【8話】シャーリーの本心
涙で顔をぐちゃぐちゃにしているシャーリーが、私の腰に手をまわしてきた。
「お願い! 私のことを捨てないで!」
ぐぐっと体を密着。
すがりついて、必死の懇願をしてくる。
傲慢で人を見下してくるシャーリーは、いったいどこへやら。
まるで、別人にでもなってしまったかのようだ。
その姿は、あまりにも不気味だった。
……このままにはできないわね。
不気味なまま謎を放置しておくというのは、どうにも収まりが悪い。
だから私は、この意味不明な状況を理解しようと決めた。
「確認させて。あなた、私のことが好きなのよね?」
「ええ! 世界で一番大好きよ!」
「それならどうして、私を引き立て役なんかにしたの? どうしてずっと、私を見下してきたの?」
「違うの! 私はただ、ルーナを一番近くに置いておきたかっただけなの!」
ルーナを初めて見たとき、シャーリーは雷に打たれたかのような衝撃を受けたそうだ。
つまりはそう、一目惚れしてしまったらしい。
しかし、シャーリーはその想いを伝えようとしなかった。
想いを伝えたら自分の元から離れてしまうのではないか――そんなことを恐れて、身動きが取れなかったらしいのだ。
「想いを伝えることはできない。こんなにも、あなたのことが好きなのに……。だからせめて、一番近くにいて欲しかった。あなたと友達になったのは、それが理由。慰めが欲しかったの。わざと見下すような視線を送っていたのは、私の本当の気持ちを悟らせないようにするため……ごめんなさい」
なんとも、衝撃的だった。
友達になってと声をかけてきたのも、連れまわしてきたのも、見下すような態度をとってきたのも、どれもこれもが本心ではなかった。
その全てが、ルーナ・ダルルークを愛するが故のものだった。
ルーナに嫌われて、傷つきたくない。
だからといって、自分の気持ちを切り捨てたくもない。
シャーリー・サンフラワーはどこまでもワガママで、どこまでも乙女だった。
「そんなことしても辛かっただけでしょうに……。あんたは馬鹿よ」
小さくため息を吐いた私は、シャーリーの額へ軽めのデコピンをうつ。
「悪いけど、今はあんたの気持ちに応えられないわ。誰とも付き合う気もないの。でも……」
シャーリーに向けて、スッと右腕を伸ばす。
「シャーリー・サンフラワー。私の友達になってくれないかしら?」
私の口元に浮かぶのは、満面の笑み。
今感じている気持ちを、そのまま表情に出した。
鳩が豆鉄砲を食ったように、シャーリーは瞳を大きく見開く。
「けどルーナは、私のこと嫌いなんじゃ……」
「嫌い……だったわよ、さっきまではね。でも、あんたの本心を聞いて考えが変わったの」
シャーリーの行動は、非常にワガママで自己中心的だ。
決して褒められるものではない。
でもそれは、ルーナのため。
大好きな人のためにシャーリーは、ここまで一生懸命になった。
いくら間違っているとしても、正道を外れているとしても、誰かのためにガムシャラに頑張る――私は、そういう人間が好きなのだ。
その熱い想いに惹かれてしまう。
だから私は、シャーリーに好感を覚えた。
正しいかそうじゃないかなんてのは、もはや関係ない。これは好みの問題だ。
「私はこれからも、ルーナの側にいていいのね……!」
「うん。あなたの熱い気持ちが続いている限りはね」
「ルーナ!!」
私の右腕をとって、立ち上がったシャーリー。
そのまま私のことを思い切り抱きしめ、
「大好きよ」
耳元で、愛の告白を囁いてきた。
同性からこんなことを言われたのは初めてだったが、こそばゆくて、なんだかくすぐったい気分になってしまう。
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「君さぁ、ルーナにくっつきすぎじゃないか?」
「そんなことはありません。これが私とルーナの適性位置ですから。キール様に口出しされる謂れはありませんわ」
昼休憩。
中庭のベンチでは、キールとシャーリーがやいやいと言い合っていた。
二人に挟まれている私は、小さい笑みを口に浮かべる。
すっかりお馴染みとなった光景が、今日も微笑ましい。
シャーリーとの決闘は、結局引き分けという形で終わった。
あのまま私が勝利していたら、『シャーリー・サンフラワーは今後、私へのいっさいの関与を禁止する』という宣言が、効力を発揮してしまう。
せっかく友達になったのに、今後一切関与できないなんてのは悲しすぎる。
だからこそ、引き分け、という結末を私は選択した。
「ルーナからも、シャーリーに言ってやってくれよ」
「無駄です。ルーナは私の味方ですから。ね、ルーナ?」
キール。シャーリー。
愉快な友人二人に囲まれて、私は今、とても幸せだ。
最初はクソッたれな転生先だと思っていたけど、どうやら大当たりだったわね。
笑顔で真上を見上げた私は、晴れ渡る青い空に中指をおったてた。
これにて完結です!
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それではまた、次回作でお会いしましょう!




