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養殖は天然にはかなわない  ~とある公爵令嬢の日常~

書きたいシーンを書きたいように書いた感じに仕上がっております。




「何をしているのだ?」


 と声をかけてきたのは王太子に最も近いと言われている第二王子殿下です。

 確かに不審な行動を、自分の教室でない所でしている事は認める。しているのは私ではないですけれど。


「何を? と申しましても………」


 自分の婚約者の異母弟から声をかけられて、小首をかしげているのは私の家の寄り親である公爵家のご令嬢のクラリッサ様。

 彼女は第一王子の婚約者なのです。


「教科書を破っている?」


 いや、破れていないですから。

 教科書を両手に持って引っ張っているだけですから。


「破れていないな。」

「そうですわね。意外と破けないものですのね。初めて知りました。」


 まぁ、普通は教科書など破かないのですから知らなくても当然だろう思います。


「そうではなく、何故しているのか、と聞いている。」


 きっぱりとそう言われて、クラリッサ様は悪意のない表情で答えました。


「私がマリベル様の教科書を破ったとウワサになっているからでしょうか。」


 は? と第二王子であるミカエル様の方が慌て始めました。

 確かにおかしな行動だと私も思います。


「そんなウワサがあるのか?」


 クラリッサ様に聞いても微妙にズレた返事をされる事に気付いたミカエル殿下は私の方に聞いてきました。


「はい、ございます。」


 そう返事をすれば、詳しく! とばかりに視線だけで指示されました。


「ここ最近、ダグラス殿下が手元に置いておられますマリベル嬢をご存じでしょうか?」


 確認のようにそう聞けば、「あぁ。」と返事をもらえたので続ける事にします。


「クラリッサ様がそのマリベル様に嫉妬して意地悪をしている、と言う話が出回っているのです。」


 そう答えれば、考え込まれてしまった。


 現在は、マリベル様の教科書を破こうと必死になっているクラリッサ様だけれど、実はこれだけではないのです。ウワサされている事を実行しようと努力していたりするのです。

 例えば、突き飛ばされた、と言う話はクラリッサ様が勢いをつけてマリベル様にぶつかった結果、クラリッサ様が吹っ飛んだ事は記憶に新しい事です。確かに、身長差はかなりあっりましたけれど。


 小さくて可愛い系のクラリッサ様に対して、マリベル様は高身長でスレンダー系。庶民から火がついて、ここ何十年も手を変え品を変え出版され続けている悪役令嬢が婚約破棄される小説だと典型的な悪役令嬢の外見を持っていたりするのです。悪役令嬢の共通点のひとつでもある〈釣り目がちな瞳〉をマリベル様は持っているし。

 そんな気の強そうな外見通りにマリベル様は気が強い。その上強かだと私は思うんですが、マリベル様本人はそれを否定していますけれど。


 その事にもクラリッサ様を始めとしたほんの一部を除いた女子生徒ほぼ全員と3~4割の男子生徒、これは身分が低い故にマリベル様に色々とされた故に気付いていますね。ダグラス殿下はすっかりと騙されていますけれど。一部の頭のいい男子生徒も気付いてはいるのでしょうけれど、そちらの方は知りませんので。


「………………そうか。」


 納得はされていないようですけれど、そう言ってもらえました。


 きっと、これから色々と調べるのでしょうね。クラリッサ様がやらかした事を含めて。この件に関しましては、王家の《影》からの報告もあるでしょうから簡単に調べられると思います。私がクラリッサ様の父親である公爵様を通して王家にクレームが行っているだろうと思いますから。


「後で詳しく――」


 と言いかけたミカエル殿下の言葉は、ランチから帰ってきた生徒のざわめきに消された。


「あなた、何をしているの!?」


 教室に戻ってきたマリベル様の声ですね。

 当然だとは思いますが、うるさいです。自称気弱なご令嬢の声だとはとても言えないような癇性を爆発させたようなものだったもので、多くの生徒が嫌そうな表情になっていましたね。ご本人は気付いておられないようですが。


 元はと言えば、クラリッサ様に教科書を破られたとマリベル様が言いました事がきっかけですのよ? だから、その言葉通りにクラリッサ様がマリベル様のお席で頑張っておられるだけですわ。


「ウワサ通りに教科書を破こうかと。」


 ニッコリと笑ってそう言ったクラリッサ様が余計に腹立たしかったらしいマリベル様はものすごい顔でクラリッサ様をにらんだ。


 自己申告の気が弱くて、などとはとても言えない、まさに悪役令嬢と言いたくなるような表情でした。この表情を見て、気が弱いなどと思う生徒が居たら見てみたいと思うのは私だけじゃないと思います。

 それくらいの表情だったのです。


「教科書って、意外と破けないものですのね。すっかり手が痛くなってしまいました。」

「はぁ???」


 マリベル様、かぶっていた猫がどこかに行ってしまわれましてよ?

 私には関係ない事ですけれど、ダニエル殿下には関係あると思いますの。


「していない事を《した》と言われるのは嫌なので、きとんと《しよう》と思ったのですが、破れませんでした。」


 至極まじめな表情でクラリッサ様が言うものだから、一部の男子が噴出しておりました。

 女子に至っては冷たい視線をマリベル様と一緒に居る男子に向けていました。彼らに明日があるかどうか、私には無関係ですわね。


「何、バカな事を言ってるのよ!」


 そう怒鳴るマリベル様は、ダグラス殿下の隣にいる時とは全く別人のようです。

 これ、相当腹に据えかねていますね。まぁ、クラリッサ様もやらかしてはいる事を否定するつもりはありませんが、自業自得だと思うのですよ、私は。


「あの、今更ですが、身分の下の者が身分の上の者に声をかけるのはマナー違反ですわ。」


 悪鬼のような表情のマリベル様を恐れる事なく、クラリッサ様は言った。


「はぁ???」


 すっかり化けの皮が剥がれていましてよ、マリベル様。


 度重なるクラリッサ様の行いに限界を感じていたのだろうとは思ます。思いますが、あなた自身が『クラリッサ様に意地悪された。』と言いだした事をしているに過ぎないのですよ。本人が気付いているかどうかは謎ですけれど。


「後は、婚約者の居る方と二人きりになるのは、例え貴族でなくてもしてはいけない事だと思います。そして、むやみやたらに人に触れるのはよくない事です。場合によっては罪になります。」


 あ~そんな事を前も言っていたな、と思い出しました。

 マリベル様からは鼻で嗤われましたけど、クラリッサ様は間違っていないのですよ。

 真面目な話、上級貴族の場合は訴えられたら確実に罪になりますからね。特に王族の場合は、その場で取り押さえられても文句は言えないのです。

 万が一、その人が刃物や毒を塗った刃物や針などを持っていたら? となるのですよ。身分の低い方は経験が無いでしょうが、聞いた話では王族は経験があるそうですよ?


「これは、意地悪ではなく、マナーであり事実です。」


 きっぱりとそう言い切ったクラリッサ様はやり切った感満載で、なんか可愛らしかったです。


 外野は、「え? そんな事で?」とヒソヒソと話していたりするけど。あ、お取り巻きになっているご令息方は除いて、ですよ。当然ですけど。

 その程度の事と言いますか、基本中の基本を注意したら『虐められている。』の発言をされたのですもの。


「授業で教えられているとの事ですので、知らないとは言わせませんわ。」


 そう言えば、この前、先生に何かを確認していた事も思い出しました。

 そうか、この事だったですね、と納得してしまいました。そりゃぁ学校側も必死になりますよね。教えたのに実行してしまった場合は、学校側の落ち度にする事は難しくなりますから、その方向を狙っているのでしょう。


「その他にも色々と注意をいたしましたが、それを『意地悪をしている。』と言われるのは心外です。」


 確かにそうですよね。

 本当にそうですね。クラリッサ様はキツイ口調で言っている訳でもなく、普通に注意していただけなのは、その場に居合わせた生徒が証言出来る事です。今だって、そうですし。

 それに、王子の婚約者であるクラリッサ様には《王家の影》もダグラス殿下と同様に付いている事も知っています。私もそうして欲しいとお願いしましたから。

 公にはしていないですけど。


 ダグラス殿下がマリベル様をそばに置き始めた頃からクラリッサ様に話を聞いている公爵様は、取り巻き兼お付きをしている私からも話を聞いてくださいました。元々評判の良くなかったダグラス殿下には、入学時より公爵家の影を使う事を決めていた、と聞いておりますし。その上で、今回の《やり返し》を認めているのですよ。この婚約を破棄する為に。


 側妃殿下からのお願いを、遠回しに断り続けたら王命が出てしまった、と聞いてます。

 それ故に断る事が出来ずに今に至るそうですが、断る為の理由はずっと探しているのだそうです。私は集まっていると思うのですが、腹を立てていらっしゃる公爵様は徹底的に叩き潰すつもりなのだと理解出来てしまいました。きっと、側妃様もご一緒に、ですね。


 その事にすら気付かない、自分は望まれているのだと思い込んでいるダグラス殿下は馬鹿だと思います。公爵家がバックにあるが故の権力なのだとなぜ気付かないのでしょうね? 自分は王太子のつもりだけど、正式には決まっていないのですよ。


 だって、ダグラス殿下よりもミカエル殿下の方が子どもの頃から優秀だと言われておりますし、王妃様の第一子であられるミカエル殿下を押す勢力の方が多いのですよ。その事に気付けないようなら、王太子は無理でしょう。そんな方に国王になって欲しくはありませんから。


「クラリッサァ!!!!」


 お付きの誰かがダグラス殿下を呼びに言ったのでしょうか、怒鳴り声が聞こえました。

 えぇ、いつもの事です。

 人の話など聞く気のない殿下は、何時だって自分の見たいものだけを見て、聞きたい事だけを聞くのです。今なんかミカエル殿下がここに居るのに気付いてもいないようですよ。このクラスの生徒ではないですからね。


「お前はまた、マリベルを虐めているのか!!!」


 ドタドタと人をかき分けダグラス殿下がクラリッサ様とマリベル様の間に入り込みました。


「ダグラス様ぁ、怖かったですぅ。」


 と今までの悪鬼のような表情を泣きそうな表情に替えて、マリベル様がダグラス殿下に抱き着いた。

 身長しかミカエル殿下に勝てないダグラス殿下は、マリベル様を受け止めて、「そうかそうか。」とか言っていますけど。


 ですが、誕生日が晩夏と初夏、とほぼ1年違いの同級生だって忘れているようですけれど、その差は縮んでおりますよ。その事にも全く気付いていないみたいですが。


「虐めてなどおりませんわ。だって、教科書は破れなかったのですもの。」

「はぁああ!!!???」


 凄い顔でダグラス殿下は睨んできますが、クラリッサ様は全く意に介しておりません。

 いつもの事ですから。


「それにですね、この教科書はマリベル様のものではありませんの。」


 そう言ってから、「ありがとうございます。助かりました。」と近くに居た女子生徒に教科書を渡しました。


「彼女からお借りしましたの。勝手に人のカバンをあさるなんて真似、出来ませんもの。」


 クラリッサ様がそう言うと、こらえきれなくなったミカエル殿下が噴出しました。まぁ、ミカエル殿下だけではありませんけれど。


 実は、クラリッサ様が何をしたいのかを理解してくれた子爵家のご令嬢が貸してくださったのですよ。そして、実に楽しそうにマリベル様とダグラス殿下とそのお取り巻きをご覧になっておりました。

 彼女、お取り巻きの中に婚約者がいらっしゃいましてね? えぇ、ですのでこのクラスの情報を得る事と引き換えに、彼女の婚約者様の動向をお教えする事になっていますの。そう簡単に《影》なんて使えませんからね。


「そうですね、私がお貸ししましたけど、何か?」


 たっぷりと時間の経過を待って、子爵家のご令嬢は言った。

 ダグラス殿下にお声をかけたら問題がある事を知っているのでしょう、男爵令嬢でありますマリベル様に言いましたのは間違っていないはずです。解っていてそうしておりますし。


「「………………」」


 何を言おうか考えていたのを子爵令嬢の言葉でボッキリと折られてしまったようですね。

 うるさいので、このまま黙っていて欲しいと思うのは私だけではないと思うのですが、どうでしょう?


「クラリッサ様、そろそろお時間です。教室に戻りましょう。」


 この場を去るのは申し訳ないと思うのですが、授業に遅刻は出来ません。


 この教室は下位貴族と言われている子爵家と男爵家の生徒を集めたクラスになりますから、校舎自体が違うのです。あ、私はこれでも伯爵家の者ですのよ。跡取りにもならない三女になりますが。

 実家があまり裕福でないもので、私はこの学園の入学を諦めていた時に公爵様からお声をかけていただきました。寄子の面倒をみるのは寄り親の務めだ、とおっしゃっておりましたが私は感謝しております。

 ですからこうしてお目付け役兼侍女として学園に通っております関係上、授業に遅刻などさせられません。


「そうね、まいりましょう。」


 とニッコリと笑ってくださるクラリッサ様は天使のようです。

 お話をいただいた当初は、侍女になって王宮まで付いて行くつもりでしたが、今では一刻も早く婚約が解消されるのを祈るばかりです。




初投稿な事もあり、タグが間違っていたら教えてください。


【恋愛】に関しては、真実の愛ですから!

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