第5話:獣人国へ
翌日、光萼家はかなり慌ただしい朝をおくっていた。
「ナターシャ先輩!早く準備してください!」
「ナズナちゃーん、準備手伝ってよ~。」
「唐突に決まったこととはいえ、直前で準備は無謀が過ぎますよ!」
「だって~。」
ナターシャは前日の疲れもあり、出発の直前まで爆睡していたため準備できていなかったのである。
この光景は、毎度のことでありもはや恒例行事である。
レイナと零はその光景を見ながら、待っていた。
「毎度のことだけど、ナターシャさんはズボラなところあるよね。」
「ナターシャはそろそろ、事前準備の心がけをさせるべきだな…。」
「そういえば、お母さんは?」
「今日は、まだ寝ているぞ。これを予測して、先んじて防音結界を貼っておいた。この騒動で、起きることはないと思うぞ。」
そうこうしているうちに、ナズナの手伝いもありナターシャの準備も完了した。
「すみません御二人とも、お待たせしました。」
「毎度のことだからね~。だいぶ慣れてるから大丈夫だよ。」
「ナターシャ、今度『準備』とは何かの講義を行うので覚悟しておくように。」
「ヒエッ。」
「(わー。お父さんの講義って超論理的な専門用語攻めの地獄講義だからな~。ナターシャさん、ご愁傷様です。)」
時刻を見ると、そろそろ出発をする時刻となっていた。
「そろそろ出発の時間だな。」
「そういえばそうだね。」
「皆、気を付けて行ってくるんだぞ。ナズナ・ナターシャ、レイナのことはよろしく頼んだ。」
「「承知しました。」」
こうして、獣人国までの旅路が始まるのであった。
獣人国までは、直通の新幹線が通っており片道約3時間かかる。
3人は機械国の駅にたどり着き、獣人国行きの新幹線に乗り座席に座ることができた。
「ふー。何とか乗れましたね。」
「2人とも元気すぎでしょ…。まだ、朝の5時だよ?」
「ナターシャ先輩、これからは少し休めますのでもう少し頑張ってください。」
「ナターシャさんって、そんなに体力なかったっけ?」
「2人の体力が異常なだけです…。」
そんな会話をしていると、新幹線が出発し長旅が始まったのであった。
出発してしばらくすると、ナターシャはすぐに寝てしまった。
「相当疲れていたんだね。アイマスクまでして、これはガチ寝する気だね。」
「人間国への移動中での重圧に耐えきれなかったようで、帰ってきて2時間程尻尾を揉み解されてかなり大変でしたからね…。」
「あぁー。だからあの時、尻尾が珍しくぼさぼさになってたんだね。」
ナズナは苦笑いを浮かべながらも、持ってきていたブランケットをナターシャに被せた。
「気になってたんだけど、ナズナさんってなんでいつも手袋をしているの?」
「ちょっとしたおしゃれですよ。」
ナズナはいつも通りの笑顔を見せたが、その笑顔がほんの一瞬だけ揺らいだ。
レイナはそれに気づいたものの、何も言わなかった。
そんなたわいもない会話をしながらも、2人は駅弁などを食べながら新幹線での移動を楽しんでいた。
「そういえば私、獣人国の白さんって人、会ったことないんだけどナズナさんは何か知ってる?」
「何度かご主人様の付き添いで、お会いしたことはありますよ。御主人様の直属のお弟子さんみたいで、前同行したときは私が気付かないうちにご主人に抱き着いておられました。」
「抱き着いて!?どういうこと!?まさか、ふり…。」
「御主人様は奥方様一筋ですので、そこはご安心してください!白様はどちらかというとloveよりもlikeよりの方なので、挨拶程度のものであると思って構わないとご主人様はおっしゃっておりました。」
「そ、そっか~。お父さんに限ってそんなことはないもんね。でも今聞いた感じだとかなりクセのある人なんじゃ?」
「クセこそありますけど、知略と戦略に長けるお方で、単独で壊滅した組織は数えきれないほどあるそうですよ。」
その話を聞いたレイナは一抹の不安を覚えながらも、獣人国までをナズナと話しながら過ごした。
そして、3人は獣人国まで無事にたどり着くことができた。
ちなみに、ナターシャは獣人国に着く5分前まで爆睡しており、2人は起こすのに苦労したのであった。
「いやー。無事についたですねー。というか、お二人さんどうしたんですか?」
「いや、ナターシャ先輩が起きなさ過ぎて危うく乗り過ごすところだったんですからね…。」
「そうだよ。あの意地でも椅子から離れないという意思を持った寝方は初めて見ました…。」
3人は入国手続きをするために、国門の受付へと足を運んだ。
「すみません。入国したいのですが入国証の発行をお願いできますか?」
「承りました。なにか紹介状などはございますか?」
「こちらです。」
レイナは出発前に、零から3人分の紹介状を預かっており、3人は簡単な手続きのみで獣人国へ入国した。
獣人国──筋力・運動能力が非常に高い種族である獣人族が暮らす国家。
身体強化術や武術体系に長けているため、強者を求める者がよく訪れる国家である。
「かなり自然豊かな国ですね~。」
「でも、流石に武器屋多くない?」
「この国は、武術大国ですからね。かなり、その事業に力を入れてるみたいですよ。」
「そういえば、白さんに会うためにはどこに行けばいいんだっけ?」
「白様は、中央にある城にいらっしゃるのでまずはそちらを伺いましょうか。」
国の中央付近まで歩くと、城に入るための巨大な城門が待ち構えていた。
城門前には、武装した門番が待ち構えており、かなり厳重な警備態勢がとられていた。
「レイナ様、ここからは門番様から通行許可証を頂かなければなりませんので、ここで少しお待ちいただけますか?」
「うん。お願いね。」
ナズナは、ナターシャにレイナの護衛を任せ、門番に話しかけに行った。
5分ほどすると、ナズナが戻ってきた。
「レイナ様、門番の方が上層部の方々に連絡を取ってくださり、直接出向いて頂けるみたいなので少しお待ちしましょうか。」
「上層部?どんな人なの?」
「カイ様という、白様にお仕えする付き人のおひとりですよ。」
「カイさんか~。私も久々に会うなー。」
「ナターシャ先輩、カイ様は私達と同位の方ではありますが、礼儀を忘れないようにしてくださいよ。」
「わかってるよ~。ナズナちゃんはいつものことながら手厳しいな~。」
しばらく待っていると、青色の髪をした男性が近づいてきた。
彼の名前は、カイ・ストームリッジ。
獣人族種族王の付き人を務める、鷲の獣人族である。
「御三方、お待たせしました。」
「初めまして。機械族種族王のレイナと申します。」
「あなたが噂の…。こちらこそ初めまして、私はカイと申します。以後お見知りおきを。」
しばらく、会話をしているとカイが非常に申し訳なさそうにしながら、とある事情を伝えた。
「皆様がいらっしゃることは事前に通達されていたのですが、少し前に白様は緊急の任務に行かれてしまったので、しばらくの間お戻りになりません。」
「となると、戻るまでどこか宿をとるしかなさそうですね。」
「ナズナさん、そこはご心配なさらないでください。こちらで、宿を手配しておりますのでそちらにお泊りできます。」
こうしてレイナたちは、獣人国でしばらく泊まることになった。
しかし、レイナたちはとある事件に巻き込まれていくことになるのであった。




