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27話目─Hrunting②─

鼻腔に着く優しい香りに目が覚めた。

「…ん……?」

まだ重い瞼を開け、とりあえず身体を起こそうとするが、何か柔らかいものに巻きつかれてるかのような感覚がした。

「なんだ…?」

働いてない頭を現状を理解しようと出来る限り脳を動かす。

とりあえず、目の入ったのはココスの寝顔、俺の下にある。

巻きついてるもの、ココスの腕。

ココスの身体、俺と重なり合ってる。

………おう…

「うわぁああぁああああっ!?」

「何事ですガッッ!?」

見事にココスの頭が俺の額とガッツーンとでかい音が響いた。

痛ったぁ…こ、これは目が覚める衝撃だ…


「…ってて…、なななんで俺ココスと抱き合ってたんだ……」

「覚えてないのですか?部屋に戻ってきたと思ったら様子がおかしかったので、シュン様をベッドに寝かせようとしたのですが……」

ですが…?襲ったとかじゃないよね…?

服は…うん、事後って程じゃないし…ないよね?


「あの…その……シュン様が押し倒されて…そのまま寝てしまったので…動くに動けず…」

あーはい…似たようなもんですね………

という事は、昨日のことは夢なんかじゃなかったのか。

当然か…夢だったならよかったのに…




その日は食事だけしてずっと部屋に居る事にした。

ココスに練兵場に行くかと聞いたのだけど、俺と一緒に居るというのだ。

正直、心が沈んでる時に近くに誰かが居てくれるというのはとても心強い。


「あのさ…」


「あの!」


ぬああ被った…どこの漫画だ…

「ココス何?」

「あ、えっ…と…なぜ今日は…ここで?」

まぁ、一月以上王の間に居たからな。

だけど、出来れば俺の口からは言えない。

それは、次期国王…アイルーンの仕事だと思うから。

「まぁ、休暇みたいなもんさ…すぐにわかるよ」

そう言って、久しぶりのゆっくりとした時間をココスと二人で過ごした。

ちなみに変に意識したためか、夜は二人とも緊張して寝付けなかったんだけど…


ベッドでソファーどっちで寝るかと言い合いになったのは秘密だ。




国王逝去の知らせはそれから二日後となった。

国葬はその日から半月後、ビーオルフの墓の近くに埋める事となった。


そして、国葬の前日にアグニスから数十人という人たちが来ていた。

ゴーディをはじめ、リディ達魔人族の二人。

第一将軍、不死将軍のシブスゲル、その部下達数名。

第三大隊からはヒューリーが。

吸血鬼ヴァンパイア族、デュラハン族、バフォメット族。

この国に関係している者達が他国からも数多く着てくれた。


「ゴーディ…久しぶりです」


「ああ、シュン…無事で何よりだ、ココスもシュンの補佐ご苦労であった」


「ッハ…有難き幸せ……」


不死将軍とは初対面なので挨拶をしようと思ったのだが、見当たらない。


「彼は、あまり人と馴れ合いたがらないのだ…九将軍筆頭なのだから、挨拶ぐらいはしてもらいたいが…だが、彼も国王の事を息子のように思っていた…

 悪いが許してやってくれないか?」


「いえ、そんな余裕はない…そう感じられます。

 それに…俺は一士官だ、戦場に出て、功績を挙げれば挨拶する事も出来ると思うし」


「そうか…我が軍の部下がすまないか…」


「ハハ、ゴーディ、俺もゴーディの部下ではあるよ」


「…ッフ……そうだったな」


久しぶりのゴーディとの会話を済ますと国葬が始まった。




国葬は盛大に行われた。

王の間で彼の死を悲しみ、皆が棺おけを持ち階段を上ってゆく。

転移してから、デュラハン集落を越え、死霊墓場へ。

死霊墓場の奥深くに開けば広場が、その中央には一際巨大な墓石があった。

これがビーオルフの墓…

そして、フルンティングが眠る場所。

まず、歴代の王が眠る場所へ棺おけを入れる。

中は地下墓地カタコンベとなっているようだその空いた場所に丁重に棺桶を置いた。

外に出て、参列者の前でアイルーンが皆の前でフルンティングの事を言喋りはじめたようだ。


当然、偉人の墓を荒らすなと否定の言葉があがる。

だが、前国王の遺言という事を知り、否定派のほとんどは黙ったが、3人がアイルーンに何も無かった時は責任を取れと追求している。


この3人とは関わりはなかったがこの声は聞き覚えがあった。

ココスの部屋へ行くときに何度か出会ったが一々突っかかってきた者達だ。

ココスは怒り心頭だったが、なんとか抑え込んで何も起こさなかったのだが…いい迷惑だったな。


アイルーンは責任は全て取ると言い、兵士達に指示を送る。


戸惑いながらも兵士達が墓を掘りはじめて、30分程立った頃だろうか?

150cm程の長さの鉄の桶が見つかった。


兵士の一人が蓋を開けたのだけど…その中には何も入ってないらしく。

彼ら否定派がここぞとばかりに叫びだす。


『やはりな!あるはずがないのだ!』


『かつての将軍閣下も地に落ちたものだな』


『うむ…なんと無様な事か』


『少々お待ちください…シュン様、よろしいでしょうか?』


アイルーンに呼ばれ、鉄の桶の前まで寄り、桶の中を見た。


剣は確かにあった。


だが…この剣が、あの漆黒の剣なのだろうか?

色は所々が白く濁り。

また、この剣からはひきつけられるものを何も感じる事が出来ない…


「確かに…剣はあります、けど…これが漆黒の剣(フルンティング)なのですか?』


『私にも、その剣は見えません…ですので、手にとってもらえませんか?』


快く思っていない重臣達は茶番だと騒ぎたて始める。

彼らが見たときは剣は見えず、ないと言っていたのだから。

傍からしたらこれは茶番のようにしか見えないのだろう。

けど、俺の目から見たら剣は実在する。


俺が何か陰口を言われるのはまだいい…

だけど、この国のため、余命わずかなのに俺に知識をくれた前国王

そして、この国のため、前国王のために頑張り続けているアイルーンを否定する言葉だけは許せない。


ただ、見返してやろうと、前国王とアイルーンを陥れようと連中から守るために。


彼らに軽い殺意を混めながら剣を手に取る。


途端に嫌悪感が手から這い上がり、通り抜けていった。


これは…そうか、死の気配…アルゴスや他の者も皆死の属性だった。

この剣が呪われていると言われても過言ではないな…


俺が手に取るとその剣を皆が認識しはじめた。


『ばかな!確かに桶の中には何も無かったはずだ!』


『何か仕組んだのだろう!』


『これはアイルーンの独裁国家の始まりだ!』


こういう奴らを見ると…無償に…


待て、俺は何を考えているんだ?


あいつらの血は不味そうだが…背に腹は変えられんか…


これは、俺の思考…?いやそんなはずは…


「アイルーン…彼らの処遇は…?」

『こちらからは何も…この国の大臣ではありますし……

 ただ…度が過ぎれば国家反逆罪となりますが』


『人間如きがその剣を手にとっていい代物ではないわ!』


一人が声を荒げて、剣を渡せと叫んでくる…


「悪いけど、この剣は前国王様から譲り受けた剣だ、貴方の発言は前国王よりも偉いのか?」


『既に前国王は居ず!それに、我らはアイルーンを国王と認めん!』


「……皆の者…帰ろうか、我らが入る余地もないだろう…アイルーン国王、また後日来ます、その時にでも続きを」

『畏まりました…我が国の恥部を御見せし、心苦しいばかりです』


『アイルーン!貴様、前国王に寵愛されていたからと!』


『売女に国は任せられん!その人間と共に殺し我がレグ国に平穏を齎さん!』


何を言っているんだこいつらは…

既に自分らがこの国の支配者だと思ってるかのような態度…

気に食わない…そして、アイルーンを売女と呼ぶ、殺してやろうか。

「アイルーン…反逆罪は…」


『何が国家反逆罪か!?売女の国など笑い話にもならんわ!』


『貴様の首は剥製として飾ってやるわ』


『………適用されます…』


ここまでコケにされたら黙っている事等できはしない。

この剣の試し切りとなるがまぁいいか…

「弱い犬ほど良く吼える…だな」


『何を言っている人間が!』


『憎き敵!人間が!』


「弱い奴は口だけ達者だって意味ですよ」

さっきから何かが変だ?

何故俺はこんな事を言うんだ?

このムカつきはなんだ…?

どうして、こんなにも暴れたいんだ。


デュラハン族は戦闘民族のようなもので、数こそ多種族に劣るが身体能力・魔力共に秀でている。

そして、彼らの古い世代、彼ら重臣達は人間を毛嫌いしている。

だからだろう、俺へ憎しみを抱くのは。


「人間である俺はいいよ自覚もある………けど、現国王と前国王さえをも貶める発言…少しの時間だったけれど、前国王の死に目を見た俺は……許せないね」


『ば、馬鹿な!?ダレも近づけないはずだ!そんな見え透いた嘘をダレが信じるか!?』


どうやらまったく信じてない…いや、信じたくない…か?


「アイルーン…俺はアグニスの仕官だが、今はこの国の客将となってる、君の指示に任せるよ」


俺の言葉に少しだけ考えた末、お願いしますと答えた。


「という事だ…この剣のお披露目と行こうじゃないか」


『ええい、生意気な!我ら3人だけだと思うな』


彼等の一人が手をあげると重武装した兵士が20人程だが森の中から出てきた。


『こやつ等はアイルーン…お主を王とは認めない者たちだ…

 さぁ、そちらは2人、こちらは23人…いかに強くとも…なぁ?』


笑わせてくれる、たかが20人程度で俺を止められると勘違いしてる奴らに余計腹が立つ…


「いいえ、3人ですよ」


この声は…ココスか?

「シュン様、私は貴方の補佐をするのが任務です、どんな時でも…そして、この辛い時期に謀反を企てた奴らは許せぬ存在…」


兵士達にも同様が走っている、ココスはこの国で訓練の際50人抜きを達成したし。

この国の人からは金狼姫と呼ばれ尊敬の眼差しを送られていたから。


「いや…ココスもアイルーンも見ててくれるだけでいい…俺が一人でやるよ」


『ふん…アイルーンもその後を追うぞ、そのラウルフはアグニスの将だからな、捕縛させていただくが………一斉にかかれ!』


10人が前方から一斉にかかってくる。

アオス・シュテルベンでは後ろの二人にも被害は出る…

それならば…書物で読んだあの魔法を使うとするか。

「まだ間に合う

 こんな結末は望んではいない

 まだ生きたいという事さえ願えない

 身体の腐敗が止まらず

 【フォイルニス】」


詠唱を唱え終え、口から紫色の瘴気がジワジワと兵士達の下へ近寄ってゆく。

ほとんどが警戒し立ち止まったが2人ほど…気にせず突っ込んでくる。


瘴気に触れた途端、悲鳴を上げ血を吐き苦しみもがく二人。


兵士の一人がそれを見て駆け寄るが彼も入った瞬間同じ結果となる。


『な、なんだそれは…私は知らぬぞ!?』


『貴様、本当に人間か…?』


俺が人間か?こっちが聞きたくもなる…


『貴方たちは知らないのも当然です…前国王が病に伏せられたのは死属性のせいとも知らぬのですから』


『何故いまさらそんな…まて……死属性だと…!?…何故そんな大事な事を我らに教えなかった!』


『言った所で野心の強い貴方方ですから…こんな事になるだろうと……

 それに、シュンも死属性です、前国王が死ぬまで彼は一緒に過ごし、知識を学んでいったのですよ。

 魔術に関して、彼の弟子と一緒です…いえ、前国王以上の実力者です…』


『馬鹿な!人間が死属性等…ありえん!何故普通に生きていられる!』


彼等は俺がノワルで生まれ育ったとか考えているんだろう。

「俺は…ノワルで生まれた人間じゃない」

『彼はビーオルフ様と同じ異世界の住人です』


その言葉にレグ国の者達はおどろくばかりのようだ。




時が止まったと感じた時、グチャッと不気味な音と共に剣を伝って不気味な感触を感じた。

魔法を受けた者たちを見ると。

無残に潰れ、腐り、腐臭を撒き散らしていた。


『ひ、ひぃいい無理だ!勝てっこない!』

兵士の一人が逃げはじめる。


『逃げるな!我らが望む国を作りあげるのではなかったのか!?』


『ふさけんな!無理だ見たろ、あの魔法を!あんなふうに死にたくなんてない!』


死体は早送りにしているように肉が腐り落ちていく。

そして骨さえ風化して消えていった。


『あんな死に方なんてごめんだ!』


後ろを向いて重臣達に怒鳴っている一人に一息で近づき頭の無い首から下へ突き刺す。

重い鎧を着ているんだ、なるべく急所から狙うべきと判断しての事だが、予想通り死んだ。


「さっきの威勢はどうした、殺すんじゃなかったのか?」


4人程死に、数人の兵士は意気消沈して、命乞いをし始めるが知った事じゃない。

膝をついて許しを請うが、許すも何も死ぬ覚悟もないで…相手を殺す覚悟をするな…


腕の関節を切り落とし、膝を突き壊し、首から突き刺す。


これで5人…


『む、無理です!ビエホ様!』


どうやら、あの中の一人がビエホと言うみたいだな…


『ええい!もう遅いわ、なんとかして奴を殺せ!』


もう面倒臭い…


「冥府にも罪はある

 最大限想像の限りを尽くして考えてみな

 比較すること等できないと思うけど

 考えの上を………」


『まずい!また魔法が来るぞなんとしてでも止めさせろ!』


『ち、ちくしょう!』


止めようとしても、もう遅い


 「……これは遊戯と同じ

 【オルクス・トーデス・シュトラーフェ】」


彼等の近くからサッカーボール程の黒い空間が出てきた。

その中から無数の手が彼等を捕まえていく。


その中へ引き摺られ、中へと入ってゆく。

見てる者からしたら不可解だろう、その光景。

小さい球体の中に入ってゆく者達。

どう見ても、あの中に入れるほどの大きさには見えないのだから。


『何故!?何故そんなに魔法を使える!?』


対した疲れを感じずに使えるこの力は異常…そんなのはわかっている。

魔力のない者が分不相応な魔法を使えば最悪死ぬのだから。

強力な魔法なら、それだけの魔力と体力を消費する。


もっと遊んでもいいが、彼等の醜い悲鳴を聞くのにも些か飽きた…


謀反を企てた者達は全員黒い球体へと引き摺り込まれていく。

そして、少しずつ球体が小さくなっていき、ビー玉程の小ささになった瞬間。

コトンと球体が落ちた。


それを拾い、耳に近づけてみる…

どうやら彼等の悲鳴だろうか。

幾重にも重なって聞こえてくる。


「アイルーン、終わったよ」


『え、ええ……ありがとうございます、手を汚させてしまいました…』


「気にしないでいいよ、俺も彼等には反吐が出てた所だ」


「シュン様…その剣の色…」


ココスの言葉で気がついた。

剣は手に取った時とは違い黒く、反射もしないほど黒く染まっていた。


「これが、フルンティング…」


この剣は普通じゃない…まるで…

27話目了です。


軽くフルンティングのスペック紹介でも。

全長150cm

柄20cm

サイズとしては標準的な両刃のロングソード。

血を啜って堅固になっていくといわれ。

持ち主の手で人が死ぬと黒く染まっていく。

黒くなればなるほど、切れ味は高くなっていく。

持ち主の性格が変わっていくかもしれない(?)

といった感じで考えてみました。


モデルはブリテンの叙事詩に出てくる剣です。

まぁ、名前そのままなので変えた方がよかったかなぁとか思ったけど、もうアルゴスの日記更新後だったので。


誤字・脱字・感想ありましたらご一報ください。

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