お義姉様の幸せの為に悪女な義妹になります
私はソフィア。娼婦だった母の子として育った。
10歳の時、母がクレソン伯爵の後妻になることになり、私に同い年の義姉が出来た。
初めて会った時アリエルお義姉様は銀色の髪に透き通るような白い肌、仕草も洗練されていて本物のお姫様のように綺麗だった。
私はクレソン伯爵と血がつながってないので、養子にはならなかった。伯爵は養子になるように勧めてくれたけど、母と相談して後々問題になっても嫌だし、お義姉様という伯爵と血のつながった跡取りがいるから私が伯爵令嬢になる必要はないと思ったので丁寧にお断りした。
それがいけなかったのか、伯爵家で暮らしていくと一部のメイド達から、娼婦の娘のくせにと度々嫌がらせをされるようになってしまった。
そんな私を助けてくれたのが、お義姉様。私と血がつながらないのに実の妹のように可愛がってくれた。
ある時、お義姉様に婚約者ができた。伯爵家の次男らしい。
私はクレソン伯爵家の人間ではないので、会うのをやめていた。
時々お義姉様に会いに来るけど、全然楽しそうじゃない。お義姉様も悲しそうな顔をしているし、この人がお義姉様を幸せにしてくれるのか不安を覚えた。
◇◇◇
私たちは15歳になると王立学園へ通うことになった。
王立学園には貴族は必ず通わなければならないが、平民でも通うことは出来るみたい。
お義父様とお義姉様が勉学を学んでおいても困らないからと私に入学を進めるので、お義姉様と一緒に入学することにした。
入学するとお義姉様は優秀なのでAクラス、私はBクラスだった。
何故か私と同じクラスにお義姉様の婚約者もいた。
やはりお義父様は人がいいから訳ありを押し付けられたのかしら。
そんなことを思っているとお義姉様の婚約者が話しかけてきた。
「やあ、僕はブリス・ラパラ。アリエルの婚約者だよ。家族になるのだからブリスと呼んでくれ。よろしく」
「初めまして。アリエルお義姉様の義妹のソフィアです。よろしくお願いします」
お昼休みになると、ブリス様が私のところへ来て、
「一緒にランチを食べよう」
と言ってきました。
普通、婚約者がいる方は婚約者以外の異性と一緒にランチをとることはしないのではないのかしら。
平民である私は貴族からの申し出を無下には出来ないので私は、
「お義姉様と三人で食べましょう」
と言って三人で食べることになりました。
それからランチは三人で食べるのが当たり前になっていきました。
ブリス様はなぜか私にばかり話しかけてきます。
婚約者はお義姉様なのに。
一度ブリス様に苦言を申し上げたら、
「家族になるのだから、今のうちに交流を持っていてもおかしくないだろう」
と言われてしまいました。
お義姉様はブリス様と結婚して本当に幸せになれるのでしょうか。
ブリス様はお義姉様にふさわしくない。
そんなことを思っていると、
ある時、お義姉様に熱い視線を送っている方を発見しました。
あれは隣国から留学中のレアンドル・リヴァロル第二王子殿下です。
私は良いことを思いつきました。
レアンドル殿下が本当にお義姉様を幸せにしてくれるのなら、ブリス様との婚約を無かったことに出来るように動こうと。
まずはレアンドル殿下の気持ちを確認しなければなりません。
下の者から上の者へ話しかけるのはマナー違反になると教わりました。
けど、クラスが違う以上何かしらの接点を持たないといけません。
挨拶するぐらいは大丈夫だろうと思い、勇気を出して話しかけることにしました。
「こんにちは。レアンドル・リヴァロル第二王子殿下」
「君は?」
「アリエル・クレソン伯爵令嬢の義妹ソフィアです」
「あぁ、アリエル嬢の」
「はい。突然ですが殿下、お義姉様を幸せにしてくれませんか?」
「ソフィア嬢、殿下に対して何を言うのです」
レアンドル殿下の隣にいた従者のエリク・レニエ様に止められてしまいました。
すると殿下は、
「たしか、アリエル嬢には婚約者がいたはずだけど」
「ブリス様はお義姉様を大切にしてくれません。何かにつけて家族になるからと私にちょっかいを出してくるのです。あの人と一緒だとお義姉様は幸せになれません。私はお義姉様に幸せになって欲しいです。殿下がお義姉様のことを本気で思って下さるのなら、喜んで協力します」
「協力とは?」
「ブリス様はお義姉様より多分私に興味があります。だから婚約破棄にもっていこうとおもいます。なので、お義姉様を口説いて下さい」
「あはは。たしかにアリエル嬢のことは好ましく思っているよ。けど、いいのかい?君はそんなことしたら、悪評が立つけど」
「元々、娼婦の娘というので、風当りは悪いですし、クレソン伯爵家の人間ではないので、卒業したら平民に戻ります。貴族社会に残るつもりはないので、お義姉様が幸せになるのなら私はどうでも良いです」
「はぁ、わかったよ」
「お義姉様をよろしくお願いします」
◇◇◇
それから私はブリス様の誘いを受けるようになった。
カフェに行ったら、たくさん美味しいものを食べさせてもらった。学園を卒業したらなかなか食べられないからね。
ブリス様は贈り物を送りたがったが、物が残るのはまずいので、
「お義姉様に悪いから」
と丁寧にお断りした。
私とブリス様がよく一緒にいるようになり、お義姉様が傷ついていないか心配になったけど、そこは殿下が上手くやってくれているらしい。
試験前にたまたま図書館に行くと、お義姉様とレアンドル殿下、従者のエリク様が三人で勉強会をしていた。
レアンドル殿下、頑張ってお義姉様を口説いて下さいね~と心の中で応援していると、
「ソフィア」
とお義姉様に話しかけられました。
「お義姉様、勉強会をしているのですか?」
「そうよ。あなたも一緒にやりましょう」
「でも…」
同席していいのかわからず、殿下の方を見ると、
「ソフィア嬢も一緒にどうだ」
と声を掛けてくださったので、一緒に勉強することになった。
三人ともAクラスだからスラスラと進んでいく。
私はついていけず一人で悩んでいると、エリク様が
「ここはこの公式を使うのですよ」
と教えてくれた。
その後も何度かつまずくたびに「ここは~」とわかりやすく説明してくれて、気が付くと課題は全部終わっていた。
私は嬉しくなって、
「丁寧に教えてくださり、ありがとうございます。とてもわかりやすかったです」
と笑顔でお礼を言った。
テストは教えてもらったところが出て、かなり手ごたえをかんじた。
テストから数日後、結果が貼り出されているので見に行くと、
お義姉様とレアンドル殿下が同じ点数で一位、エリク様が三位だった。
さすが、お義姉様と思って自分の順位を探していると、
なんと十五位に名前が!!
いつもは三十位以下だったので、半分も上がって嬉しくなりました。
ブリス様がやってきて、
「よく頑張ったな」
と私の頭をポンポンと叩いてきました。
あなたのおかげではないのですが、取り敢えずお礼を言ってお義姉様に報告へ行きました。
お義姉様はレアンドル殿下と一緒にいたので、
「お義姉様、レアンドル殿下一位おめでとうございます」
「ソフィアも頑張ったわね」
「はい。エリク様が教えてくれたところが出たので、出来ました。改めて、ありがとうございます」
とエリク様にお礼を言うと、
「いえ、たいしたことではありませんので」
と言ってそっぽを向かれてしまった。
私、何か悪いことしたかしら。
◇◇◇
ある時、廊下を歩いていると三人組の男性に話しかけられ、準備室に連れていかれました。
「いったい、何の御用でしょうか」
「お前、娼婦の娘だろ。姉の婚約者に手を出しているのだから俺たちとも遊んでくれよ」
この人達は何を言っているのでしょう。
私はブリス様に手など出していません。
むしろ、向こうから近づいて来るのに。
「俺たちと楽しいことしょうぜ」
男性の一人が私の手を掴みます。
私は怖くなって、
「嫌‼」
と叫びました。
バタン!!
「あなた達はここで何をしているのです?」
勢いよくドアが開いたと思ったら、エリク様が低い声で問いかけました。
「いや…別に」
「彼女は伯爵家の者ですよ。男爵家の方が無体を働いていい人ではない」
男性たちは慌てて部屋から出ていきました。
私は助かったと思ったら腰が抜けてしまい、その場で座り込んでしまいました。
「大丈夫ですか?」
「助けていただきありがとうございます。腰が抜けてしまい…」
体の震えも出てきました。
すると、温かいものに包まれ、背中をトントンされ
「もう大丈夫。安心してください」
とエリク様に言われると涙が零れてしまいました。
あの後、3人の男性は学園を辞めたらしい。
事情を聴いたお義姉様がお義父様に報告して、各家庭に抗議文を送ってくれたみたい。
安心して学園に通ってほしいとお義父様に言われました。
◇◇◇
ある時、ブリス様に呼び出されました。
「今度ある王家主催のパーティーに一緒に行ってくれないだろうか?」
「えっ、お義姉様は?」
「僕は君と一緒に行きたい」
「でも、私ドレス持ってないわ」
「えっ?デビュータントの時は?」
「デビュータントなんか行ってないわよ」
平民なのだから行く必要がないのだけれど…。
「なんだって。わかった。ドレスは僕が用意するよ。家に送るのはあれだから、当日は僕の家で支度をしょう」
なんか違うふうに解釈したみたいですが、王家主催のパーティーに婚約者以外の女性をパートナーとして連れて行くなんて、自分の不貞を皆様にお知らせしているようなものなのに。
ブリス様からお義姉様にドレスが送られてくることはなかった。
婚約者のくせに何なのと憤慨していると、レアンドル殿下からお義姉様にドレスが届いた。
とても素敵で、絶対このドレスを着てパーティーに行ってねってお願いしておいたわ。
パーティー当日、朝からブリス様の使者が私を迎えに来た。
ブリス様の家に着くと、侍女たちに綺麗に磨かれ、ドレスを着せてもらった。
鏡を見ると、別人のようになっていて侍女たちの腕が良いことがわかる。
ただドレスの色がなぜかブリス様の色で、本当にこんなの着て行っていいのか不安になった。
ブリス様が待っているというので、部屋を出ていくとブリス様が固まっていた。
「あぁ、なんて綺麗だ。君をエスコートできるなんて」
「ありがとうございます。さぁ、行きましょう」
会場に着くと、注目を浴びた。
それもそうよね。婚約者の義妹に自分の色のドレスを着させてエスコートしているのだもの。
会場の中にはもうお義姉様は来ていた。レアンドル殿下から送ってもらったドレスを着ていて、お義姉様の美しさが一段と際立っている。
私がお義姉様に見とれていると、ブリス様が、
「アリエル・クレソン伯爵令嬢、貴様との婚約を破棄する。義妹であるソフィアをこれから家族になる私に会わせようとせず、またドレスも与えず、デビュータントにも参加させないなどの虐めの数々。そんな女とは結婚できない」
急に何を言い出しているのでしょうか。こんなところで婚約破棄宣言なんて。
それに言っていることは平民なのだから当たり前のことばかりだし。
私がオロオロしていると、お義姉様がアイコンタクトをしてきたので、私はお義姉様にお任せして黙っていることにしました。
「ブリス様、この婚約は政略的なものなので、勝手に破棄は出来ないはずですが」
「私がソフィアと婚約してそちらの家に入れば、何の問題もない。ただ婚約者が姉から妹に変わるだけのことさ」
「婚約を結ぶ時にもお話しましたが、ソフィアは義妹ですが、お父様と養子縁組をしておりません。ソフィア自身も自分の家名をソフィア・クレソンだと名乗ったことはないですよ。貴族ではないのですから、ドレスやデビュータントに行く必要はありません。あなたに会わせなかったのも同じ家に住んでいますが伯爵家の人間ではないからです。次期伯爵は私なので、ソフィアと結婚しても我がクレソン伯爵家に入ることは出来ません。今の発言はお家乗っ取りと同じですよ。重罪になりますが」
ブリス様が青いかおをしていると、お義父様が
「ブリス君、今の発言は聞き捨てならないな。この件に関して、後日話し合いが必要だね」
ラパラ伯爵が慌てて出てくると、
「クレソン伯爵、愚息が大変申し訳ない。後日お詫びに伺わせていただきます」
と言ってブリス様を連れて行ってしまった。
私は一人残され、呆然としているとお義姉様が抱きついてきて、
「ソフィア、可哀想に。ブリス様の色のドレスを着せられて、貴族相手に断れなかったのね」
「ラパラ伯爵令息がソフィア嬢に学園でもちょっかいをかけていたからな」
気が付くとレアンドル殿下が近くに来ていました。
これは私がブリス様の考えを知らなかったと周りに知らしめるための会話かしら。
エリク様の方を見ると、
「とても綺麗です」
と褒めて下さったので、
「ありがとうございます。初めてドレスを着たのですが、似合っていますか?」
「ええ、ラパラ伯爵令息の色を着ているのは気に入りませんが」
エリク様はブリス様の事をよく思ってなかったのかしら。
◇◇◇
後日、お義姉様とブリス様の婚約はブリス様の有責で破棄された。
お義父様は頼まれた婚約なのに、お義姉様を大切にしないブリス様をよく思ってなかったようで、私はお義父様に感謝された。
ブリス様はあんな発言をしてしまったので、社交界には出せないと、領地で一兵士として鍛えなおされるらしい。
ブリス様との婚約が破棄されるとレアンドル殿下がお義姉様宛の求婚状を持ってきたので、お義父様は驚いていた。
お義父様とレアンドル殿下の話の後になぜか私が呼ばれた。
「ごきげんよう、レアンドル殿下」
「あぁ、ソフィア嬢。君に話があってね。単刀直入に言おう。私の部下にならないかい」
「えっ?」
「勿論、学園を卒業した後の話だ。クレソン伯爵は君が良ければと言っていたよ」
「私は娼婦の娘で平民ですが…」
「我が国では出自に関係なく能力のあるものを採用する。君はアイリス嬢を大切にしている。王子妃となるアイリス嬢には信頼できる人が近くにいると安心だ。そこで君ならアイリス嬢を裏切ることはしないだろう。どうだろうか」
これはつまりお義姉様の付き人みたいなことだろう。
お義姉様の役に立てるのなら断る理由がない。
「わかりました。謹んでお受けいたします。よろしくお願いします」
「ありがとう。これからよろしく頼むよ」
こうして私は卒業後、隣国へ行くことになった。
お読み頂きありがとうございます。
評価が良ければ続きを書いていこうかと思っています。