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狭い空、飛行機

「あっ7個目だ」

そう思いながら私は、ガラス張りの向こうに飛んでいる飛行機を眺めていた。


ここは会議ルームという所で7階で何とかビルというオフィスビルで東京の有名なオフィス街で、会議ルームでは目下の所会社説明会が開かれている。


私はもちろん受けている側だ。

夏も終わって、未だまだ内定が出ていない人間はよっぽどやる気が無いか、就職活動というものそれ自体が不向きな人のどちらかだろう。


私は多分、どちらも当て嵌まる人間だ。



あまり就職という行為にやる気が見出だせ無いし、私の一連の活動で私を欲しいと思う懐の深い企業はいないだろう。

自分でもそう思うしきっとその感覚は正しい。



でも就職活動はだらだらと形だけ続けている。多分、「活動したけど駄目だった」という言い訳が欲しいのだ。活動しないでこのまま卒業するのは世間的にも親にもあまりよろしく無い。

それでもし内定が出たらラッキーくらいな気持ちでいるのが現在の所だ。



我ながら後ろ向きな考えだと思う。


そんな考えでは集中も続く訳もなく、スクリーンに映し出された会社概要の横、ガラス張りから見える東京の空を、暇つぶしに眺めていた。



8個目の飛行機を見つけた。


説明会が始まって1時間少々、飛行機は意外と頻繁に空を飛んでいる。新しい発見だ。


飛行機を目で追っていると、ふと少し前に読んだ漫画を思い出した。



タイトルも作者も忘れてしまったけど、

確か、飛行機を一日に10機見ると願い事が一つ叶うという、迷信を信じている女の子の話。結局10機見る前に、女の子の願いは一生叶わない物になってしまった。という結末だ。


もしここに就職したら毎日願いは叶い放題だ。

などとくだらない事を考えていると、ふと今の自分には叶えたいほどの願いが無い事に気付いて、同時に私には何も無い事に気付いた。


9個目の飛行機が飛んでいる。

人事担当の女性が新人研修について説明している。

隣に座っている人は熱心にメモを取っている。

その横の人も真剣な眼差しでスクリーンを見ている。

窓から注す陽射しはきつく、7階の締め切った部屋に関わらず静かにセミの音が聞こえる。



私は……私は何をやっているのだろうか。



あっ……10機目の飛行機が飛んでいる。

叶えたい願いは、無い。



しばらくして飛行機が見えなくなった。


私は空を見るのを止めた。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


これは実はずいぶん前に書いたものだったりします。大学生の就職活動は売り手市場なんて言われていた時の話ですから、今の就職活動とは少し様相が違うかもしれません。まぁそれも一興かな?という事で。

ではでは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の見ている景色が鮮明に浮かんできました。このような無駄のない綺麗な文章が書けて羨ましい限りです。 表現能力がとても素晴らしいと思いました!
2010/01/28 15:49 退会済み
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