第10話:付き人
白と商談した次の日、機械国には異常事態が発生していた。
謎の巨大物体が浮遊しており、機械国の空を覆っていたのであった。
レイナたちは家の庭に出てその状況を確認していた。
「なにあれー。」
「レイナ様、ご安心ください。あれは天使国です。」
「え?国なの!?」
「そうですよ~。天使国は巨大な空中移動国ですからね。」
天使国──哲学的かつ観察者の中立的な存在である天使族が暮らす国家。
空中都市国家であり、国家自体を移動することができる唯一の国家である。
「ナターシャさんがもともと暮らしていたところ?」
「5歳の時までは暮らしてましたね。」
「なるほど。これお迎えの準備しておいた方がいいんじゃない?」
「そうですね。こちらで準備しておきますので、レイナ様はこちらでお待ちください。」
「お願いね。」
ナズナが出迎えの準備をしている最中、天使国の中央下部から一筋の光が降り注ぎ、一人の天使が降りてきた。
その姿は美しく中性的で、背中にある6枚の羽根は高潔さを表しているかのようであった。
「久しぶりだね。ナターシャ。」
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「こちらは変わりないよ。そして初めましてだね、機械族の種族王さん。私は、天使族種族王のファルゼオスだ。」
「初めまして、機械族種族王のレイナです。」
「白から大体の事情は聞いている。今回は付き人の候補を一人紹介しよう。」
「ちなみにその子はどこにいるんですか?」
「私の背中に隠れている。ほら、いい加減出てきたらどうだ?」
すると、オレンジ髪のかわいらしい少女がファルゼオスの背後から出てきた。
「ご挨拶なさい。」
「は、はじめまして、天使族のテータです…。」
「はじめまして、機械族のレイナよ。」
「ファルゼオスさん、この子かなり成績いい子じゃないですか?」
「正解だよ、ナターシャ。テータは、天使族でも優秀でな、白からのお願いということで付き人候補として指名した。」
ナターシャとファルゼオスが会話している中、レイナはテータとお話するためにじりじりと近づいていた。
しかしテータは、それに反して徐々に後退しながらファルゼオスの後ろに隠れていった。
「テータちゃん?私は怖くないよー。」
「あの…その…。」
「テータよ。緊張する必要はない。レイナさんは優しい。」
「そうだよー。私は優しいからねー。」
「レイナさん。はたから見ると完全に無茶苦茶怪しい不審者です。」
「失礼な。」
そんな中、お茶を入れ終えたナズナが庭に戻ってきた。
「皆様、お待たせしました。…どういう状況ですか?」
「ナズナさん、ナターシャさんが私のこと不審者って言った!」
「レイナさーん、怒らないでくださいよ~。」
「2人とも、御客人の前ですよ?」
すると、ナズナはファルゼオスの後ろにいるテータに気づいた。
「あら、かわいらしい子じゃないですか。」
「そうだよね~。もっとお話ししたいんだけど、なかなか心開いてくれないんだ。」
「こらテータ。ドジくらい私でも、起こることだ。大丈夫だから、レイナさんとちゃんとお話してきなさい。」
すると、意を決したのかテータがゆっくりとファルゼオスの後ろから出てきた。
「あの…私結構ドジしちゃって、たくさん爆破しちゃったりしちゃうんですけど…大丈夫でしょうか…。」
「大丈夫だよ。ドジなんてお母さんで慣れてるから!」
「いや、あれは慣れちゃ困るんですけど?アクさんの超ド天然火薬庫爆破未遂事件はマジで危なかったんですからね。」
2年前、アクは消火器と間違え火炎放射器を火薬庫に持って行きかけたことがあり、半径100kmが消し飛びそうになったことがあるのである。
「アクさん…。またやらかしそうになったんですか?」
「そうなんですよ。ファルゼオス様が種族王に就任されたときにやらかしかけまして…。その時は御主人様が、迅速な判断で消火器と火炎放射器を入れ替えて事なきを得ましたが…。」
「相変わらずといったところですね。」
「ファルゼオスさんって、お父さんたちと何か関係があるんですか?」
「昔ちょっとね。それよりも、どうですか?テータを付き人に任命しますか?」
レイナは少し考えると、テータに向かい話しかけた。
「テータちゃん。私の付き人になってくれる?」
「いいんですか…?ご迷惑をおかけすることになると思うのですが…。」
「全然問題ないよ。一緒に頑張っていこう。」
テータは少し迷いながらも、意を決し話し始めた。
「不束者ですが、よろしくお願いします!」
「テータよ。それは結婚の挨拶だ。」
「ウェ!?」
こうして、レイナに新しくテータが付き人になったのであった。
テータが自身の私物を持ちに、一度天使国に戻っている最中、ファルゼオスがレイナに言った。
「では、これからテータのことよろしくお願いします。」
「お任せください。」
「ついでと言っては何ですが、あなたのお父様にもよろしくお伝えください。」
「わかりました。この後連絡しておきます。」
すると、ファルゼオスはナターシャに向き直った。
「ナターシャよ。たまに天使国に返って来なさい。」
「ご主人に許可されて、私が行く気になったらまた行くよ。」
「それ来ないやつが言う言葉だぞ。」
そう言うと、ファルゼオスは天使国へと戻っていった。
それと入れ替わる形で、テータがスーツケースふたつ分ほどの私物を持って帰ってきた。
「お、お待たせしましたー。」
「では、テータ様お部屋はご準備できております。こちらへどうぞ。」
テータはナズナとナターシャに連れられ家の中へと入っていった。
その間に天使国は東の空へ移動をはじめ、数分後には機械国からは見えないほど離れていった。
レイナはその姿を確認すると、家の中に戻った。
家の中に入ると、テータが私物を自室に置いてリビングに降りてきていた。
「レイナ様、これからお世話になります!」
「こちらこそ、よろしくね。」
「私は何をすればいいんでしょうか?」
「そうだなぁ~。今日は仕事もないし、今日は楽しくお話でもしようか。」
「では、お茶とお茶菓子をご準備しますね。」
「ナズナちゃん、私も手伝うよ。」
その頃。
とある、ビルの一室で調査報告書が読み上げられていた。
「獣人国での支部の壊滅事件に関して、調査が完了しました。」
「どうだった?」
「機械国の種族王が関わっていることが判明しました。」
「へぇ…。我々に関わるとは勇気があるね。」
「いかがされますか。」
「んー。今回は様子見かな。警戒度だけ上げといてもらえるかな。」
「承知しました。」
レイナたちの知らない所で、もっと深い闇がうごめき始めていた。