23話目─レグ国2日目─
23目更新です。
朝食を済ませ部屋で待っていると、アイルーンが向かえに来たようだ。
『おはようございます、国王様がお待ちです』
「じゃあ、行ってくる」
「ええ、どうぞ」
ココスの機嫌が朝から悪い…
心当たりなんてないのだけど
ドアを開けるとアイルーンの他に2人程人が立っていたのだけど。
デュラハン族と呼ばれる種族には未だに慣れない。
顔を見ようとすると顔がないのだから、正直怖い。
『では、お二人ともココス様を頼みましたよ、大事な客人ですので失礼のないように』
『はっ』
『うっす』
それとデュラハン族に声はないようで、言葉は全てテレパシーの様なもののようだ。
どっちがどっちの声かサッパリわからない。
『では、行きましょうか…』
「はい、お願いします」
二人の兵士と別れアイルーンに着いていく。
中央が吹き抜けになっている螺旋階段を降りる。
視界は壁に備え付けられている石から少し発光しているだけだ。
だが、不思議と視界はよく見えている。
『暗くはないですか?』
俺の心を心配してか聞いてきてくれるが、自分でも不思議なぐらい周りが見える…いや、感じるか?
「いえ、大丈夫ですよ明かりのおかげでしょうか?」
『やはり、魔力のおかげでしょうね、素晴らしい…』
魔力のおかげ?この視界はそのためなのだろうか?
階段を降りていく、少しずつだが温度が下がっていく気がしてきた。
『寒くはないですか?』
「ええ、なんとか…」
正直かなり寒い、城の中とでは数度違うんじゃないか?
『お待たせしました、ここが王の入る間です』
なんとか寒いのを堪え王の間に到着する。
だが、その前には衛兵一人いない。
普通は二人程見張りとして置いているはずなのだが。
扉が開く。
扉が開くと同時に何かが突き抜けた気がした。
だが、何かが突き抜けた瞬間に湧き上がる嫌悪感に膝をつく。
どうやらアイルーンも同じようで壁に手を着きなんとか耐えているといった感じだ。
『っく…死期が近づいた死属性の方は死の予感を撒き散らすのです。
無意識に…はぁ…心の強くない者は皆死んでしまう程に…』
程なくして、嫌悪感は無くなり立ち上がる。
『さすが…死属性ですね、もう大丈夫なのですか?
申し訳ない…のですが少々お待ちを…』
それから数分程だろうか、アイルーンも体勢を直し前に進む。
『前より死期が近づいているようです。
たぶん、国王様に会える者はこの国では私だけでしょう…』
その話を聞いて、少しだけレグ国国王の心情に心を痛めた。
一国の主が部下に会うことさえできない。
ましてや、死期が近いというのに誰も彼と話す事さえできないのだ。
なんと悲しい事なんだ…
部屋の中はとても広かった。
けど、広いだけだった。
部屋の中央にベッドがあり、それだけだ。
階段の所にあった光る石が柱の4隅に掛けられているだけの。
王の間と言われているが相応しくない…
まるで、地下牢を思わせる部屋だった。
『体調はいかがですか、国王様…』
「なに…そろそろ来るころだろうと思っていました…」
国王と呼ばれた人物を見る。
とても40歳とは思えない程のやつれよう。
体も骨と皮しかなく
紙は全て白く染まっている。
顔も目は窪み血色も悪い。
「お初にお目にかかります…アグニス国から着ましたシュンと申します…」
だが、返事はない。
『すいません、国王様はもう五感をほとんど失っているのです…』
そこまで…なのか…
『国王様、死属性を持つ人間をお連れしました…』
「おお…そうか…等々来たか……そんな、気はしていたのだ…」
ゆっくりと、苦しそうに体を起こす国王を支えようとアイルーンが手を伸ばし、なんとか上半身だけを立たせる。
「ようこそ…私は既に長くはない…だからこそ、お主にこの力を継いでもらいたい…」
「はい、自分も…この力を知りたい…そう思っています」
俺の言葉をアイルーンが通訳をして、なんとか会話をする。
「死属性…これは、呪われた…力だ。
…術者に不幸を撒き散らし、親しき…者を死に至らしめる。
だが…その力は絶大だ…
見たであろう、屍食鬼達動く屍を…」
頷き、アイルーンに通訳をしてもらう。
「あれは、私の死期が近いせいだ…
……私が死という魔力を撒き散らす…
その魔力を受けた屍があいつらよ…」
バフォメット集落で言っていた異変…
国王が民たちを思うから、その者達に危険が迫る…
そういう事なのか…?
『ですが、魔王様が病を患う前にデュラハン集落にはゴッシュ・パワーを御作りになり人的被害はほぼ0です。
あまり気に病まないでください』
「ふ…それは結果を見ればそうだな……
だが…アグニス国の使者を襲ったのは事実」
どうして、襲われたことを…?
「見えるのだよ…眠りについている間は…死霊となって国を…彷徨う……者の視界が」
あの死霊か…
「…だから、……君の事を知っている…
君の声…が……聞こえな…いのは残念だ…だが、教え…られる事……を全て教えようと思う…」
段々と苦しそうにしだす国王。
『国王様、少し休んだ方が…』
「……うむ…少し休む…か…」
程なくしてレグ国王は眠りについた。
『何分発言する事自体久方ぶりでしたので…
お部屋に戻りになりますか?』
部屋に戻った方がレグ国王はゆっくりできるのだろう。
「そうですね、そうした方がいいのなら」
『……私個人としてはですが、シュン様はここに残って頂いたほうがいいかと……周りの世話も私が致しますので…』
国王が起きるまで待つではなく、今後はここで過ごせという事かな?
俺としてはいいんだけど…ココスは怒るだろうなぁ…
『それと、ご希望でしたら過去に死属性の者たちが残した書物もございます。
外に持ち出す事は出来ませんが、ここでなら読む事も可能です』
なぜここじゃないといけないのだろう?
「どうしてここじゃなくてはいけないのですか?」
『それは…死属性というのが呪われているというのは何もその者の話だけではないのです。
書いた書物、使った武具衣類等も全て瘴気と言いましょうか…』
使った物全てにもその効果が付与されるというのだ。
いままで使ってきた物を思い浮かべてぞっとする。
日用品でさえ呪いの道具と化すといわれてるのだから当然か…
「わかりました、今後はここで過ごします…それと、何か羽織る物をもらってもいいですか?ちょっと寒いので…」
『はい、では一緒に探して参ります、少々お待ちください』
アイルーンが退室していままでの事を考えてゆく。
そういえばスー達の居た場所はどうなっているだろう…
未だに動く死体として、いるのだろうか…
あそこで暮らした数ヶ月でどれだけの物が呪われたといえるのか…
「確かに、ガクの言う通りだったな…」
そうなるとだ、ラウルフ集落やここに来るために使った馬車とか大丈夫なのだろうか?
そう思うと心配でしょうがない。
『………はっ…お待たせしました、すいません時間がかかってしまって』
少々苦しそうに部屋に入ってくる。
どうやらアイルーンが来たようだな。
「いえ、大丈夫ですか?」
『はい、障壁に干渉するようなものですから…まだ私でも耐えれる程ですし』
余命は半年と言われている。
それぐらいになると彼女でさえここに入れないだろうと予感がした。
『では、こちらが死属性の者たちが残した書物です』
それなりの数があるのかと思ったのだが、10冊にも満たない程少ない数だった。
「思ったより少ないのですね」
『ええ、属性自体希少ですし、皆短命で、短い者は10にも満たず死ぬ者も居たぐらいですから…』
俺は後何年生きられるだろうか…
……だめだな、今はそんな事を考えるのはよそう。
適当に一つ手に取る。
そして本を開いた瞬間にこの部屋に入った時と同じような感覚に襲われる。
慣れたのか、それ程の嫌悪感は無かった。
まぁ、気持ち悪いんだけど。
アイルーンの方を見るといつのまにか奥の方に退避しているようだった。
『シュン様、すいません言い忘れておりました、書物は開くだけでも死の気配を撒き散らしますので…』
「あ、ああすまない…今後は気をつけるよ」
表紙を見ると。
[Argus's Tagebuch]
そう書かれていた。
ローマ字なのはわかるが、なんと読むのだろう?
アルゴス…?
『それはアルゴスの日記ですね、150年程前に将軍だった方の日記です』
英語ではないのか…何語だろう?
まぁ、いいか、他のも見てみよう。
「これは…?」
『それは帳面ですね』
ノートか…開くと先ほどよりも弱い感覚だ。
文字はよくわからないが、指先で文字をなぞると頭の中で声が響いてくる。
『読めますか?』
「いや、ぜんぜん…なんか声が聞こえるけど…」
簡潔に言うと簡単な日常でも使える程度の魔法が載っていた。
といっても属性が属性だからか、不幸な出来事を起こしたりとかなり陰険な魔法だ…
まぁ、その人の身近な人が死ぬとかじゃなく、悪戯程度のレベルだ、鳥の糞が落ちたり泥濘で転ぶとかそんなレベルだ、なんというか…使える物じゃない…
魔道書らしきものは2冊程、後は日記帳とノートぐらいか。
とりあえず、日記帳から読もうかな?
アルゴスという人物の日記か…
この人も死属性という存在に苦しんでそして早くに死んでしまったんだろう。
他人の日記を読むという事に少しの罪悪感を感じたが、死属性について知りたいという欲求に駆られ指で文字をなぞった。
23話目了です。