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【7話】決闘


 王都から馬車を走らせて三時間ほどの場所にある、広大な平原。

 今からここで、私とシャーリーの決闘が行われようとしていた。

 

「お二人とも、この決闘に賭けるものを宣言してください」


 決闘立ち合い人が声を上げる。

 決闘を行う際には王国に使える役人が、決闘立ち合い人として派遣されるのだ。

 

 審判の役割を担う彼らの立場は、絶対中立。

 一方をひいきするようなことはしない。

 

「では、まずは私から」


 シャーリーが、スッと手を挙げる。

 

「ルーナ・ダルルーク。あなたには、私の奴隷となっていただきます。身も心も、その人生の全てを、私に捧げるのです」


 シャーリーの宣言は、少し意外だった。

 

 今後、キール・フィンドルフにはいっさい関わらないこと。

 ノイティオ魔法学園を自主退学すること。

 そのような、キールとの関係を絶つような内容を言ってくるのだろうと思っていたのだ。

 

 ……何を企んでるか知らないけど、どうでもいいわ。私がやることは変わらないし。

 

「では次。ルーナ・ダルルーク子爵令嬢。お願いします」

「はい。シャーリー・サンフラワーは今後、私へのいっさいの関与を禁止する。また、彼女と少しでも関係のある人物にも同様の措置を行う――以上です」

「お二人の願いは、正式に受理されました」


 決闘立ち合い人はそう言うと、私たちから少し距離をとった。


「これより、決闘を開始します。どうぞ悔いのないよう、存分に戦ってください」


 パァン!


 決闘立ち合い人が両手を叩いた。

 決闘開始のゴングが鳴る。

 

「ルーナ。降参するなら今の内よ」

「馬鹿じゃないの。そんなのする訳ないでしょ。ていうか、降参するくらいなら最初から決闘なんて受けてないわよ。もう少し考えて発言したら?」

「馬鹿はどっちよ……。あなたまさか、私の実力を知らない、なんて言う訳じゃないでしょうね?」


 シャーリーは、とても優れた魔法の使い手だ。

 その実力は、学年でも一、二を争うほどである。

 

「もう一度だけ言ってあげる。これが最後よ。……ルーナ、降参しなさい。あなたは私に、絶対に勝てないわ。最初から勝ち目なんてないの」

「しつこいわね。しないって言ってんでしょ」

「…………そう。私、忠告はしたわよ。聞かないあなたが悪いんだからね」


 シャーリーの片腕が青白い光を纏う。

 とても激しい光だ。

 多量の魔力が集まっていることが、はっきりと分かる。

 

「自らの愚かな行いを後悔しながら、私の奴隷になりさない!」

「ふざけないで。あんたの奴隷なんて、死んでもお断りだわ」


 右腕に魔力を集中させた私は、それをシャーリーへ向ける。

 

「【ライトニングメテオ】」


 一筋の雷が、恐ろしいスピードで天から直下する。

 轟音を上げながらほとばしるそれは、シャーリーの足元へと落ちた。

 

 わずかでも落下場所がずれていたら、シャーリーは雷に巻き込まれていた。

 そうなっていたなら、確実に命はなかっただろう。

 

 地面にへたり込んだシャーリーが、ガタガタと体を震わせる。

 

「な、なんなのよその魔法は……!」


 絶大な威力を持つ魔法、【ライトニングメテオ】。

 雷属性の最上級魔法だ。

 

 最上級魔法を使えるのは、ごく一部の天才の中の天才と呼ばれるような魔術師だけだ。

 その数はとても希少で、世界規模で見ても片手の指で数えられるほどしかいないとされている。

 

 学生の身分でありながら最上級魔法を扱えるのは、世界広しと言えど、私くらいなものだろう。

 

「落ちこぼれのルーナが、最上級魔法を使えるはずない……そんなのありえない。そうよ! これはきっと、何かの間違いよ!」

「あいにくだけどね、間違いでも何でもないの。シャーリー。あなたはただ、私の実力を知らなかっただけよ」


 ルーナは生まれつき、魔術師としてずば抜けた才能を持っていた。

 天才の中の天才だったのだ。

 

 けれど彼女は、大いなるその力を隠すことを選んだ。

 

 規格外の能力を持つ魔術師と知られたら、変に目立ってしまうこと間違いなし。

 臆病で控えめなルーナは、そうなることをひどく嫌った。だからこそ、ほとんど魔法が使えない落ちこぼれを、これまでずっと演じていたのだ。

 

「ひどいわ! 私のこと、ずっと騙したのね! 絶対に許さないんだから……!」

「別に許してもらわなくても結構よ。この決闘には何の関係もないしね」


 笑みを浮かながら、シャーリーに近づいていく私。

 広げたてのひらを、へたり込んでいるシャーリーの額に押し当てる。

 

「勝負はもうついたわ。さ、早く降参を宣言しなさい。私、あんたとの縁を一刻も早く断ち切りたいのよ」

「そんなに私のことが嫌いなの……!」


 恨みがましく見上げてくるシャーリーへ、私は中指をおったてる。

 

「うん。常に人を見下しているあなたみたいな人間……心の底から大嫌いよ」


 シャーリーの眼光が鋭くなった。

 その瞳には、炎のような熱くて激しい闘志を感じる。

 

 まさか、まだやる気なの?

 

 これだけの実力差があるのに、それでも立ち向かってこようとは驚きだ。

 

 いくら何でも、無謀ってものじゃない? ……別にいいけどね。

 

 向かってくるなら、叩き潰す。

 そして、この決闘に勝利する。

 

 私がやることは、はっきりと決まっている。

 

 かかって来なさい……!

 

 だから、いつ攻撃が来てもいいように身構える。

 

 だが、

 

「ひどい……ひどいよルーナ! 私はこんなにも、あなたのことが好きなのに!!」


 うわあああああん!!

 

 大声で泣きじゃくるシャーリー。

 大粒の涙が、ボロボロとこぼれ落ちていく。

 

「なになになに!? どういうこと!?」

 

 突然の事態に、私は大きく動揺。

 そうなりながらも、私を油断させるための演技をしているのではないか、なんてことを考える。

 

 でも、それはないかも……。

 

 恋人に捨てられたかのようなその泣きざまは、迫真。本気中の本気。

 見ているこっちまでもが、心苦しくなってくる。

 

 とてもじゃないが、演技には見えなかった。

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