2、喫茶店で
ホラー小説とファンタジー小説で、拙作の場合、ホラー小説のほうが評価が高いと悩んでいた私の所に届いたのは、そんな朝倉イズミさんからの投稿だった。
もともと、朝倉イズミさんとはインターネット上では繋がってはいた。時折、私の作品にコメントをつけてくれるので、一読者として初めは接していたのであるが、彼女自身がK府、つまり、京都府に在住しているとあり、京都市在住の私とは話題がよくあうのであった。どこのお店が美味しいとか、どこのラーメン屋はイマイチだとか、そんな話をするのが基本的だった。
彼女は別に小説に対してアドバイスをくれるわけではないので、本当に距離感をとるのが上手いという印象だった。
だから、彼女から、先のような投稿という形で話を貰ったのは、少し意外だったのである。
しかし、私は先の投稿をインターネット上にアップロードした後、彼女に会う必要が出来た。実を言うと先の投稿にあったように、部屋の見取り図というのを添付したという事であったのだが、彼女はそんなものを添付していなかったのである。
と、なって、送付してほしい、というメッセージを送った。が、それに対しての返答は。
『良かったら、お会いしませんか?』
と、いうものであった。
これは非常に迷うものであった。私は、自慢ではないが、人と会うのは気後れするタイプだ。はっきり言うと乗り気ではない。できれば、電話で済ませたい。どこかのモキュメンタリーYouTuberのように、電話で要件を済ませる事はできないか、と提案したが、朝倉イズミの態度は頑なであった。
そこまでくると気になる事が出てくる。
まず、この話は本当の話かどうか。世の中の怪談話なんて言うのは、当然ながら、大半の者がでまかせだ。お化けなんて言うのは見間違いだし、呪いとかなんとかというのは気のせいだし、あくまでエンターテインメントとして存在するに過ぎない。それであっても、この朝倉イズミというのが話した物は、どこか、存在しそうだった。であれば、その信憑性を知りたい。
その知りたいという気持ちと、出不精な性格を天秤にかけ、結局のところ、私は彼女に会うこととした。指定したのは、京都市にある駅前のチェーン喫茶店だ。やはり、人の目がない所で見ず知らずの人物と会うというのは避けたかった。これはお互いに、である。
私がどんな人間か、朝倉イズミは知らないし、逆に朝倉イズミがどんな人間か私も知らない。
だから、何かあった際に人の助けを呼べる、人の目がある場所を選んだのだ。
一つか二つは保険をつけていた方がいい。
朝倉「どうも、朝倉イズミです」
喫茶店に現れたのは、投稿の内容からも読み取れた年齢を感じさせる女性だった。少しばかりふくよかな体系をしているのは、看護師という仕事ゆえか、あるいは、結婚出産という経験からか。
互いに注文した珈琲が届く間に、簡単に自己紹介を済ませると、私の懸念は杞憂であったというのがわかった。
朝倉イズミは、そこまで悪意を持つ人間ではない、人並みの人間である、というのが第二印象だった。
著者「それで、見取り図なのですけども」
朝倉「すみませんでした。こちらがそれに、あれ?」
朝倉さんは鞄の中へと手を入れて、ガサゴソと探し始める。が、少しして申し訳なさそうな顔をこちらへと向けてきた。
朝倉「すみません。ちょっと準備した物を忘れて来ちゃったみたいで」
著者「あー。なら、こちらにお願いします」
私はそう言うと、準備してきていたスケッチブックと鉛筆を手渡した。
それを受け取った朝倉さんは、簡単に鉛筆でスケッチブックに見取り図を描いた。
そして、出来たのはこんな見取り図だ。
朝倉「簡単に描くとこんな感じの部屋なんです」
著者「なるほど。扉が部屋の真ん中くらいにあって、ベランダがあるんですね。ベランダには、窓をあけて出るんですか?」
朝倉「そうです。あと、部屋にはこんな四隅にベッドが並ぶ形なんです」
著者「病院……みたいですね」
朝倉「そうですね。話でも出しましたけど、病院のそれに近いんですよ。それで、この右上の二つに囲んでいるベッド」
朝倉さんが指でトントンと右上のベッドを示した。
朝倉「これがその問題のベッドです」
著者「へぇ」
朝倉「別に、本当にメーカーとかは別に問題ないんですよ。パラマウント社のもので、電動ですし、すごいのがリモコンに高さと、ベッドの角度とかが表示されて看護的には助かるんですよ。ハイテクですよ」
著者「そ、そうなんですね。本当にすぐに亡くなるんですか」
朝倉「えぇ。お話でもしましたけども、本当にすぐに亡くなります。もともと、介護医療院というのは、三ヶ月で死亡退所されることが多いんですけど」
著者「そんなに早いんですか。私は、介護施設って、もっと長い間、入るものかと思っていました」
朝倉「いえいえ、介護施設というのも、今は厚生労働省の方針なのか、在宅復帰、つまりは、家に帰そうという方針が多くてですね」
専門的な言葉がつらつらと並ぶが、私として関心があるのはそういう事ではない。
著者「なら、別に早急に亡くなるのは不思議ではないのではないですか」
朝倉「そうですね。ですが、そのベッドに入っている人は元気な人でも、三ヶ月で亡くなります。あっという間の急変です」
朝倉さんは言った。
しかし、本当に呪われたベッドというのがあるのか。
私はより興味が惹かれた。