19話目─使節団─
夢を見た。
それは何度も見た夢。
シャルやスー達山賊団の皆、それにコウタが居た。
皆最初は笑顔なのに。
その表情は爛れ…崩れ…
身体を引っ張り地の底へ引っ張り込む。
そして、俺に呪詛を振りまく。
………
……
…
「うわあああぁぁぁーーーー!!」
目が覚めた時そこは見覚えのない部屋だった。
俺は…?
確か、リディさん達と城下町で買物をして…
その先を思い出そうとした瞬間気が遠くなる程の頭痛に襲われた。
「ぐうっ…?、なんだ……何があったんだっけ…それに、ここ何処だ?」
なんでこんな場所に?
……だめだ、思い出せない…とりあえず、部屋から出よう…
なんか、懐かしいかな、前にもこんな事があった気がする。
立ち上がろうとすると、ドアの向こう…通路と思わしき所からドタドタと大袈裟な足音が聞こえてきた。
「シュン様!!気が付かれたのですね!?」
丸太でもぶつけたんじゃないかと思うような爆音と共に、ドアを吹き飛ばしてココスが部屋に入ってきた。
「やぁ、ココスおはよう、何かあった?」
「シュン様…?大丈夫なのですか?」
何をそんなに心配そうな表情で俺を見るんだろうか。
「俺なんかしたかな?昨日リディ様達と買物した後の記憶がなくて」
そう言うとココスは複雑な表情に変わる。
嬉しいのか悲しいのかよくわからない表情だ。
「ここまで長旅でしたのできっと疲れが溜まってたのだと思います、お食事のご用意は出来てますが如何しますか?」
そういえば、途轍もない空腹感を感じる。
「うん…寝起きだから軽めに食べようかな」
「こちらにお持ちしますか?」
なんか今日のココスは過保護すぎではと思う程に過保護だ。
「いや、疲れが溜まってたんなら気にしなくていいよ」
「そうですか、それでしたらご案内しますね」
食事のため立ち上がろうとするがどうしても足に力が入らない。
おかしいな…どうしたんだろうか、身体の節々が軋む。
まるで…そう、熱を出して数日寝込んだ後の様なだるさを感じる。
「シュン様!大丈夫ですか?やはりこちらに…」
「いや、行くよ…心配かけたくないんだ」
ココスにはそう言ったもののすごく動き憎い…
「シュン様、申し訳御座いませんが、…失礼します」
立とうと悪戦苦闘してる所にココスが俺を持ち上げる。
通称お姫様抱っこだ。
「え?ちょ、ちょっとココス?」
「大丈夫です!私は気にしませんから!」
むしろ俺が気にすると気付いてほしいのだけど、かなりのスピードで走ってるから下手に喋ると間違いなく舌を噛む。
階層を一つ降りて廊下を20メートル程だろうか進んだ場所に到着した。
「シュン様、すいません立てますか?」
「ああ、なんかごめん…」
ココスに下ろしてもらい肩を借りてなんとか立つ。
扉が開きそこにはリョウとヒナとササとヒューリーの4人が席に着いていた。
「お…って大丈夫か?かなり体調悪そうだが」
足も覚束ず顔色も悪いみたいでリョウが声を掛けてきた。
「うん、なんか風邪でも引いたかな?」
実際は風邪のようなだるさではないんだけど、もしかしたらこちら特有の風邪かもしれないと思ってそういう事にしておいた。
「心配したよ~、戻ってきたと思ったら意識もないし、シュンちゃん3日も意識戻らない」
3日?どうしてそんなに?
「た、多分慣れない土地で体調でも崩したんだろう、熱もあったしな」
リョウは風邪だと強調するように言いながらヒナの頭をガシガシと撫でている。
「ちょっと痛いよ!」
かなり強く頭を撫でてるようで、ヒナは痛がってるみたいだったのでリョウも止める。
「まぁ、意識が戻ってよかったよ、腹は減ってるか?一応消化にいい物とか用意してもらってるが」
「じゃあ、もらおうかな?、所でここ…何処」
食事をしながらであるけど、俺が意識を失ってから3日程の間起こった事等を聞いた。
纏めるとこうだ。
現在位置は俺が暮らす事になった家で第三宿舎に近く、国王が俺のために用意をしてくれたらしい。
それと今後何があるかわからないのでココスとヒューリーが一緒に住む事になった。
また3日前に兵糧庫が何者かに焼き討ち、それと警備についていた5名の兵士が戦死。
その翌日、1人の間者が捕まり現在尋問中。
また、その件のせいで食料関係がより深刻となり2週間後だったレグ国への出発が早くなり3日後出発となった事だ。
「でだ、シュンの意識が戻ったが、お前の体調を考えて護衛部隊から外そうと思ってるんだが、どうする?」
確かに、体調の悪い者が仕事にでて迷惑を掛けるなんてのはよくある話だ。
しかし、鍛冶屋の親父さんから聞いた話を思い出す。
死属性を使えるのはレグ国の国王だけ。
「いや、レグ国に行きたいと思ってるんだ、なるべく当日までには回復させるよ」
「そうか、なんでまたレグ国に?」
自分の属性の事やまたその属性を使えるのは現在レグ国王だけと聞いた話をリョウ達に話す。
「なるほど…この話はココスとヒューリーも知ってたのか?」
「ええ、隣に居ましたし、話す程の事ではないと判断しましたから」
「……ああ…」
その二人の反応にリョウは深い溜息を吐く。
「はぁ…ったく、…いいか?今死属性なんて使えるのはレグ国王とシュンだけだ。
この話はかなり重大だぞ、死属性ならあの国の奴らが気付かなくて当たり前だ、認知されてないんだからな。
だからか、あの動く死体はシュンの魔力暴走でか。
闇属性にあんな魔法は無かったし、おかしいと思ってたんだ」
当時の光景が浮かぶ、数日前まで笑いあってた仲間たちが冷たい死体となり、動き、生きてる者達に襲いかかる。
吐き気が襲いかかるが、なんとか抑え込む。
ここで吐いたら余計に心配を掛けてしまう、それだけは止めたかった。
「んじゃあ、まぁしょうがないな…ココス、ヒューリー二人は今以上にシュンを支えてやってくれ」
「当然です!」
「……ああ…」
俺は無力だな、何処に居ても周りに迷惑や心配ばかり掛ける。
食事を済ませた後、ココスに肩を借りて自室に戻り眠る事にした。
翌日には体調も回復して、部屋に置いてあった剣を持ち外に出て素振りをする事にした。
家の入り口を探し出して家をでると門番が居て、その一人に呼び止められた。
一応もう大丈夫だと伝えたのだが駄目の一点張り。
大丈夫だ駄目だと口論してる間に門番の一人がココスを呼んだらしく家の中からすごい勢いで走ってきた。
まぁ、当然と言えば当然だけど、ココスにこっ酷く叱られた。
身体の状態も大丈夫だと言ったのだが聞き入られず今日も消化の良い料理を出され、部屋に閉じ込められた。
外に出ようとしても部屋の前に仁王立ちで監視するココスが居て動けそうにないので大人しく休む事にした。
出発当日は、昨日と同じく身体の調子もよかったので、ココス達と城の方へ向かうのかと思ったが、気付かないうちに俺の装備が寿命らしい。
戦闘になった場合壊れる危険性があるから出発前に武器を買ってから行くとの事。
昨日行けばいいのにと小声で愚痴ったらココスに聞こえたらしく睨まれた。
武器屋は中央通りの街の出入り口近くにあり、かなり大きい店だった。
そこで仕官がよく使う長剣を一つ部隊費用で買い店を出るとちょうどリディ達の一団が遠目にこちらに向かってくる所だった。
「お待たせしました、シュン様は乗馬の経験は?」
「いえ、ないです」
移動は基本的に馬車に乗ってだったので、護衛部隊の兵卒達と一緒に馬車に乗る事になった。
リディさんは使節団の長として専用の馬車に乗りその前後に護衛部隊の馬車が。
そして前方にヒューリーと数名の兵士、左右にジーノとデルミンが、後方にはココスと数名の兵士が陣取る。
成り立てとはいえ仕官の自分がこれでは少し恥ずかしい気もする…
今度馬に乗れるよう教えてもらおうかな?
馬車に乗り兵士達に奇異の目でみられながら出発する事になった。
19話目了です。
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