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この目……。
誰かを殺したことのある目だ。
そんなドラマチックなことを想像していたけれど、何となく直感で本当に彼は人を殺したことがあるのだと思ってしまった。
だからこそ、無意識に鳥肌が立っていた。
「まだ死にたくないかな」
私は平静を装いながら、言い返した。
死ぬにはまだ若すぎる。やり残したことがあるのかと聞かれれば、なんとも言えないが、まだ死ねない。
…………いや、けど、高校生という一番華やかな時期に死ぬのも悪くないかもしれない。
「じゃあ、あんまり余計なこと言わな」
「痛くなかったらアリかも」
私は幸助くんの言葉に被せるように口を開いた。
この世に特に未練はない。何かに卓越した能力があるわけでもないし、私はただ平凡に日常を生きている。
そんな中、突如殺されたとなれば、この世に少しぐらいは爪痕を残せるかもしれない。
「は?」
「無痛で、綺麗な状態で死ねるのなら殺されてもいいよ」
「お前、本当に頭おかしいんじゃねえのか」
「ううん、いたってまともだよ」
私は真っ直ぐ彼の目を見つめながらそう言った。
幸助くんは私の発言に嘘がないことを読み取ったのか、目を見開いていた。
「そんな死に方できりゃ、誰も苦労しねえよ」
「人を殺したこともあるし、自殺しようとしたこともあるって解釈でオッケー?」
幸助くんの表情がさらに険しくなる。
もしかしたら、私はどんどん彼の触れて欲しくない部分に突っ込んでしまっているのかもしれない。
今回きりでもう関わることもないだろうし、別に嫌な印象で終わってもいいだろう。……ごめん、梨穂子。
私には恋のキューピッド役は無理だったよ。
「とりあえず、今、彼女はいないんだよね?」
「この流れで、まだよくそんな質問出来るな」
「今日の本題はそれだったから」
せめて、彼女がいるかいないかだけでも、しっかりと聞いておいた方が良い。
じゃないと、梨穂子に何しに行ったのよって責められるだろうし……。
「いるよ」
「え!?」
思わぬ回答に大きな声を出してしまった。
いるの!?!?
驚きとショックが混じって、複雑な感情になる。……このルックスだから彼女の一人や二人はいそうだけど。
「奈子ちゃんは?」
「いないよ」
私は即答する。
……梨穂子になんて言おう。きっと、悲しむだろうな。
「モテるでしょ?」
幸助くんの口調が柔らかくなっている。
私と言い合うことを面倒くさくなったのかもしれない。苛立つことって結構体力使うし……。
「モテないよ」
この質問は嫌味か何か?
私がモテる世界など存在しない。十人十色ということわざがあるが、私を好きになる人などいないと思う。