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5、整理、そして、真相へ

 私は栢野の電話を遮り、一旦、手に入っている情報を整理するために、メモにわかっていることを書き出した。

 栢野とお互いに話をしながら、確実なところは以下の点である。


1、患者がすぐ死ぬベッドはある。

2、そのベッドは、部屋の奥まったところにある。ベッドは部屋の入り口からは見難い場所にある。

3、患者はわかりやすい暴力で死んでいない。

4、朝倉看護師は、怪談話として話をしてきた。


 これ以外にも、いくつかの点があるとは思うが、私が認識しているのは、この点だと思う。

 参考の為に、また、再び以下に病室の見取り図を載せておく。


挿絵(By みてみん)


 これのどこに殺人事件の様相があるというのか。

 私は栢野の言葉を待った。


栢野「いいですか。今回の事件において、今の話において、一つ、明らかになっていない事があります。何だと思いますか?」

著者「え、なんでしょうか。うぅん、被害者の歴ですか?」

栢野「なるほど、確かにそうですね。では、判明しているだけで、吉高さん、石川さん、松本さん、末富さん、と、なります。この中で明確に分かっているのは、末富さんが女性ということで、つまり、この部屋にいる方は、皆、女性というのがわかりますね」

著者「え、どうしてそうわかるんですか?」

栢野「四人部屋の病室で、一人、女性が入っていたら、その部屋は女性部屋として使われます。通常、異性が同じ多床室を使う事はありません。なら、この、末富さんが女性ということは、他の被害者と思われる人物も、女性となるでしょう」

著者「じゃあ、他の人が男性の可能性もあるじゃないですか。その時だけ女性部屋になったとか」

栢野「それはありえません。いえ、かなり可能性として低いでしょう。この超高齢化社会で、長期入所できる施設はあまりありません。有料老人ホームでも半年待ちとかそういう状況で、介護施設で空床としてベッドが空いていたら、そこを活用するのが、当然の事ではないでしょうか」


 栢野の言葉にもなるほど理解ができる。

 それであれば、常に空床はなく、女性がそのベッドには常に入っていることになるだろう。

 四人部屋は、常に誰かがいる状態である。

 であれば、栢野は何が明らかになっていないというのだろうか。


栢野「まだ、わかりませんか」

著者「ええ、君には何が見えているんですか」


 電話口の向こうで、栢野がやれやれとでも言いたげに、息を吐きだすのが聞こえた。


栢野「最初から明らかになっていないのは、他の入居者、利用者だったんですよ」

著者「えぇ……、でも、今、わかったから」

栢野「そりゃ、私が今、言いましたから」

著者「確かに……」

栢野「私は、先も言いましたけど、実際に、病室を見に行きました。問題の部屋かはわかりませんでしたが。ですが、確かに、部屋には他の利用者もいます。しかし、今の、今まで、私たちは、他の利用者に、必ず存在するであろう、同室者に対して、まるで意識を向けていなかったのですよ」

著者「でも、ちょっと待ってくださいよ」


 私は、介護医療院という施設の特色を振り返りながら栢野の言葉を遮った。


著者「介護医療院は寝たきりの人がほとんどですよね。じゃあ、その部屋にいる人も、寝たきりの人じゃあないですか。そんな寝たきりの老人だったり、介護が必要な人に、殺人事件なんて起こせるとはとてもじゃないけど思えませんよ」

栢野「確かにそう思えますね。ですが、それこそが盲点じゃあ、ありませんか?」


 私は内心において、それをとても支持するつもりにはなれなかった。

 確かに、栢野の考える推理によれば、同室者が同室者を殺害するというのはありえるだろう。が、しかし、寝たきりの老人が、人を死に追い詰める方法があるだろうか。また、死に至らしめる方法があるとして、それは果たしてどのような方法であるのかが、まるで、見当がつかない。

 私のそんな心のうちが読めているのか、栢野は、また、深く息を吐き出す。


栢野「ところで、私がどうして介護医療院を見学に行ったのか。知りたくありませんか?」

著者「まぁ、わざわざベッドを見に行ったんでしょう?」

栢野「まさか、私がそのためだけに行くとお思いですか」


 沈黙で返したが、それを栢野がどう受け取ったか。

 ともかく、栢野は電話口の向こうで、咳ばらいを一つ、聞かせてくれた。


栢野「実は、私の祖母が、家での生活を今しばらく中止を余儀なくされましてね。それで、どこかの施設に預けられないか、という相談をうけまして」

著者「もしかして」

栢野「それで、その介護医療院に行くことをおススメしておきました」

著者「なんてことをしてるんですか?!」

栢野「そんな驚く事はないでしょう。私は真相が知りたかったのです」


 私は、電話を耳に当てたままに、頭を抱えた。


著者「それで、何かわかったんですか?」

栢野「えぇ、十分すぎるほどにわかりました。私は祖母に隠しカメラを持ち込むようにしておいたのですよ。おかげで、決定的な瞬間もカメラにおさめる事ができました。だから、私は先ほど、言ったんですよ。同室の利用者における殺人事件だと」

著者「……どうやって殺したんですか」

栢野「簡単な事ではありますが、そういうと語弊があります。どうやったと思いますか?」


 栢野はそう私に聞いてきた。

 私はいくつかの候補を頭の中で考えた。例えば、洗剤を点滴に混ぜるという方法だ。しかし、これは看護師などのスタッフならともかく、同室者が行えることではないと思う。だいたい洗剤をどこから入手するかが問題だし、洗剤にどのように混入させるかも問題になる。

 枕で窒息死をさせる、というのも頭によぎったが、それであれば抵抗の痕跡があるはずだ。しかし、そのような話は聞いていない。だいたい、それなら、暴行の痕跡と同じように、明確な事件として扱われるはずであり、こんな呪われたベッドだなんていう話は出てこないだろう、


栢野「どうです? わかりますか?」


 電話のむこうで、栢野が少し楽しそうな声色で言った。

 私は降参という思いを込めながら、わからないという風に伝えた。


栢野「なら、どうでしょうか。会いにいきませんか?」

著者「え、誰にです?」

栢野「犯人、とでもいえる人物に」


 非常に楽しそうな声が、電話口から聞えて来た。

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