第3話:人間族種族王
約1時間半の旅路を経て、零とナターシャは現在、人間国の国門にたどり着いていた。
今は、送迎車を降りて国門前にあるベンチに二人で腰を掛けて休憩していた。
「(も、もうこの組み合わせで車乗りたくない…。)」
「大丈夫か?どうもかなり疲れてそうだが?車酔いか?」
「一応、大丈夫です…。でも、次からは新幹線での移動でお願いします…。」
「そうか?考慮しておこう。」
そんな会話をしていると、ヴァリスが二人の元に戻ってきた。
「今回の通行許可書だ。帰るときも必要だから、なくさないようにきちんと保管しておくように。」
「アタリマエジャナイカ。ナニヲイッテンダー。」
「いやご主人、前回虫と一緒に消滅させて一時的に帰れなくなったじゃないですか。」
「そんなことあったなー。」
「遠い目をするんじゃない。前回はお嬢の助けがあったが、二度目はないからな。」
「はいはい。わかってますよ。」
零はヴァリスから通行許可書を受け取り、ナターシャにその管理を任せ人間国へと入国した。
人間国──知識と創造性を尊重し,技術・芸術に秀でる種族である人間族が暮らす国家。
あらゆる技術に精通しているため、様々な種族からのインターンの募集が毎年多く行われている。
人間国の中央には、種族王が執務を行う高層ビルが聳え立っている。
3人は、タクシーを拾い中央の高層ビルに移動を始めた。
「ご主人。毎回来るたびに新しい技術が目に入ってくるのはなんでなんでしょうね?」
「おそらく、飽くなき探求心から毎日色々なものが生み出されているからだろうな。」
「それもあるが、うちは種族としてはそこまで強くない。それもあって、技術力で他国に後れを取らないように努力しているのも要因だろう。」
「なるほどですね~。流石、技術大国。」
そんな話をしながらも、彼らは高層ビル前までたどり着くことができた。
そのビルの周辺は、厳重に管理されておりほぼ隙が無い構造となっている。
「しかし、ここまでタクシーで1時間半...。巨大な都市なだけはありますね。」
「戦術面を考えて、あえて直線的な道を作っていないからな。距離は想像の1.5倍はかかっていると思ってくれていい。」
「ナターシャは大丈夫か?長旅で流石に疲れたろ。」
「ちょっと疲れてますけど、そこまで問題じゃないですね。」
「そうか。でも、無理だけはするなよ。」
「承知です。」
すると、ヴァリスが話に入ってきた。
「お話し中失礼、俺は部隊の訓練があるので戻る。ここからは、ミリアに色々と頼んであるので、それに従ってくれ。」
「了解した。」
零からの返答を確認すると、ヴァリスはいつの間にかその場から姿を消していた。
「あいつ、また移動速度が上がったな。」
「もはや消えてましたねー。」
しばらくすると、小学生くらいの小柄な少女が零たちに近づいてきた。
彼女は、ミリア・クレヴァリス。
人間族種族王直属の頭脳派である。
「零さん、ナターシャさん、お久しぶりです。」
「ミリアさん、お久しぶりです。」
「久しぶりだな。二か月前の学会以来だったか?」
「あなた、先月の学会も出なさいよ。学会の方々があなたの参加を期待していたのよ。」
「それはすまないな。先月は少し別件の仕事で行けなかったからな。学会の方々にはこちらから今度ご挨拶に向かうとしよう。」
「ぜひともそうしてください。さて、奈波さんがお待ちです。こちらへ。」
こうして、零とナターシャはビルの内部へと入っていった。
ビルの内部は、奇麗な大理石のタイルで床が敷き詰められており、最上階まで吹き抜けの構造になっており、風通しが良い環境となっている。
内部はよく清掃されており、わずかであるがアルコールのような匂いが漂っていた。
ミリアの案内でエレベータに乗り、最上階の種族王執務室へとたどり着いた。
「はへー。高いですね~。」
「確か、ナターシャさんは執務室には初めて来られますものね。執務室は60階にありますから、相当な高さだと感じるかもしれませんね。」
ミリアは、執務室の扉をノックすると中から、か細い女性の声が聞こえてきた。
その声を確認したミリアが扉を開け、それに続き零とナターシャが執務室内へと入っていった。
中に入ると、そこには山のような書類の束が執務室中に置かれていた。
その書類の束の中に、真っ白に燃え尽きている女性の姿があった。
「あ…。お兄ちゃんだ…。しょるいたすけて…。」
「はぁ…。奈波、私を呼んだ理由はこれか。いい加減、書類仕事には慣れろと言っているはずだ。」
燃え尽きてもはや白くなっている彼女は、人間族の現種族王である光萼 奈波。
零の血のつながった実の妹である。
「何度やっても、どんどんと書類が積み上げられていって…。もう処理できないところまで来ちゃった…。」
「奈波…。お前、夏休みの宿題を最終日まで溜めるタイプだろ。知ってるけど…。お兄ちゃん悲しいわ。」
「奈波さんは、毎回仕事から逃げていてね。そろそろ仕事をさせようと今は椅子に縛って拘束させているわ。」
「ミリアさんって、かなり強引な手段に出るんですね。」
「いや、奈波はこれくらいしないと簡単に逃げるからな。しかし、今回はかなり苦戦したようだね。」
「いやはや、今回は国外まで逃げられました。探すのに時間がかかりましたよ…。毎回ブービートラップ仕掛ける私の身になってほしいものですよ。」
「奈波。部下に迷惑はかけるものではないぞ。ちなみに被害額は?」
「ざっと見積もって、10万くらいですかね。」
「ごめんだけど、説教は後で聞くから書類処理手伝って…。」
こうして、零たちは奈波が溜めた書類(約1か月分)を処理することになった。
この作業は4人でも6時間もかかり、全員徹夜することとなった。
奈波はそのあと約2時間程度、徹夜したことでややキレ気味の零とミリアに説教を食らうことになったのは言うまでもない。
2人は論理的にグチグチと説教するタイプであるので、感性で動くタイプの奈波には超効果的であった。




