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【5話】友達


 天気は快晴。

 真っ青な青空の下、多くの人で賑わっている王都の街中を私は歩いている。

 

 男子と二人きりで出かけるなんて、何年振りかしら……

 

 そんなことをぼやっと思い浮かべている私のすぐ隣には、キールがいる。

 私と出かけたい、と言ってきた彼の願いを叶えるために、今日はここへ来たのだ。

 

「まずは、ここからだ」


 始めにやって来たのは、ジュエリーショップだった。

 

 店内には、多数の指輪やネックレスなどの、宝石をあしらったアクセサリー類が飾られていた。

 どこもかしこも、キラキラでピカピカだ。

 

 ……こういう店には初めて入ったけど、眩しすぎてクラクラするわね。

 

 前世の私は、しがないOL。

 決して貧乏ではなかったが、毎日一万円のランチを食べられるような高給取りという訳でもなかった。

 

 こういった、セレブのみが入ることを許されるような店とは、まったくもって無縁の生活をしていたのだ。

 

「このネックレスなんて、君に似合うんじゃないかな?」

「ちょっ、高っ!?」


 キールが手に持つ、ドでかいルビーがついたネックレス。

 それには、とんでもない値がつけられていた。

 

「そうかな。割と普通だと思うけど」


 何でもないように言ってきた。

 

 流石は公爵令息……庶民とは金銭感覚が違う。

 

 王国一の金持ち貴族として、フィンドール公爵家は広く知られている。

 そんな家で育ったのならば、私なんかとは金銭感覚が違ってくるのも当然だ。

 

「とりあえず、試しにつけてみてよ。絶対似合うと思うんだよね」

「その自信の出どころは謎ですけど……分かりました」


 キールからネックレスを受け取った私は、それを首にかけた。

 

 お! 案外似合ってる!

 

 地味で陰気な見た目の私に、主張が激しいネックレスは微妙なのでは……と、そう思っていた。

 

 けれど、実際につけてみたら違った。

 溢れ出てている暗さを、ルビーの輝きがカバーしてくれている。

 

 意外に――というか、かなりアリだ。

 

「す、すごく綺麗だ……!」

 

 なぜかキールは震え声。

 緊張しているような顔は真っ赤になっており、耳たぶまでもが赤く染まっている。

 

 どうしてこんなになっているのかしら? ……変な人ね。

 

 腑に落ちないけど、とりあえず、「ありがとうございます」と返す。

 

「気にいったのなら良かった。それじゃあ買ってくるから、少しここで待ってて」

「……気に入ったのは事実ですけど、そこまでしてくれなくていいですよ。高いですし」


 それは流石に、気が引けるというもの。

 だから断ったのだが、


「頼む! 俺がプレゼントしたいんだ!」


 キールは退かない。

 両手を合わせて、必死に懇願してきた。

 

「……分かりましたよ」

 

 そうまでされたら、応じないことの方が悪いような気がしてくる。

 そう思った私は、折れてあげることにした。

 

 

 ジュエリーショップを出る。

 私にプレゼントを渡せたことが嬉しいのか、キールはご満悦な様子だ。

 

「ルーナのおかげで、満足いく買い物ができたよ。次は――」

 

 それからは、キールと一緒に色々な場所を訪れていく。

 その先々で、キールは私を気遣ってくれた。非常に丁寧な、紳士的な対応だった。

 

 そんな彼の対応に、私は好感触を覚えていた。

 

 だからキールに、

 

「俺と友達になってほしい」


 と言われても、私はすぐに頷いたのだ。

 

 今日のお出かけがなければ、きっとノータイムで断っていただろう。

 でも、今は違う。

 

 キールという人間がどういう人なのかを知れた今は、友達になることに抵抗はなかった。

 

「やったああああ!」


 歓喜の大声を上げたキールは、ガッツポーズをかました。

 どれだけ嬉しいのかが、よく伝わってくる。

 

 私と友達になれて喜ぶなんて、やっぱり変な人ね。ふふふ。

 

 

 その後もデートは続いていき、解散の時刻が近づいてきた頃。

 

 やけに真剣な顔になったキールが、

 

「ルーナは今、好きな男とかいるの?」

 

 そんなことを聞いていた。

 

「いや、いませんけど」

「そ、そうか!」


 キールは安堵した顔で、良かった、と呟いた。

 

 いったい何が良かったのか。

 私にはさっぱり分からない。

 

「ちなみにだけどさ、ルーナはどんな男がタイプなの?」

「……うーん」


 そんなこと、これまで考えたこともなかった。

 すぐには答えが出てこない。

 

 でも、

 

「苦手なタイプなら言えますよ」


 それならすぐに思いついた。

 

「他人を見下してくるような人が苦手です」


 前世では、そういう人たちに散々苦しめられてきた。

 本当に大嫌いだ。

 

「それなら俺は大丈夫そうだな」


 キールがホッと胸をなでおろした。

 何か言っていたようだが、声量があまりにも小さくて、何を言っているのか私は聞き取れなかった。

 

「もしもの話だけどさ、俺が告白したらどうする?」

「申し訳ないですが、お断りします。私は今、誰とも付き合う気がないので」

「…………そ、そんな」


 魂が抜け落ちた顔になったキールが、地面に膝をついて崩れる。

 しかしすぐに、バッと顔を上げた。


「『今は』ってことは、将来的には変わる可能性があるってことだよね?」

「……そうですね。可能性がないとは、言い切れません」

「そうか!」


 地面に手をつけていたキールが、すくっと立ち上がる。

 魂が抜け落ちていたはずの顔には、溢れんばかりのやる気がみなぎっていた。

 

「ありがとうルーナ。俺、これからも頑張るよ!!」

「……えっと、はい。ほどほどに」


 どうして急にお礼を言ってきたのか。

 頑張るとは、いったいなんのことか。

 

 私には、それらがまったく理解できなかった。

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