「占領とはいえアグニスが管理する街だ、国を守る兵士が治安を下げるような事は止めてほしいのだが」
「人間が偉そうな事を…… 人間は俺達に貢ぐために生きてる種族だろうが!」
なんという傲慢な態度だろう。
第五大隊と言ったな……確かバダルギスの軍団か。
本当にアイツの所はろくな奴がいないんだな。
嫌でも溜息が出る……
「てめぇ……殺すか……」
どうやら俺の溜息が挑発していると思ったようで、ナーガの蛇顔が徐々に赤くなっていく。
ココスが抑え込もうと前に出るがそれを手で制す。
ヒナもココスに下がらせる。
人間を見下し、国の兵士というだけで偉いと思っている傲慢な奴には反吐が出る。
少しお灸を据えてやるか……
「いいだろう、俺が相手になるよ。後ろの二人も来い」
「……死んだ後で後悔するなよ」
「や、止めとけって!」
「お、おい戻ろうぜ」
後ろの二人は完全に戦意喪失しているようだが。
中央のナーガ族は完全に頭に血が上っている。
現に後ろの二人の制止を振り切って俺に手に持っていたハルバードで襲いかかって来たからだ。
すぐに頭に血が上りまわりを見る事も出来ない。
こんなのが士官の一人というだけで腹が立ってくるな……
「死ね人間!」
叫ぶと同時にハルバードを振り下ろす。
だが、半身になり頭の横を過ぎた瞬間に素手でそれを地面に叩き落す。
まさか素手で叩き落とされるとは思っていなかったようで突然に力に体勢を崩したようで体勢を崩していた。
ハルバードを叩き落とした力を利用してナーガ族の胸へ肘鉄を食らわせる。
「…っガ!?」
その動き全てが予想外のようで一撃で昏倒したようだ。
これで士官というのだから驚きだ。
「じゃあ、ヒナとココス悪いけど、この三人を頼むよ」
抵抗しても無駄だと思ったんだろう。
大人しくココス達に着いて行ってくれた。
さて……あとは露店商の人に謝罪しないとな。
「お怪我はないですか?」
「あ、ああ……ありがとう……ございました」
同じアグニス軍の兵士だからか、未だに怯えているみたいだ。
こちらにはそんな意思は無くても怯えるのはしょうがない事だろう。
屋台は多少は壊されてるな……
銀細工は地面に落ちた物は汚れてはいるが壊れてる物は無いみたいだった。
「軍の者が大変失礼しました、適切な処置を行いますので」
「い、いえお気になさらずに! 商品は無事ですから」
露店商の人はそう言うが、誠意と言うものは何処の世界でも必要だと思う。
給料はあまり使ってないから余ってるし……
「せめてものお詫びですが、こちらをお受けとりください」
露店商の人へ銀貨を十枚程渡す事にした。
もしかしたら足りないかもしれないが、私用のお金は今はこれしかないし。
足りないと言われれば、自宅に戻って取ってこよう。
「さすがに多すぎます! 屋台の修理なら銀貨一枚あれば十分ですので!」
普通に受け取るとは思ったけど、とても優しい人なんだな。
それなら尚更受け取ってほしいものだけど。
受け取ってくれないだろうな。
「それならば……この銀細工を一つもらえますか?」
「お一つと言わず! ではせめてこちらをお渡しいたします!」
露店商の人が渡してきたのは。
鳥、肉球、三日月、花のブローチだった。
まさか四つも渡してくるとは思わなかった。
「さすがに多いのでは……」
「いえ、お気持ちですので……それに銀貨十枚ではそれでも少ないぐらいですし!」
露店商の人の気持ちだし、無碍にも出来ないかな。
ありがたくもらおうかな? ココス達に似合いそうだ。
「わかりました、有難く戴かせてもらいます」
「いえいえ、今日は本当にありがとうございました……」
深々とお辞儀をしてくる露店商に挨拶をしてから、捕まえたナーガ族達の所へ向かう事にした。
大変お待たせしました。
今回は短めとなってすいません。
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細々とですが今後も完結出来るよう頑張ります。
では、また次回