1、投稿者:朝倉イズミ(仮名)
こんな話をするのも如何なものかと思うのですが、誰かに相談しようと思って、今回、ここに投稿させてもらいました。
私は、K府で看護師として働いています。看護師として働いていると、奇妙な出来事に遭遇することは多々あります。例えば、夜間帯に誰も居ない部屋のナースコールが鳴るとかですけども、そんなのは、大した事ではないのです。朝になってからよくよく調べると、ただの配線のトラブルだったり、機材の故障だったりというのがよくあります。
どんな病院も外観は綺麗でも、中は汚いというのは良くあるのです。
ところで、看護師の全員が病院に勤めている、と皆さんよく考えておられますが、実際はそうではなく、介護施設に勤める事もあるのです。病院ほど過酷ではないにしても、ある程度は時間通りに働けるので意外と多くの看護師が介護施設で働いています。
私もかくいうその一人。
結婚と出産を機に、病院から同じ医療法人が運営する介護施設へと異動する事としました。
私が勤めたのはある介護医療院になります。
介護医療院というのは、比較的新しい介護施設で、詳しくは説明できませんが、長期で利用できる施設、本当に長期の人ですと、十年も入院している人もいます。例えるならホスピスのようなものと思ってもらえれば、幸いです。
その介護医療院では、一つ奇妙な部屋がありました。四人部屋になるのですが、必ず病状が悪くなるベッドがあるのです。ベッドが四つ、部屋の隅に、田の字型とでも言いましょうか並べられているのですが、その入り口から遠い一つのベッドがそうでした。(添付図参照)
名前を吉高さんとしますが、初めは自分で食べたりする事が出来る人でしたのに、段々と幻覚が見えるようになり、あっという間に、寝たきりとなってしまいました。ボーっと虚空を見つめるだけになり、譫言をぶつぶつと呟くようになり、食事も食べずにそのまま亡くなりました。
次いで、そのベッドを使うことになった石川さんという方も、初めは自分の足で歩く事が出来たのですが、あっという間に、訳の分からないことを口走るようになり、そして、寝たきりになってしまいました。
また、次に入ってきた、松本さんという方も、最初は口から食べられていたのに、次第におかしくなり、点滴だけになってしまいました。そうして一ヶ月もしないうちに、亡くなってしまいました。
別に介護施設で、ホスピスのような介護医療院において、利用者が亡くなるのはよくある事です。
しかし、そのベッドに入る人が次から次に亡くなって行ってしまうのが、とても不気味なのです。
もっと、最近の話をしますと、これは私が受け持ちとなった方なのですが、末富さんという方がいました。
この方は、ちょうど、T市の大きな地震の日の翌日に入所された方で、50代で胃瘻をされている方でした。PEG、つまり、胃瘻をしていると、介護界隈では十年ほどは長く生きると言われています。もちろん、人によっては延命と考えて、望まれない方もおられるのは事実ですが。それでも、やはり、若い方で、介護が必要な方だと胃瘻をされている方がいるのも真実です。
末富さん方も、そのベッドを使う事になりました。
私は、もしかしたら、ただの偶然だというのが今回のではっきりすると思っていたんです。ただの偶然であると、信じたかったのです。もっと言うと、もともと寝たきりというのもあって、それほど、状態がぐっと変わるはずもないのです。さらに言うと、女性で年齢も若く、すぐすぐに亡くなることはないと思っていました。
確かに、私の願いが叶ったのか、二ヶ月、三ヶ月と経過しても末富さんは様子は変わりませんでした。
寝たきりで、開眼こそあれど特に意思疎通ができない人だったというのもあり、著変なし、と記録するのが常でした。
良かった、と安心しました。やはり、ただの偶然で、そんな、死を呼ぶようなベッドは無いんだ。
そう、思った時分でした。
ある朝、私が日勤帯で出勤すると、末富さんが死亡退所していました。
夜間に亡くなっていたのが見つかったそうです。夜勤の看護師が巡視している中で、息を引き取っているのがわかり、すぐに医師に連絡し、その場で死亡診断書を書かれたとのことでした。
今でも、そのベッドはあります。
私は、そのベッドを密かに呪われたベッドと呼んでいます。