20話目─道中─
アグニスを出発して5日程経った。
3日前にミノタウロス集落を通り、現在ケンタウロス達の集落に向かっている。
集落は各部族に一つ程あるらしい。
南にラウルフ集落が、ハームカルムの東にフェルパー集落、北にナーガ集落。
現在通ってる街道にはミノタウロス集落とその北、国境近くにケンタウロス集落があると言っていた。
ドワーフやノーム、エルフと言った種族に集落がないのかと聞いたところ。
上がってない種族に関しては別の国にあるらしい。
ドワーフ、ノームはアグァラ。
エルフはエジュアダ。
ハーピーの集落もあるのだが、高山地帯にあり、どこの国にも属してないのだ。
今向かっているレグ国はヒューリーの故郷で夜の国と言われていて一日のほとんどが夜のようにくらいらしく、何種族かはレグ国では暮らしていけないというのだ。
だからリョウ達は俺が行くと言った時あんな反応をしたのか。
それと馬車は暇なので話とかしたのだけど、初日にちょっと事件が起きた。
馬車の中で居心地悪くいるとその中でも一番偉いのか身体の大きいラウルフの一人が声を掛けてきた。
自己紹介も兼ねて、新しく士官になった一人だと言ったら全員から盛大に笑われた。
まぁ、そりゃ信じられないだろうなぁ…
と、笑われているとどうやらココスには一部始終聞こえたらしくこちらに近づいてきたと思ったら、剣幕な表情で兵士達を眺めてきた。
「こ、これはココス様、何か異常でもありましたかっ…?」
「異常…確かに異常ではありますね、上司が自己紹介をした時に笑い飛ばすというラウルフ族に有るまじき恥を振りまく者どもが…」
さすがに前方にはリディさんが乗る馬車があるため怒鳴り散らすという事はしないが、かなりの怒気を纏いながら俺を除く兵士達を睨みつける。
馬もその気配に気付き怯え始める。
「え…本当の話なのですか…?」
「こちらのお方は私の上司にもあたる御方ですよ…今笑った者は不敬罪で打ち首にでもしますか…?」
その言葉に兵士達が一斉に悲鳴とともに馬車の奥に逃げ込む。
「い、いやココスそこまでしなくても…実際信じられないと思うし」
「シュン様は甘すぎます!シュン様は今馬鹿にされたのですよ!それも一兵卒等に!」
それでも打ち首とかはさすがにやりすぎだと思う。
なんとか、ココスを落ち着けて戻るようにお願いすると納得できないと言った表情ではあるけど定位置に戻っていった。
「あ、あの…本当だったのですか…?」
兵士達はかなり怯えた風にコボルトの兵士も聞いてきた。
「ええ、そういう事になってます、リョウの話では護衛隊の隊長に自分が、ヒューリー達が補佐に回る事になってます」
リョウ達の事を呼び捨てにしてる時点で本当の事だろうと判断したらしく、頭から血の気が引いた瞬間馬車内の一同が盛大に謝りだした。
後方の馬車内では謝罪の声が数時間にも続き何度も外に居た兵士やジーノやデルミンが覗きに来て、その度苦笑いしかする事が出来なかった。
「ガッハッハ!にしてもあの時は何事かと思ったわい」
「でつねぇ、皆シュンさんに土下座してるんでつから、わらっちゃいましたよ」
野宿の為陣を作り夕食の時間、その日の報告も終わった後の話題として、初日の事件の話が出た。
ちなみにこの話題は今日で5日目…出発した日から毎日笑い話として出ている。
「けど、正直しょうがないと思うのもあると思う、いきなり自分が指揮官ですって言われても信じられないと思うし…」
それに敵対種族の人間でもあるし、と付け足しながら苦笑いする。
「ですが!第三大隊の司令官はリョウなのですから、ありえないと思うのもおかしな話です!…やはりあの兵士達は厳罰を与えねば…」
ちなみにココスのこの言葉も今日で5日目である。
すごい根に持つんだなぁと思い、なるべく怒らせないようにしようと再認識をした。
ココス達3人が笑ったり怒ったりと騒いでる所より少し離れた場所にヒューリーが居るのに気付いた。
そういえば、この5日間報告後はすぐ何処かに行ってたな。
「ヒューリーは騒がしいのとか嫌いか?」
「…いや…」
ヒューリーにはアグニス城に着いてから世話になってばかりだなと思い出す。
「ヒューリーにはいつも世話になっちゃってるよな、いつもありがとうな」
「気にするな…それに………」
それにと言いかけてから喋らずお酒だろうか飲み続けている。
あまり、聞かない方がいいだろうか?
だけど、こんな風にゆっくりと静かに過ごすのも悪くないと思っていると、ヒューリーが小さめのコップを差し出してきた。
「これは…?」
「…飲め……」
ああ、飲み物をくれるって事か。
無口だけど気がよく回るいい人だな。
「ありがとう」
注いでもらい、飲み物を見てみる。
色は無色透明で臭いからアルコールだと思う。
一口飲んでみると舌がピリッとしてかなり辛めのお酒だと感じる。
「これは…強いなぁ、けど…うまい」
素直な感想を述べると横で飲んでいるヒューリーは少しだけ嬉しがったような感じがした。
「…そうか、もっと飲め…」
「ああ、ありがとう」
ヒューリーの事が少しだけわかったような気がする夜だった。
ちなみに、翌日は二日酔いに襲われた。
調子にのって二人で2時間ぐらい飲んでたからか、かなり具合が悪い。
正直、馬車の揺れでもきつい程に…
ココスにまた体調でも崩したのかと心配されたが、酒の臭いで怒られた。
というか、ヒューリーは酒に強すぎるだろ…
なにもないと言った具合に普通に先頭を馬に乗って進んでいるのだからすごいと関心する。
と、思っていたのだが昼前ぐらいだろう、馬車が止まり何事かと思ったら、ヒューリーが落馬したと報告が入った。
その報告で事件かと思い酔いも跳びヒューリーの元に駆け寄った。
どうやらヒューリーも二日酔いで倒れたらしい。
そして、ココスが先頭になり、ヒューリーは最後尾と入れ替わる事にした。
確かに、ヒューリーはフラフラしている。
普段見ることのない弱ったヒューリーを見てなんか親近感を感じた。
昼食の為行軍を止め、準備をしているとココスに呼び出された。
その場所に向かうとヒューリーも居た。
予想通り説教です、士官の自覚が足りないとか、王妹様に無駄な心配を掛けるなとか。
まぁ…うん…二人で反省をしているとジーノに飯の準備が出来たと言われ、とりあえず説教は終了となった。
お酒って怖い、前からわかってたけどね…
けど、ヒューリーとは前より仲良くなれた気がする。
そういえば、ヒューリーは男なのか女なのかイマイチわからないんだよなぁ…
名前は男みたいな名前ってイメージだけど。
声はどちらとも取れる中性的な声だし。
顔立ちはなんというか山羊…?、うん…黒山羊だ。
んー…一度気になると余計気になるな…
ということで食事の時に聞いてみることにした。
「いきなりなんだけど、ヒューリーって男性?女性?どっちなんだ?
他の種族は結構わかりやすかったりするんだけど…バフォメット?族ってヒューリーしか見た事がなくて…」
「………」
食事の動きが止まり、時間が止まったのかと錯覚する。
「あー…ごめん、言いたくないなら大丈夫だから少し気になっただけだし」
たぶん、彼には禁句だったのかもしれない。
なんか罪悪感が…
「……どちらでも…」
どちらでも…?どういう意味だろう…
頭を傾げていると。
「バフォメット族は性別という概念がないのですよ。
男でもあり女でもある、本人が望めばどちらにでもなれるのです」
ココスが翻訳をしてくれた、ありがたい…
男でも女でもある…
所謂両性具有といったものか?
んー…ちょっと実感がわかないかなぁ?
食事も終わり今日の夜にはケンタウロス集落に着きますとココスが教えてくれた。
なんだけど…俺は馬車に揺られているだけなので、他のメンバーには悪い気しかしなかった。
指揮官がこれじゃ決まらないよなぁ。
とか考えながら一度もキメラや敵対勢力の集団等に襲われる事なく国境近くの村、ケンタウロス集落へと到着した。
20話目了です。
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