表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

8月7日ー7

脱衣所に行くと、洗濯機がありそこに服をそのまま乱雑につっこんでいるようだった。


白いワンピース、これはすずが着ていたものだろう。もう一つは雪華が今日着ていた服とスカートだ。ふと下着が目に入るが見なかったことにする。


うーん、さっき汚名返上したはずなのに、全てを台無しにする俺。


……えーっと、自分が脱いだ服を観察した。


俺はただのその辺に売ってそうなデザインの半袖半ズボン。よく考えればこの服はいつから着ていたものなのだろう。


海水に濡れていたからか、服からは少し潮の匂いがするが特に傷がついているというわけでも……。


「ん?」


青を基調としたデザインの半袖Tシャツだったのですぐには気づかなかったが、よく見てみると襟の部分、少し色が違って血が染み込んだ色のように見える。


『事故』……?そんな言葉が脳裏によぎる。


この位置をたどるなら、と首から頬、目尻、額と手をなぞり頭に触れる。特に傷もなく至って健康体だ。

ふと目の前の光景に唖然とする。これまで自分を鏡で見てなかったから気付かなったことだった。


俺の髪色は真っ白だった。


ただ色素を失ったような色ではなく少し輝いてみえる、言うなれば銀髪である。

自分にとっては異質なことだった。先入観か、自分はてっきり黒髪だと思っていた。またわからないことが増えてしまった。


少し情報が増えるだけで、頭を悩ますことが増えてしまう。うーん、流石に考えるのがめんどくさくなってきたな。


俺は追究するのをやめた。


「問題が起きたらその時考えればいいんだよ、あいつがそう言ったんだ。

俺が銀髪だって、服に血がついてたことだって、別に俺の中で疑問になってるだけで別に誰も困ってないじゃないか。

ってああー」


あとで服は別で洗っておこう。血のついた服なんて他人の服と一緒に洗うものじゃない。


洗面台で石鹸を使ってよくゴシゴシと襟を往復させる。血というものは水で簡単には取れない。色がだいぶ薄くなったのはわかるが、これでは取れたとは言えない。


しばらくやって、諦めた。


「多分そういう道具、ホームセンターか百均にあるよな」


良く絞って使ってなさそうな籠にいれた。


ズボンや下着類はそのまま洗濯機に突っ込んでおいた。


浴室のドアを開ける、開き戸だ。一回掃除のときに見ているので大抵のものの場所はわかる。


自分の身体を洗いながらその部分部分におかしいところがないか見る。


「特に、おかしくねぇよな」


髪色が明らかに違和感があること以外とくに身体的特徴として人間の特徴と相違ある部分は見えなかった。


……。


「他の人のを知らないけど、もしかして小さ……」


やめよう、そんなわけないさ。標準くらいだろう、そうだ、多分、きっと。


頭、身体、足と上から順に洗って、俺は湯舟に浸かった。


「ふああああ」


湯舟が心地よい、疲れていたのもあって眠くなってくる。


湯舟に浸かると疲れが取れるような気がする。夏とはいっても日本人が湯舟に浸かるのはやっぱりこれだろう。

むしろ湯舟に浸からないと違和感があるというものだ。


ただ、ずっと浸かっていると考え事をしてしまう。さっきの出来事がまた蘇る、まてよ、銀髪って最初は驚いたけど思い返せばかっこいいんじゃないか?


ちょっと手をかざしてみる。特に何も起きなかった。


指を鳴らしてみる。特に何も起きなかった。


手に力を込め、放つ。特に何も起きなかった。


うーん、予想していたことは大概起きない。能力者だから記憶が消されたとかそんなことを考えたのだが至って普通。なんでもない中二病の一般人である。


やっぱり事故に遭ったとかそんなのだろうか。それでショックで髪色が抜けたとか。


浅いことを考え続けて時間が経っていった。


「そろそろ出ないと」


湯舟から出る、夏なのでそこまで湯舟から出ることに抵抗はない。むしろこの空間は少し暑い。


雪華が用意していたらしい下着と赤色のジャージがあった。


「よし」


ジャージに着替えて俺は洗面所を出た。


廊下を進んで客間に戻ると、二人がゲームをしているのをおじさんが後ろから座ってみていた。


「出たっすよ」


「おう」


おじさんはすぐさま立ち上がり客間から出て行った。


「っと、二人はなにやってんだ?」


「ゲーム!」


いや、ゲームなのは見りゃわかるが……。自分はゲームに聡くないが某配管工だろうか。えー、2Dのやつしかしらない、なにこれ。


「俺外の空気吸ってくるよ」


「ばいばーい!」


ゲームの画面を見たまま、すずがそう返す。


やることが、ない。スマホがあればぼーっと時間を過ごしていたのだろうか。


現代人娯楽に溢れているものだと思っていたが、スマホも本もなければ寝るくらいしかすることが思いつかないのは、ある意味娯楽に欠けているとも言えるのだろうか。


玄関から、外に出る。


外は涼しくて、海から吹いてくる冷たい風が当たる。自然ならではの風だ、匂いも違う。今度は山にでも行ってみたくなるものだ。


月が出ていて、少しだけ1等星だか2等星だか眩しい星だけぽつぽつと空に見える。


夏の大三角ってどれだろう、よくわからない。夜空の星を嗜む感性は持ち合わせているのだがあいにく知識を持ち合わせていない。


門から外に出て、今日チラっとみた公園に向かう。


公園にある遊具というものは、ばねで前後に動くパンダのスプリング遊具とブランコくらいのものだった。


俺は右に見えた植物に屋根で覆われている椅子に腰かけた。


今は20時くらいだろうか。見渡すと、真っ暗で街灯もあまりなくぽつぽつと家の窓の光が漏れているのが見える。


座っていると夜の風の冷たさというのは歩いているときと違って、そのままささやかに感じるものだ。夏だがいい気温で心地よい。


そのまま時間を過ごしていると、ふと人の気配がしてそちらに向く。


「お前……」


制服の少年が公園の入り口に立っていた。


「こ、こんばんは」


誰だがわからないが、挨拶を返してみる。


「どの面さげてノコノコと、何しに来たんだよ」


初対面からキレられるようなことをした覚えはない。

が、入口からそう大声で少年はこっちに言ってくる。


「?……俺を知ってるんですか?」


「は?何言ってんだよお前、とぼける気か?あの日のこと俺はお前のせいだと思ってるから」


そういいながら俺の方に歩いてきた。


「あの日のこと?」


「おまっ、殴られたいのか?」


「ちょちょ、俺記憶喪失なんだ。俺のこと本当に知ってるのか?」


「はあ?記憶喪失?はあ、別に、いいけどよ。なんで帰ってきたんだよ」


「帰ってきたもなにも目覚めたらここにいて、俺のこと知ってるのか?知ってるなら何でもいいから教えてほしいんだが」


「思い出したくねぇよ、お前らのことなんか、……あの日のことなんか」


そう少年は言いながら少し下を向き目を逸らす。


「お前ら?俺以外に誰が」


「あー、もう、うるさいうるさい!俺は帰るから。じゃ、二度と話し掛けんなよ」


「あ……」


向こうから話し掛けておいて二度と話し掛けるなとはどういうことだろうか。


少年は怒りを露わにしながら帰って行った。今なら間に合うがああ言われてしつこく言い寄れるほどの精神は俺にはない。


でも、情報が確かに手に入った。俺のことを知っている人間がいる。お前らなんてと言っていたから多分複数人、あいつと誰か。その誰かは定かではないがこの町にいるんだろうか。

同年代?これは偏見か、決めつけは視野を狭くしてしまう。俺を知っているであろう誰かは、そもそも男か女かすらわかっていないわけだし。

いや、そもそもその第三者はすずの可能性がある。真っ当に考えればすずの可能性が一番高いだろう。


それに……、あの日っていつだろう、あの日と言っている以上今日昨日の最近の話ではないと思うのだが。


まとめるとあの日、俺と誰かとあいつがいて、なにかが起こって、それは俺のせいだった、多分。そのことであいつは俺を恨んでいる、ということだろうか。


うーん、全部が曖昧すぎるな……。本を探したいのにタイトルどころか内容も思い出せないみたいな状況だ。


この町に自分のことを知っている存在がいる以上、明日にでもその誰かってのに会えるかどうか、歩きまわって聞いてみると進展があるかもしれないな。


考え事をしていたら、かなり長くここにいた気がする。そろそろ帰るとするか。


俺は、思考をかき混ぜるように髪をくしゃくしゃにしながら椅子から立ち上がり、公園を出た。




何事もなくおじさんの家に戻り、客間の電気がまだついていることを確認する。


俺は玄関から戻り、サンダルを脱いだ。


客間にいくと、みんながくつろいでいた。ゲームは疲れたのかもうやめていて、21時から放送しているらしいドラマが始まっていた。


「ただいま」


「おかりー」


と真っ先にすずが振り向いて言う。


「どこに行ってたんだ?」


おっさんが今日の朝刊か、新聞を見ながらこちらに問いかける


「そこの公園っす、なんか変なやつに、俺のこと知ってるって」


「そりゃあ、良かったじゃねぇか。何がわかったんだ?」


「いや、俺のこと知ってる人がもう一人いるのかな?ってくらいで……」


「それ以外聞かなかったのか?」


「なんかあいつ怒ってて」


「お前がなんかやったんじゃないのか?」


「記憶失う前のことなんて知りませんよ……」


「まぁ、いいが。一応進捗だな」


「っす」


「汐音さん、ほかは本当になにも聞けなかったんですか?」


「あ、えーっと、そういやあの日のことは俺のせいだって。それで怒ってるみたいで。

俺ここに来た事があるみたいなんだ。雪華、本当に俺のこと見たことがないのか?」


そう言われて10秒ほど雪華は考える仕草を見せた。が


「思い返しても私は見たことないと思います」


「そうか、ありがとう。明日また町の人に聞いてみるよ」


「頑張ってください、汐音さん」


そう言いながら雪華は手をグーにしてファイト!と向けてくれた。


「話変えるけど、寝床ってそういやどうすればいいんだ?」


「それなら、和室の方に布団を敷いておいたので、そこで今日は寝てください」


「了解、本当に世話になるな」


「いえ、私も少し楽しいんです。いつもお父さんと二人だったので」


「これから少しの間かもだけど、賑やかにしてやるよ」


「あんまり騒ぎすぎないようにしてくださいね」


と少し笑いながらそう雪華は返した。

そのあとドラマを見ていたのだが、途中からでそこまで内容が理解できなかった。


恋愛系で、見ていて飽きはしなかったのだが知らないエピソードがどんどん回想されて、ヒロインが悲しんでいるシーンが流れたり、ヒロインの友達らしき人が恋愛観を説いたり。


ストーリーものを途中から物語を見るのは難易度が高い。感想はそれだけであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ