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8月7日ー4

上りきると、木のベンチにすずは座っていた。


風に長いワンピースはなびいて、綺麗だった。


このまま絵になるんじゃないかってほどに美しく、すずは自分たちには見えないなにかを見つめているような、いつもとは違う目をしていた。


とこっちに気づいてその雰囲気は一瞬で朗らかなものになった。


「もう、おそーい。おーそーすーぎー。ずっと待ってたんだからね」


「あ、あの、すずさん」


「ん?なあに?雪華ちゃん」


「さっきまで意地の悪い態度取っちゃってごめんなさい!」


「……ん?よくわかんないけど気にしてないよ!それより綺麗だね!ここの景色、教えてくれてありがとう!」


そう返すすずを見て、雪華の顔は満足さを見せるかのように笑みが零れていた。


「ど、どうしたの!?なにかわたしおかしかった?」


「お前がおかしくなかったことなんかないだろ」


俺がおどけて二人の間に入る。


「え、ひどい、わたし普通の一般女の子だと思うんだけどー」


「普通の人は自分のこと普通って言わないですよ」


雪華が、調子を取り戻した様子で会話に入ってくる。もう自分たちとの間にあったわだかまりはなくなったように感じられた。


「え、じゃあ普通の人はなんていうのさ」


「ここに普通のやつがいないとわかんないだろ」


「え!?私もおかしい人の一人に入れられてるんですか?」


「雪華ちゃんが普通の人の回答用意できなきゃ雪華ちゃんも、おかしい人だよ!」


「正解があったとしてそんなの誰が知ってるんですか」


思ったよりすぐに打ち解けて、ずっと俺たちはベンチに座って話していた。


~~~


「あのさ、わたしずっと思ってて、なすって夏野菜じゃない?なのになんで縁起のいい初夢を一富士二鷹三茄子って言うのかなって

三餅じゃだめなのかな、鏡餅がちょうど三段だよ!」


「俺考えたことなかったな、富士山は縁起良さそうな感じするけど、てかそもそも二鷹もよくわかんないし」


「なんでだろう、家に帰ったらまた調べてみようかな……」


気付くと日が暮れてきていて風もだんだん冷たくなってきていた。


「綺麗な夕日だねー」


太陽が山に隠れてきていて、辺りの空が黄昏色に染まってきている。


木の隙間を、そよそよと抜けてくる風が夏の暑さを少し紛らわせてくれるような。肌で自然を感じる、心が洗われていくような情景だ。


三人で夕日が沈んでいくのを静かに眺めていると、ふと、雪華が切り出すように言った。


「そろそろ帰らなきゃいけない時間……すずさん、汐音さん」


こっちをみて笑顔を見せる。すずもそれに呼応してこっちを見てくる。

少し嫌な予感がする……


「え、俺やだよ、歩いて帰るよ俺」


その声を聞いていないかのように俺の台詞を遮ってすずが言う。


「一番最後に帰った人は夕ご飯の準備ね!」


「え、えぇ…てか階段走って降りるの危ないって」


二人はもう聞いていなかった。走り出して階段を駆け下りていく。

はぁ……まぁここでの初仕事だと思えばいいか。

そう思いながら少し駆け足で、俺は先を行く二人を追いかけた。




家につくと玄関で、すずがバテていた。


「あんなに……、走ったのに……、二番」


息切れ気味にすずが言う。


「元陸上部を……、舐めないでください、こんな距離全然疲れません」


そう胸を張り、言いつつも、雪華の額には汗がにじんでいて、息も切れ切れだった。


「お前ら、仲いいな……」


この二時間くらいで、あの微妙な状態からよく持ち直したものだ。


「俺は夕飯の支度手伝うからお前らは汗でも拭いとけよ、そのままエアコン効いた部屋行くと風邪ひくぞ」


「はーい」「ん」


俺は廊下を通ってそのまま真っすぐ進んだ。


家を出る前少しチラっと見た時にこっちにキッチンがあることはわかっていた。


「おっさん、エプロン似合わないっすね」


もう使い古しているらしいピンク色のエプロン姿で卵焼きを作っていた。


「ん?生意気言うようになったな少年、外出て元気出たか」


「俺も手伝うっすよ、なにしたらいいっすか」


腕まくりをしながら俺が参戦。なんでもやってやる気迫で満ち満ちている。


「お前は魚、捌けるか?」


oh……、記憶喪失関係なく出来ない、知らない、わからない。


「えー、……無理です」


「じゃあ皿とか用意しとけ、ご飯は炊けてるからもうよそいでていいぞ。魚は、……まぁ今度教えてやるよ。

時間が余ったら、そうだな風呂洗っててくれ」


「おっさんは、さっきまでなにしてたんすか」


「さっきまでか?掃除が終わったあと、お前らが帰ってこないからテレビ見てたな」


「そ、そうすか、まぁ頑張るっす」


おじさんに、置いてある皿の場所を教えてもらいながら、指定された皿をとってそれを台所に準備していく。

傍目に見ていておじさんは料理の手際がよく、その姿は意外に見えた。


「この辺っすかね、お風呂ってどこっすか」


「トイレの扉の一つ奥だ、洗い方は流石にわかるよな?」


「っす、行ってきます」


扉を開けて、洗面所があり、その奥に風呂の扉があった。

洗剤とスポンジはわかりやすいところに置いてあり、シャワーを使いながら念入りに洗っていった。


自分は几帳面なのか、作業を始めると自分が終えたと納得するまで掃除したくなるもので、ずいぶんと時間がかかってしまった。


「おっさん、こっち終わったっすよ」


「おお、ちょうどこっちもだ、夕飯食べ終わったら順に入るからもう湯入れ始めてていいぞ。200リットルくらいだ」


「うっす」


とすぐ逆戻り、湯を入れる、蛇口を捻りそこからお湯が流れて溜まる、最近のものではない。

ボタンをポチ!でなんか聞いたことあるクラシック音楽が流れる。とかの概念はない。メーターが200のところで捻る手を止める。


使ったことがない気がするのにやり方がわかる、シンプルなものはいいな。

……そんなことはさておきキッチンへと戻る。

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