33話目─エラトマ防衛戦 終─
「──という事で勝利を祝してカンパーイ!!」
リョウの挨拶が終わり祝勝会が始まった所だった。
防衛戦から3日程が立ち、今は第一の関で第一から第五までの大隊で祝勝会をしている所だ。
正直、こうゆう雰囲気はあまり好きじゃないから居辛いな……
「シュン飲んでるか~?」
会場の隅で飲んでいるとリョウが俺に気付いてきたみたいだな。
「ああ、飲んでるよ」
「お疲れのようだな。適当に頃合を見て抜けてもいいからな」
「ん? ……わかった」
どうゆう意味で言ったのかいまいちわからなかったが、とりあえず心配してくれたんだろうと思い返事は返しておく。
「あいよ、んじゃあまた後で」
そう言ってリョウは他の士官や兵卒達と飲むために離れていった。
……だめだな、周りに心配ばかりかけてる。
「………もっと強くならないとな……」
「シュン様は十分強いと思います!」
真横から声が聞こえ驚いた。
隣を見るとミランダが器用に羽で木製のコップを持ち立っていた。
「怪我はもう大丈夫?」
彼女は数日前に戦場で打ち抜かれ重傷を負った。
魔法で一命を取りとめ既に歩き回る程まで回復しているようだ。
「ええ、シュン様のおかげで助かりました」
「俺も必死だったから。……それにリョウの指示のおかげもあるし」
リョウが早くに気付かなければ彼女は助からなかっただろう。
ノワル国の兵士に殺されていたはずだ。
助けられて本当によかったな………
「シュン様?」
少し呆けてたみたいで、彼女が心配そうにこちらを見てるのに気付いた。
「ん? ああ、ごめん……少し考え事をしてた」
「何か悩みでもあるのですか? 私で良ければ相談にのりますよ」
大した事でもないし、聞いてもらうほどでもないかな?
それに、彼女は二、三日前まで歩く事もできないぐらいだったしな。
「大丈夫だよ、それよりもミランダは怪我人なんだから無理しちゃダメだよ。俺も抜けようと思ってたし一緒に行こうか」
ミランダの天幕へ話ながら戻る事にした。
そういえば、ここ数日でミランダとも仲良くなったな……
最初は変態とか思われてそうだったし。
それに、怪我をしてからか胸当てをつけてくれているから、こちらからも話しかけやすい。
前は……上半身が裸だったからあまりミランダを見て話できなかったからな。
「送っていただきありがとうございます」
気付けばミランダ達の天幕に到着していた。
まぁ、同じ陣内だし近いのは当然か。
「じゃあ、早く怪我治すようにね。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
ミランダと別れて自分の天幕へ戻る事にした。
今は余った兵卒が使用してる天幕を一人で使っていたりする。
十人用のため、一人ではかなりの大きさになるんだよなぁ。
寝るために布を地面に引き剣を枕代わりにして横になる。
あまり眠い気はしなかったけれど、すぐに眠りに着く事が出来た。
───── 翌日 ─────
起きて朝食をもらいに行くと、宴はまだ終わってないようでかなり静かになってはいるが数百人程がいまだに飲んでいた。
一体どれだけのお酒を飲んでいるんだ……。
「……お?シュンおはお~」
「リョウ、まだおきてたのか?」
酒を飲み続けている集団の中からリョウが立ち上がって、こちらに向かってきた。
千鳥足といった感じでかなり酔ってるのがわかる。
「お、おい……大丈夫か?」
「んぁ? だいじょうぶだいじょうぶ」
大丈夫とは言ってるがかなり大丈夫じゃないように見える。
「今日どうするんだ?戦後の処理とか終わってないだろう」
今アレティに居るが、エラトマまでの道には何万もの死体が転がっている。
それに、負傷者も数多くいるため、陣ではなく、ちゃんとした街で休息を取らせてあげたい。
「ん~? じゃあ、シュンとココス達に任せるわ~」
「……はっ?」
一瞬リョウが何言ってるのかさっぱりだった。
俺達部下に任せる?
「……冗談だよ、第三大隊は明日アグニスに帰投する、各自準備をしたら自由に過ごせ」
「……了解……というか、昨日のうちに言ってくれよ」
とは言ったけど、そういえなミランダと早くに抜けたんだったな。
「ミランダと抜け出してたから野暮かなぁとな……」
何を勘違いしてるんだろう?
野暮って何のことだ?
「まぁ、ミランダも知らないだろうし。朝飯済ませたら伝えてくるよ」
「おう、任せた! 俺はまだ飲むぜ~」
そう言ってリョウは集まってる集団の中に入っていった。
ミランダに伝えた後。荷物を纏めてから、アレティに上りノワル国軍側の方を眺める事にした。
眺めた先は草原が広がっていた。
ここから先がヒッガーザ領でその奥がノワル領か……
現在ノワル連合軍の兵力はどれぐらいいるんだろうか。
ノワル国を倒したとして、それで終わりなのか?
それとも……他の国が攻めてくるんだろうか。
分かる事は今まで以上に戦争が泥沼化してくるという事だろうか。
「シュン様ココにいらしたのですね」
後ろから声が聞こえたので振り向くとココスが階段の所にいた。
金色に輝く毛が太陽に反射して眩しく輝いていた。
「何かあったの?」
「いえ、そうゆう事ではないのですが……その……」
どうしたのだろうか、俯いてしまっている。
また何か悪い事でもしたかな?
「カ…カエデ……あの捕虜については如何しますか?」
そういえば、最近はココスの所へ言ってなかったし、すっかり忘れていたな。
彼女はどうしたいんだろう? ノワルへ戻りたいのかな。
アグニスに入って一緒に戦ってほしいかな。
「彼女はなんて言っていた?」
「捕虜はどうするか迷っている様です。ただ……」
何だろうか、とてもいいにくそうな表情をしている。
「ただ……彼女の思い人の名前を知る事は出来ました」
異世界人ならこちらに取り入れる事も可能だろう。
ただ、ノワル国の人間ならどうする……?
そこまで忠誠心のある人でないなら取り入れる事もできるか?
けど、それは信用できる人間なのだろうか……
「弓兵将軍グリムだそうです」
ココスの報告に自分の耳を疑った。
よりによってあのグリムなのかと。
彼女の願いでも彼を迎える事なんて俺には出来ないだろう。
ノワル国軍の民でなければ人間ではないと言う彼を俺は許せるとは思えない。
出来るならばこの手で殺してやりたいとさえ思う。
「……そうか」
「はい……」
何時間そこに居ただろうか。
気付けば夕日が沈む時間になっていた。
半日とは言わないがそれぐらい立っていた事になる。
そういえば、朝食食べてからずっと居たっけ……
お腹も減るわけだなぁ。
御飯をもらいに行こうとするとココスが持ってきてくれたみたいだ。
「シュン様、よければご一緒に食べませんか?」
「ありがとう、頂くよ」
彼女からトレイを受け取りヒッガーザ領を眺めながら食事を取る事にした。
「次はここから奥へ攻め込むんだよな……」
「そうですね、敵はノワル国だけではないですし……戦線も広がっていきますから」
ノワル国は中心に首都のノワルがある。
それと、ノワルの国土は8割程が草原になっている。
数が圧倒的に不足しているアグニス軍にはかなり不利な戦いを強いられるだろう。
「不利ではありますが負けませんよ」
「ああ、そうだな」
食事を済ませた後はココスがカエデと会うかって言ったが今更何を言えばいいかわからなかったから。とりあえず断る事にした。
そういえば、彼女にスーとガク達との話をしたとき悲しそうな顔をしてた気がするな。
ま……彼女に恨まれようとも、俺はグリムを殺すと思う。
それ程までに俺は許せないのだから。
ココスともとりあえず別れて、自分の天幕へ移動した。
する事もないし横になってからすぐに寝てしまったんだけども。
───── 翌日 ─────
朝食を済ませた後に第三大隊はアグニスへの帰路についた。
道中は怪我人等もいたために、防衛戦へ向かう時よりはゆっくりとした速度だ。
そういえば、ササとココスに狩りの仕方等も簡単にではあるけど教えてもらった。
ラウルフ族は隠れて近寄った獲物を一息に殺す……ライオンみたいな狩り方をするためあまり役に立たなかったけれど。
ただ、ヒナから釣り道具の作り方とか教えてもらったのは助かった。
魔法でも一応獲物を仕留められるし。なんとかなりそうだ。
半月程経ち、ようやくアグニスへと到着した。
アグニスに到着する頃には紅月から紫月になっていた。