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私はそう言って、頭を下げた。
この場にいるのがあまりにも気まずい。振られたような気分だ。
「別に奈子ちゃんが悪いわけじゃないだろ」
奈子「ちゃん」に少しだけときめいている自分がいる。幸助くんにちゃん付けで呼ばれるのは嬉しいかもしれない。
そもそも私の周りの男は皆、私のことを「峯川」とか「みねっち」とか苗字で呼ぶ。梨穂子の場合は「城崎さん」という何とも高嶺の花のような扱いで呼ばれている。
「奈子ちゃんの友達は俺のこと好きなの?」
「……それって私の口から言って大丈夫?」
「…………城崎さん?」
「知ってたんだ」
私は幸助くんの言葉に思わず目を見開いた。
確かに、梨穂子が幸助くんのことを好きだというのは周知の事実だった。やっぱり本人まで届いていたんだ。
むしろ、本人に届かない方がおかしいか。
「城崎さんって、さっき隣にいた子?」
「そうだよ。可愛いでしょ?」
「奈子ちゃんって一人っ子?」
私の「可愛いでしょ?」を見事に無視された。
無視された上に、全く違う質問をされている。……え、これはボケるのが正解なのか?
質問の意図が分からないが、私は素直に「弟が一人」と言った。
「へぇ」
この男は一体何を聞きたいのだろう。私に兄弟がいようといまいが、別に関係ないだろう。
「幸助くんは?」
私は話の内容を膨らませようと、聞き返した。
「姉がいた」
その短い返答に、私はこれ以上首を突っ込むべきではないと察した。
いた、か。
「城崎さん、姉に少し似ているんだ」
まさかのそっちの展開?
いや、どの展開も想像していなかったが、話の方向が全く予期せぬ方向へと流れてしまった。
亡き姉に梨穂子が似ているって解釈で良い?
「懐かしい気持ちになる?」
「姉ほど最低な人間に会ったことがない」
またもや話が想像と違う方向に……、
重い話を聞くのは別に苦ではないし、負の方に引っ張られることはないが、今このタイミングで幸助くんの闇を知るのは違う気がする。
「梨穂子はいい子だよ」
これ以上、幸助くんの話を聞かまいと話を梨穂子へと変えた。
幸助くんが視線を静かに私にへと向けた。
どんなお姉さんだったの、と聞いてほしかったのかもしれない。けど、今の私は幸助くんとそんなことを話すような間柄ではない。
「同情した?」
「うん、とっても」
私は満面の笑みでそう返した。幸助くんは露骨に表情を歪めた。
「おもんな。全部嘘だよ」
「ううん、本当だよ」
私は真っ直ぐ彼の見つめる。
人が嘘をついているか否かは分かる。特に幸助くんは分かりやすい。
きっとこの後、「今までそうやって色んな女を騙してきた」みたいなことを言うタイプだ。……あくまで推測だけど。
「やっぱり変な女」
「やっぱり?」
私は彼の言葉に思わず首を傾げた。