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8月11ー2

「雪華ちゃーん、今日もご飯ありがとー!」


「すずさんも、料理覚えてみる?さっきお兄ちゃんと趣味とお仕事のお話してて、お兄ちゃんは読書が趣味なんだって」


「うーん、やってみるのもいいかもねぇ」


すずの返事が雑すぎる、料理には興味なさそうだ。


「そういえば雪華ちゃん!!」


「な、なに……」


「敬語じゃなくなったのは嬉しいんだけど、なんでさん付けなの?」


「流石に年上を呼び捨てするのはちょっと、と思って」


「じゃあ……」


怜奈イコールお姉ちゃんだから、お姉ちゃんは地雷だぞ、と心の中ですずに言う。


「すずちゃん!って呼んで、友達にちゃん付けはするでしょ!」


「私友達いないから、ちゃん付けしたことない……」


一番デカい地雷は避けたが、別の地雷を踏んだようだ。


「ちゃん付け、いいんじゃないか?すずから雪華に対してもちゃん付けだしさ。

さん付けはやっぱり距離感あるように見えちゃうよ」


「だよね、雪華ちゃん!カモン!」


「す……すずちゃん」


改めて名前を呼ぼうとすると少し恥ずかしいよな、わかるよ。


「わたしだよ!!」


すずが嬉しそうに雪華に抱き着こうとする。それを雪華はサッと避ける。


「すずちゃん!ご飯が冷める!早く食べる!」


雪華はだいぶすずの扱い方がわかってきたらしい。避け方が華麗だった。


「「「いただきます!」」」


「って、そういえばおじさんは?」


「それ俺もう聞いたよ、だから大丈夫」


「わたしは大丈夫じゃないよ、まだ聞いてないもん」


「釣りに行ったんだとよ、朝から元気ですな」


「元気だねぇ、そうだ!汐音も釣り……」


「その話も、もうしたわ」


「ちぇー」


そのあと、黙々とご飯を食べる俺たち。それぞれのタイミングで食べ終わって、「ごちそうさまー」と言って片づける。


今日も最後に食べ終わったのは俺だった。みんなが食べるのが早いんだよな。もっと味わって食べた方がいいと思う。うん。


「ごちそう、サマー」


「うわ、さむ」


「今日は雨だからな」


「え、ほんとじゃん。じゃあ今の汐音のギャグのせいでこれが雪になるの?」


「ならないだろ」


「急に正気になるなよー」


「まぁ、雨だから外に出るのはちょっと面倒だし、今日はどうする?」


「どうする、ってなにかすることあるの汐音」


「なにもないから聞いてるんだろ」


「トランプ……は、向こうに置いてきちゃったんだっけ」


「あっても俺はやらんぞ」


「汐音どのゲームでも、わたしか雪華ちゃんのどっちかには負けるもんね」


「言い切るなよ」


「あ、そうだ!普通にゲームは?昨日なんかずっと『集中してます!話し掛けないでください』オーラ出してたじゃん。誘いにくかったんだよね」


……俺がテレビゲームも苦手だからな。ゲームと名のつくものでこの2人には負ける自信がある。でも苦手なことはバレたくない。


「3Ⅾゲーム俺酔うんだよな、対戦ゲームは少し躊躇しちゃうからやりにくいし」


「普通に2Ⅾアクションゲームは?」


「えっと2Ⅾアクションゲームっていうと、配管工の?」


「なにその言い方、それやる?」


「いや、著作物の名前を直接出すのが憚られる病気だから。やってみます、はい」


世界的にみれば一番と言っていいくらいポピュラーなゲームだし、普通のプレイならできるだろう。




「……」


「え、ワールド1でゲームオーバー……?」


「お兄ちゃん、空中で下押したらヒップドロップしちゃうから、穴の上で余計な操作しない方がいいよ」


2回死んだあたりから、馬鹿にされると思っていたのだが、これは心配される区域らしい。

い、いやゲームオーバーになるのは残機が5個しかないのが悪い。俺は悪くない。


「汐音のゲーム力を鍛える会を結成するしかないね、まずは協力プレイで人の動きみて真似するところから」


「やだー、俺本読むのー」


「お本じゃなくて、今日はお手本を見る日だよ」


「全然うまくない……」


「ワールド8に放り込まれたい?クリアデータあるから放り込めるよ」


「なにその脅し、怖い」


「まぁワールド9があるシリーズもあるんだけど」


「ワールド1で練習させてください」


「大丈夫、所詮はゲームだから」


主に雪華が隣で黙々とお手本のプレイをしながら、すずが俺の横について操作や画面の説明をしてくれる。すずは反応が大きくて、できた時に過剰なくらいに喜ぶから少し楽しかったかもしれない。


午前中はほとんどゲームで、そのあとはお昼ご飯だ。

今日はたらこスパゲッティだった。雪華の手ほどきを受けながらすずが作ったものだ。

そう、すずが台所に連行された。最初は「



「ゲームはこの辺にして、そろそろご飯にしよ。お兄ちゃん、お疲れ様」


雪華が言い出してくれた。すずはそこそこのゲーム好きらしい、このままだと俺は一日ゲームコースでゲームクリアしてしまうところだった。

いや、クリアできるはわからないけれど。


「お昼ご飯楽しみだなあ」


「すずちゃん、料理一緒にやってみない?」


「えー、今度でいいよー」


「今度でいいじゃなくて、嫌、なんだね。でもお兄ちゃんにゲームやらせたでしょ。嫌がる人にゲームやらせたんだったら、自分も嫌でもやりなさい」


「……はい」


「お兄ちゃんは休んでて、きちんと美味しいものになるようにはするから」


いや、そこまですずが料理下手だとは思ってないが……。少なくとも俺よりはできそうに思う。まあ待てと言われた以上は待つことにする。


外の音に耳を澄ましてみれば、大粒の雨がボトボトと落ちるような音が聞こえる。

かなり雨が強くなってきているようだ、朝は服が多少濡れるのが気になる程度の雨だったが、ここまで強くなっていると外に出るなんてまず考えようもしないレベルだ。

というか、親父は帰ってこないのか?こんなに雨が降っていると釣りなんてしてる暇じゃないと思うのだが。


そんなことを考えて大体20分ほど、すずと雪華が戻ってきた。

その手に抱えているのは見事なたらこスパゲッティだった。


「やればできるじゃん、すず」


「だね、普通にすずちゃん料理できたよ」


「でしょ、わたしやった覚えがないって言っただけだもん」


「じゃあ、明日からの朝ご飯もすずちゃんの当番にできるね」


「……、今回はたまたま得意なパスタ系でさー」


なるほど、料理がしたくないんじゃなくて朝早起きしたくないのかこいつは。


「てか、わたしがやるんだったら汐音も朝ご飯当番しないとつり合い取れないじゃん」


「釣り合いは取れるよ、お兄ちゃん元々毎日のお風呂掃除と洗濯は担当してるから」


「まぁ家族でもないのにタダで住まわせてもらってるからな、これくらいは。皿洗いもやるって言ったんだけどな、その二つで十分って言われたから」


「あ、そうだ、すずちゃん皿洗いもする?朝ご飯は私と交互の当番にして」


「ええー……。あ!そしたら雪華ちゃんの仕事分減らない?」


「正確にはお兄ちゃんに洗濯機回して干してもらうところまでやってもらってるから、取り込んで畳むのは私がやってるの。

取り込むのは大抵夜だから皿洗いと時間被ってるの。

あとはお昼に掃除してるし、仕事分はすずちゃんが皿洗いしても足りないくらいだよ」


「うぅ……じゃあ仕方ない、やります」


「じゃあ、今日からお小遣い解禁だね」


「え?」


「一日お仕事1種類につき100円でお父さんから貰えるの」


「なんでそれを先に言わないの、それならやるよー」


がめつければ、ましてや猛々しいなこいつは。


「お兄ちゃんが元々お父さんに働くって話したけど、ちょっと見つからなかったからそういうシステムにしたの」


「え!?そうだったの?普通にあの話めんどくさがられて、忘れられたのかと思ってたわ」


「正直に言えば、お父さんの紹介でも身寄りもわからない人を雇うのは少し遠慮されたっぽい。仕方ないかなそれは」


「それは、そうだな、至極当然すぎる」


「2人とも、まだ食べないの?まだあったかいけどずっと話してたら冷めちゃうよ」


「あ、そうだな。食べようか」


「「「いただきまーす」」」


お昼ご飯を食べ終わったあとは、ゲームはもう目が疲れたので普通に本を読んでいた。

雪華も隣で本を読んでいて、すずが「つまんなーい」と言いながら和室の方に戻って行った。しばらく帰って来なかったから多分寝ていたのだろう。つくづく暇なやつである。


しばらくして18時になっても親父は帰って来ず、俺たちはそのまま夜ご飯を食べた。


もう19時になってから、やっと親父が帰ってきた。


「もう19時だぞ、ご飯食べ終わった」


「おう、そうか。雨が凄くてな、車動かす気にならなかった」


「ほーん、釣りはどうだったの?」


「道具は持って行ったけど、雨で調子が良くないから街の方に買い物に行くことにした」


「買い物にしては長すぎるだろうよ」


「……パチンコ打ってたからな」


「別に正直にいえばいいのに、家計握ってるの親父本人なんだから」


「いや、絵里香に怒られた記憶しかないから、言いにくくてな」


「はは、次は雪華に怒られるかもな」


それを聞いて親父は苦笑いする。


「まぁ、先に風呂入りなよ、雨で濡れたままだと風邪引くからさ」


「あ、ああ。これ、買い物で買ってきたやつだ。アイスと冷凍食品は冷凍庫によろしく。お菓子は勝手に食え」


「ふーん、これは?おつまみ?」


「ん?ああ、忘れてた。それは俺のやつだ」


「勝手に食っちゃいけねぇじゃねぇか、自分で買ったものくらい覚えとけよ」


「すまん、半分食っていいからそんな怒るなよ」


「別に怒ってねぇよ。俺の口調が元々きついだけだわ、はよ風呂入れ」


「うーい」


買い物を冷蔵庫、冷凍庫に分けていれたあと、和室の方でそのおつまみを食った。言質は取ったから、俺は言われた通り食っただけ。よし。


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