第15話:修理
レイナがスズメバチとの戦闘中、ナズナは件の場所へと猛スピードで向かっていた。
ナズナが森に入る直前、凄まじい衝撃波が周辺を襲った。
その衝撃波は、前に進めないほどであった。
「何!?(かなり高出力のエネルギー波?まさか『黒錠』?)」
ナズナは少し不安に感じたが、即座に森林地帯へと駆け込んでいった。
しばらく走ると木々が折れた場所へとたどり着いた。
そこには地面にへたり込むレイナの姿があった。
「レイナ様!ご無事ですか!」
「ナズナさんだ。一応無事だよ。足はヤバイけどね。」
「(この傷は…撒菱。)」
ナズナは周囲の状況を確認した。
確認を終えたナズナは気絶しているスズメバチをサクサクと縛り上げ、続いてレイナを背負った。
「レイナ様、この男が犯人で間違いないですね?」
「うん。」
「わかりました。尋問に関してはナターシャ先輩が得意ですので、この男も連れて帰ります。」
「うん。」
「(レイナ様が『うん』しか言わなくなっている。これはまずいかもですね。)」
ナズナは二人を抱えながら来た道を爆速で戻っていった。
数分後、ナズナたちは家にたどり着いた。
その頃にはレイナは疲れて眠りについていた。
家の前にはナターシャが待っており周囲を警戒していた。
「ナターシャ先輩!この男よろしくお願いします!」
「わかったわ。ナズナちゃんは?」
「少しまずい状況かもしれませんので、レイナ様を自室にお運びします。」
「レイナさんの修理は私達じゃできないからご主人に連絡しておいて。」
「わかりました。」
ナズナは即座にレイナを部屋に運び入れ、ベッドに寝かせるとスマホで零に連絡を取り始めた。
『どうした。』
「ご主人様!レイナ様が『Hound Bug』との戦闘になり重症です!」
『なるほど。怪我の状態はどうなっている?』
「足は撒菱によってほぼ歩行不能なレベルです。あと左肩に溶けた銃創があります。」
『わかった。左肩の銃創についてだがおそらくは毒だ。念のため触れるな。』
「わかりました。私はどのようにすればよろしいでしょうか。」
『周辺を警戒しつつレイナの傍にいてあげなさい。私も10分以内にそちらに戻る。それまでは頼んだ。』
「承知しました。」
ナズナは零との会話を終えると、レイナの傍に座った。
「(レイナ様がここまでやられるとは…。『Hound Bug』侮れませんね…。)」
数分が経過し所だった。
レイナの部屋に帰宅した零がノックをしつつ入ってきた。
「ナズナ、ご苦労だった。」
「いえ。それよりもレイナ様を。」
「あぁ、わかった。ナズナも警戒を解いて少し休みなさい。」
「わかりました。」
零は即座に破損していた部位の修理をはじめ、ものの数分でレイナの破損した部分は完璧に直った。
「終わったぞ。」
「お疲れ様です。しかし、レイナ様目覚めないですね。」
「修理中に確認したが、内部貯蓄エネルギーがほとんど使われていた。この使われ方は『黒錠』が原因だな。今はエネルギー回復している最中だからしばらくすれば目を覚ますさ。」
「よかったです。」
「…ナズナ、少し肩の力が抜けていないな。下で休憩していなさい。」
「しかし、…。」
「休憩をすることも従者の務めだ。ここは私に任せていいからしっかりと休みなさい。」
「わかりました…。」
ナズナは、その場を零に任せゆっくりと1階へと降りて行った。
しばらく時間がたった頃、レイナの部屋の前でテータが部屋に入れず立ち尽くしていた。そんな中、部屋の扉が突然開いた。
扉の前に立つまるで『死』を具現化したような零を前にテータは慌てふためいた。
「君は?」
「あの、初めまして。レイナ様の付き人になりましたテータと申します。」
「君がテータか。レイナから話は聞いているよ。」
「あの…。レイナ様は…。」
「大丈夫だよ。ここで話すのもなんだから、部屋に入ってきなさい。」
「わかりました…。」
テータは零の気配に圧されながらも部屋の中へと入りレイナの近くに座った。
「そういえば初めましてだったね。私はレイナの父の零だ。」
「初めまして。ファルゼオス様からお噂はかねがね。」
「…あいつなんて言っていた?」
「『専門用語魔王』とか『人間タングステンゴリラ』って言っていました。」
「あいつマジで…。今度お話しだな。」
「(あっ、まずいこと言ったかな…。)」
「まぁいいか。修理中にナズナから事のあらましは聞いたよ。君のおかげでこちらも迅速な行動ができた。ありがとうね。」
「でも、…。」
「君はレイナに少女の護衛を任されその任務を全うした。気に病む必要はない。」
「そうですかね…。」
「(この子、大分弱気だな。大丈夫か?もしかして怖がらせた?まずったかもな…。)」
しばらく沈黙が続いたところ、零があることに気が付いた。
「(先ほどから気になっていたが、これは電磁フィールドか?意識的に出しているとは思えないが…どういうことだ?)」
「あの~どうかされましたか?」
「あぁ、すまない。君は自身の能力に関してわかっているかい?」
「私の能力ですか?能力名くらいしかわからないです。たしか、『電気操作』だったような…。」
「そうか。ならば、ここに手を置いてくれないか?」
「え?わかりました。」
テータは疑問に思いながらも、零が差し出した右手の上に手を置いた。
手を置いてからしばらくすると、零が口を開いた。
「...これが原因か。」
「何かわかったんですか?」
「あぁ。君の特殊な体質のことがね。」
「特殊な体質?」
「君は『能力制御弁開口症』という1万人に1人しか現れない体質だ。簡単に言えば、能力を制御するために必要な制御弁が常に開いた状態になっているってことだな。」
「それってまずい状態ですか?」
「いや、そうでもない。常に能力が放出されるというデメリットがあるが、この体質の人はエネルギーが枯渇することがないというメリットがある。」
「な、なるほど…。」
「完全に治すことはできないが、放出量を抑えることができるぞ。どうしたい?」
「…少しお時間を頂きたいです。」
「そうか。気が向いたら連絡してきなさい。」
零は連絡先を書いたメモをテータに差し出した。
テータはお礼を言いながら、そのメモを受け取った。
そのすぐ直後、レイナの指が少し動いた。
「よう。大丈夫か。」
「あれ?お父さん?ここは天国?」
「勝手に殺すな。」
「ごめんって。」
「まぁなんだ、その調子なら大丈夫そうだな。一応、身体に違和感がないか確認してくれ。」
そう言われたレイナは、寝ながら動きを確認した。
「うーん。足が以前より動きにくい?」
「それは一時的なものだな。3日程度は動きに支障は出るが、それ以降は普通に生活できるようになるはずだ。」
「それまずいかもです。」
零の説明を聞いていたテータが咄嗟に発言した。
「なにかあるのかい?」
「2日後にはエルフ国との商談があるんです。」
「セラフィナの所か。その足ではあの距離の移動は難しいな。」
「難しいか…。」
レイナが難しい顔をする中、零が思いついたように案を出した。
「種族王は細かくリスケするほど多忙だから受けてくれるかわからんが、日時変更をするしかないな。」
「そうだよね…。」
「なんにせよ、迷惑をかけるのはいろいろな問題に発展する。すぐにでも連絡したほうがいいだろう。」
「変更できると思う?」
「それはわからん。そこはお前たちの努力次第だな。」
「ありがとう。試してみるよ。」
こうして、レイナはその日の内にセラフィナに連絡を取り、日時をずらし商談が行われることになったのはまた別のお話…。
レイナたちと話を終えた零は、2人がゆっくり話できるように1階へと移動した。
零がリビングに入ると、そこには難しい顔をしながら話をしているナターシャとナズナがいた。
近くのソファには寝ている少女の姿があった。
その為、零は小声で2人に話しかけた。
「2人とも大丈夫か?」
「あっご主人、お久しぶりです。」
「お疲れ様です。どうでしたか?」
「レイナは無事に目を覚ましたよ。で、どうしたんだ?」
「レイナさんが戦った者ですが、何も話そうとしなくて…。」
「あー。そういうね。幹部ならばあり得る話だね。」
ナターシャはかなり疲れているようだった。
「質問すればするほど、壊れたラジオのように同じ回答しか返さないんですよ…。もうめんどくさいんで彼らに任せてもいいですか?」
「それは、まぁいいんじゃないか。そういうのは奴らのほうが適任だからな。」
「もう疲れたんで、とてもありがたいです。」
「ちなみに、2人に聞きたいことがある。」
「「?」」
「私って端から見ると怖い?」
「「はい。」」
「…。」
零はひそかに傷ついたのであった。




