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8月11日ー3

夜中も、もう20時。ちょうどいい気温だと感じる。


「今日は一度も外に出てないし、散歩でもしようかな。すずと雪華は……」


ゲームに熱中している様子だ、なんとなく初めて出会った日とその光景が重なって見えて笑ってしまう。

あれはつい先週のことなのに、この数日がそれなりに濃密だったからなのか、かなり昔の出来事に感じてしまう。


そのまま俺は外に出た。もう雨は止んでいて昼間よりなんだか空が少し明るく感じる。

星は出ていないから曇っているようだ。


俺はあの日と同じように公園に向かう。同じ行動をすれば、同じ結果に出会えるジンクスを信じて。


「あ、いた」


結果は見事、ビンゴだった。そこには俺のことを恨んでいるらしいその少年の姿があった。


「なぁ、俺のこと知ってるんだろ、お前」


「……話し掛けんなって言っただろ、記憶喪失とかほざくやつに俺は用はねえんだよ」


ふといいアイデアを思いつく、あの日よりは俺は情報を持っている。それは武器になるのだ。


「お前、蓮っていうんだろ?花恋って人がそう言ってたんだ」


「……」


「お前は、誰なんだ?なんで俺のことを嫌ってるんだ」


「……」


「俺は2年前にここにいたのか?」


「本当に、なんも覚えてないんだな。記憶喪失ってのは、怜奈を見殺しにした言い訳じゃないって信じるよ」


「みご……え」


帰ってきたのは意外な返答だった。


「いいや、最初から俺が悪かったな。そもそもあの日逃げたのは、お前だけじゃなくて俺もなんだから」


「ご、ごめん。全然話が見えなくて、最初の方から話せたりするか?」


「ん?ああ。こっちこそ勝手に喋ってた、すまん。でもどこから話せばいいのか」


「俺と出会ったころから?」


「えっと、あんま覚えてないけど、怜奈が新しい友達ができた?的なことを言って、いつも通り公園に集まったのが初めてか」


「そ、そうなのか」


「そこからはあの日まで適当に遊んでただけだと思うぞ。毎日のように5人で遊んでただけだからほんとに全然覚えてねぇ。


ああ、そういえばスイカ割りとかもやったか?えっと、あと肝試し?

あ!山の上の神社に秘密基地を作って怒られたわそういえば、あれは……、思い出してみたらあれ俺のせいだな、汐音のせいにしてたけど」


「えっと、俺って、2年前ここに引っ越してきたのか?」


「そうじゃないから、俺が秘密基地を作るのを提案して怒られたんだろうが」


「ど、どういうことだよ」


「お前は2年前に1人でここに来たんだよ、なんで帰りたくないのかはずっと話してくれなかったけど。

んでお前に家がないから、俺がお前の家を作ろうぜってことで神社の裏に建ってた祭具とか入ってた倉庫をそのまま活用して」


元からある施設をそのまま使おうとしたのか、そりゃあ怒られるな。


「ま、まぁその辺はあとあと聞くよ。あの日っていつのことだ?」


「そりゃ、怜奈が、う、海に突き落とされた日だろ」


少し言葉を詰まらせながら蓮はそう言った。


「突き落とされた……?」


「ああ、俺は遠くから見てただけだけど。俺はお前がなんとかしてくれると思って動かなか……ずるい言い方だな。

助けに行ったら俺も殺されると思ったから……早く大人を呼ぼうと思って、いいや、俺はあの日、殺されるのが怖くて、……逃げた」


「その場所に俺はいたのか……?」


「お前があそこに、波止場にいたから、怜奈がお前のとこに行ったんだぞ、順序が逆だ」


「順序が逆……。俺が怜奈を海に突き落としたのか?」


「なんでそうなるんだよ、それだったら、そもそもこのあいだ会った日に理由も聞かずにぶん殴ってるわ」


おお、暴力少年。バイオレンス。


「あの日、お前と怜奈が話していたところに、誰か知らない大人が来たんだよ」


「知らない、大人……。それが誰か既に判明してたり?」


「お前が記憶ないのはそのせいかもな、顔を見たかもしれないのはお前とあと……」


「あと?、あと誰がいるんだよ」


「……」


「怜奈の母さん。俺があそこから逃げたあとに冷静になって怜奈の父さん呼ぼうと思ったらいなくて、事情を説明したら俺が詳細を話す前に走って行って……」


そのあとに、怜奈さんと絵里香さんは水死体となって発見された。

これが示すのは、こいつが、蓮が助けを求めたことによって、話を聞いた大人、絵里香さんが知らない大人ってやつの手によって殺される原因になったかもしれないということ、だ。


「お前は、俺を恨んでたんじゃなくて……」


あの場において行方不明という扱いになった俺のせいにすることで、『自分のせいで人が死ぬ原因になったかもしれない』という罪の意識から逃げようとしていたのだろう。


「わかってる、でもどうすればいいかわかんねぇから!!」


「もし、お前が俺のせいにすることで、この2年間を普通に過ごせたのなら、今はどうだ?」


「もうお前のせいにはしねぇよ、ああ、怜奈の母さんが死んだのは、俺のせいだ」


「それはちょっと違うよ、絵里香さんが亡くなった原因は、……わからないけど、少なくともお前は悪くない」


「は?何言ってんだよ、俺が言ったせいで怜奈の母さんはあの波止場に行ったんだぞ」


「そうだな、お前が助けを求めたことで、絵里香さんは波止場に向かった。それは間違いない。じゃあお前が助けを求めなかったらよかったのか?」


「……」


「あの親子の水死体は一緒に発見された。怜奈さんが海に落ちたことを知ったとして、絵里香さんは海まで行った。

絵里香さんは海育ちの人間だ、いくら冷静じゃなかったとしても不用意に飛び込むことはないだろう」


「……そうだとしたらなにが違うんだよ」


「お前は、怜奈を救うためにその場で最適な判断をしたんだよ。助けを呼ばなかったら、お前は怜奈を本当の意味で見殺しにしたことになるんだから」


「そう、か。そう、なのか」


「ああ、お前はあの日間違ってない。お前が行ったところでお前が死んでたんだろう。恐怖を抱くのだって当然だ。

お前は頼れる大人を呼ぼうとした、だから真っ先に怜奈の親父さんを呼ぼうとしたんだろう?」


「ああ、怜奈の父さんを呼ぼうとしたんだ」


「でも、あの日あの家にはいなかった。だから絵里香さんが行った。

結果は残酷だったかもしれない、けどお前がやったことは何も間違ってないじゃないか」


「俺は、俺は、人を殺してないのか?」


「ああ、お前は人を助けようとしたんだ」


「そう、なのか。俺はもう謝らなくていいのか?」


「お前が謝る必要はないだろう。だって怜奈さんと絵里香さんに直接手を出した人間がいる。そいつが悪いよ」


しばらくして蓮は調子を取り戻して、昔話をしてくれた。


2年前に起きたことが少し見えた。蓮からの情報では2年前にやったスイカ割りが楽しかったことやら、夜って人がかくれんぼが上手かったこと、俺がラムネ好きだったこと。


遊んだ思い出ばかりで、その男の情報は特にわからなかった。ほかの情報も重要情報は特になかった。

わかったのは蓮が本当は俺たちと遊ぶのが本当に好きで、楽しかったいい思い出だったということだけ。でもそれが幸せなのかもしれない。

あの日の出来事さえなければ今でも5人は遊んでいたのかもしれない。そう感じた。


そのあと別れて家に帰り、普通に風呂に入って寝ることにした。

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