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8月8日ー2

途中に見えていた駅はほとんど無人駅だったからか、ついた駅はかなり大きく見える。ホームがきちんとあって、駅員さんがいるのが見える。しっかり街の駅といった雰囲気だ。


「じゃあ窓口で清算して買い物ですね」


整理券は各々が持っていたが、財布を持っているのが雪華にだったから、俺たちはyユキカの後ろをついて行きながらまとめて清算してもらい駅を出た。


駅を出ると、目の前にはタクシーや乗用車、バスなどが止まれるターミナルが広がっていて、夏の照り付ける太陽がアスファルトに反射して顔に熱線が注がれるようだった。


「流石に暑いねー」


すずが手を仰ぎながらそう言う。


「そうだな、帽子とかあった方がいいかもな」


「ここからちょっと歩く予定なんですけど大丈夫ですか?」


「まぁリハビリみたいなものだと思えば気持ちは楽かな」


「ここからお昼になるともっと暑くなりますから、急ぎましょうか」


「おうよ」


「はーい」


「そういえば、同級生ってどのくらいいるの?」


「私ですか?私自身は籍を置いているだけで行ってないのであまり正確なことは言えないですけど、十数人くらいだったかと」


「少ない方、かな。世間的に見たら」


「まぁ町の人口も昔に比べると減ってますし、こっちの地方は全体的にそんな感じだと思います。聞いた話だと合併してるところも多いとか」


「なんとなく自分が思い浮かべた学校だと生徒数が300人くらいいて顔を合わせたかすらわからない、みたいな……」


ん?これは俺の記憶か?なんとなく曖昧すぎる想像のような。


「都会の学校ってそんな感じなんですかね。こっちだと同級生どころか同じ学校の人は全員知り合いって感じで、なんでもかんでも情報が回るのが早くて。

だから正直外に出るのも億劫です。」


「地域のコミュニティが密接すぎるってのも考え物、か。別に仲がいいなら特に問題はないんだろうけど。風邪とか引いたときにみんなが心配してくれそうだし。

300人もいたらやっぱり一人くらいいなくなってもそのうち気にされなくなるような感じだろうか」


「私は気にされない方が楽ですけど、人それぞれなんでしょうね」


「わたしは、……どうだろ。わたしも気にされない方がいいかもしれない」


話を聞いていたすずが意外な答えを出してきた。


「そうなのか?どっちでもすずは元気でいそうな感じはするけど」


「わたしは、友達ひとりひとりに深入りしちゃうタイプだから、もしわたしがいなくなって、その友達がわたし以外に頼る人がいなかったときにさ、

その子がわたしを失ったことで自分の時間まで失ってしまったらわたしは後悔、するから」


「そういう考え方もあるか。でもそんなに自分がいなくなったことを悔やんでくれるなら、その子にとっては一緒にいる時間がそれだけ代えがたい大切な時間だったんじゃないのか?」


「そうじゃなくて……えっと!!もう少し明るい話!!」


突然大声ですずが言う。


「そ、そうですね!汐音さん、服の話に戻るんですけどジージャンとかどうです?」


「え?ジージャン?なにそれ」


「ジージャンまで知らないとかファッションに無頓着すぎるでしょー」


そんなこんなでそのあとはとりとめのない話をしながら雪華の指示通りに進んで行って食料品、服飾、雑貨などいろいろな店舗が集まった大型の複合商業施設についた。


「多分リストのほとんどのものはここで集まると思います、あまり重い荷物にならないものから順番に買っていきましょうか」


「今更だけど、カバン持つよ」


「あ、ありがとうございます」


「で、そしたら最初はどこがいいんだ?服?」


「そうだねー。服は結構時間かかると思うから最初がいい気がする。服と一緒に靴も買う予定でしょ?」


とりあえずの流れで、そのまま入口から左へ曲がってアパレルショップへ向かった。


~~~


「どうかな?これ」


「あー、まぁいいんじゃね」


「もう、汐音だんだん適当になってきてる」


すずが次に試着したのは水色を基調とした、涼しそうなワンピース。


かれこれずっと30分ほど経った。多分服が好きな人にとっては30分は全然物足りないくらいの時間なのだろうが、なにぶん知識もなければ興味もない。


すずの試着を見たいという下心ありきのモチベーションだけで暇に耐えている。


「そうだ、汐音ってかっこいい系とかわいい系どっちの方が好き?」


「ん?それはすずが着るやつのこと?」


「うん、かっこいい系っていうと、ズボンとかにミリタリージレ合わせたりとか。ああ、ズボンじゃなくてもデニムスカートとかはかっこいい印象になるかも」


「はい?何言ってるかわからないけど可愛い系の方が好きだと思う、さっきの水色のワンピースとかは可愛い系?」


「さっきのが良かったの?ならもっといい返事してくれたらよかったのにぃ」


「あんまり俺わかんないし」


「あ、そういえば、汐音のジージャン良さそうなの見つけたから持ってきてあげるね」


「お、おう」


そう言いながらすずはどこかへ歩いて行った。ここに来てから全部の回答が受け身である。人は得意な分野だと饒舌になりがちなのだが、苦手な分野だとこうも喋れなくなってしまうのか。


「ふむ、男女の感性の違いなのか、単純に俺が興味がなさすぎるのか」


いや男女で括ると主語が大きすぎるか。つまり今ここにいるズボラ少年がファッションに目覚めてないだけ。


と、


「あ、すずさんはまたどこかに?」


少し離れたところで服を吟味していたらしい雪華が戻ってきた。


「終わったのか?」


「ある程度は決まったよ、これとか」


そう言いながら白レースのトップスや、ギンガムチェックのブラウスを見せてくる。

他に、左手に抱えている買い物かごにかわいらしい白い柔らかそうな服などが見える。これが言っていたフリフリの服だったのか。

チョイスが少し子どもっぽくはあるが、確かに比較的背丈の低い雪華が着てみればかなり可愛らしいものになるか。


えっと、それとピンクと黒……、ピンクと黒!?おぉ、あんまり見えないけど地雷系ファッションも入ってんのかな。


「そういえば、こんなにあってお金足りるのかな」


「うん、それは大丈夫だと思う……」


そう言いながら長財布を開けて中に入ってるお札を、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉと雪華が数えていく。


ふむ、今更ではあるのだが、この子をあんまり一人にするべきじゃなかったのでは。


「わ、わかったからしまっとけ。こっちが不安になる」


「ふふっ、わかった。あと靴選んできたんだけどどうかな。シンプルなスニーカー」


差し出してきたのは紺色のスニーカーだった。


「汐音さんはどっちかというとデザインより機能性を大事にするかなと思って、白とかは汚れが気になるし」


「おお、よくわかってる」


「もしかしてもう先に他の選んでたりとか……」


「いや、来てからずっとすずの試着見てるだけだから進捗ゼロだったから。」


「ええ……、とりあえず物だけ持ってきちゃったからあっちでサイズ計ってから合う物を……」


「大丈夫だよ!!靴は多分26か26.5あたりと服はМサイズ!!」


「すずさん……」


少し呆れた表情で雪華が後ろに出現したすずを見る。すずの手には何着かの服が盛られていた。


「それが俺に合いそうなやつ?」


「うん!!」


「じゃあそれとで……」


「ダメだよちゃんと試着してみなきゃ。あと!わたしまだ服選び終わってない!」


「えぇ、めんどくさいなぁ。ああ、そういえばすず」


服を両手で掲げる彼女に咄嗟に思いついたことを話す。


「あのさ、会ったときに着てた白いワンピースって……」


そう言いかけたとき、服を戻して続きを言わせないかのように唇に手を当ててきた。


「任せときなさい、言いたいことはわかるから」


すずは、空いている方の手でガッツポーズをした。


数分後……。


「じゃじゃーん、これでしょ」


目の前の光景に目が眩む。彼女はこれ以上に染められない白のワンピースに包まれていて、そのスカートの部分は動きやすいようにか膝下程度の丈で、やたらに大きい麦わら帽子。夏の少女といえばこういうものを思い浮かべる、という概念の具現化で、自分はそれに既視感を覚えていた。


瞬間、……


『海、好きなの?』       『私たち友達になろうよ』

     『いい名前だね!』

   『このビー玉を今日の思い出にしよう!』


『生きるのを、諦めないで』

『わがままかもしれないけど、私のために生きて』

『好き、だからだよ』


………………


「うっ、」


ドッと、記憶が流れ込んでくる。しかしその光景は脳に結びつかず、写真集をパラパラ漫画のように高速でめくっているようで、何一つ自分の記憶に残らない。


「どしたの?汐音、わたし眩しすぎた?」


「違うわ、明るい性格とかってカンデラの話じゃないから」


「まぁでも、この服は砂浜で目覚めたときのとほぼおんなじだから、麦わら帽子だけ買おうかな」


「まぁ、それでいいと思うよ」


そういいながら、麦わら帽子の裏にある値札を見て「高っ!」とすずが驚いていた。

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