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さよならだけが愛だった  作者: 大木戸 いずみ
3/8

3

「あれ! あれが、私の想い人の笠原幸助くんです」


 幸助くんにバレないように私と梨穂子はそっと隣のクラスを覗きに来た。

 ……どれだ?

 私は目を細めながら、教室を見渡した。

 その中でひときわ目立つ少年がいた。……目立つ、というよりは一人だけ異質の雰囲気を放っていた。


「あの人……」


 遠い存在の人、なのに、親近感。なんだろう、この感覚。

 背は高く、高校生とは思えない顔つき、端正な顔がさらに魅力的に見える。いい意味で日本人っぽくない。

 髪の毛は肩より長く、耳と同じ高さぐらいで一つに団子で結われていた。

 ロン毛だと汚いイメージがあるが、これほどまでに清潔感のあるロン毛男子を見たことがない。


「ねぇ、奈子! あの背の高い……」


 梨穂子が私の方を振り向いて声を掛けたことすら気付かないほどに、私はその男性に釘付けになっていた。

 猫目が印象的だった。

 初めて見る幸助くんに驚きと悔しさという二つの感情がごちゃごちゃになっていた。そして、何故か、泣きそうになった。

 分からないが、ただ涙が溢れそうになったのだ。

 …………気を抜けば、一瞬で心を奪われてしまいそうになる。

 じっと見過ぎていたせいか、彼の瞳が私を捉えた。私を全て見透かすような瞳から逃れられなかった。


「奈子……?」

 

 彼の色素の薄い瞳が陽光に反射してビー玉に輝いていた。

 私はただじっと幸助くんを見つめていた。


「奈子ってばッ!」


 梨穂子が私の方を力強く叩いた。その反動で私はハッと我に帰る。


「え?」

「え、じゃないよ。あれが幸助くん」

「うん、分かる、あれが笠原幸助」


 私がもう一度、彼の方を見た時には幸助くんはもう私の方を見ていなかった。


「…………もしかして、好きになっちゃった?」


 心配そうな表情を浮かべながら、梨穂子は私の方を見つめる。


「そんなわけないよ」

 

 初めて梨穂子に嘘をついたかもしれない。

 好きになったわけじゃない、ただ、私の中で何かが壊れたような気がしたのだ。


「それならいいけど……」

「てか、幸助くん絶対に高校生じゃないだろ」


 不安そうな梨穂子にふざけた調子で私は返した。

 

「だよね!? あれがモテないはずないんだよね。幸助くんって噂だと、告白してきた女の子全員断ってるらしいよ」

「なにそれ、初耳」

「うん、だって奈子には言ってなかったから」

「え~~~」


 私が口を尖らせると、梨穂子は「だって、奈子」と彼女も口を尖らせた。


「幸助くんに興味なかったじゃん」


 それはそう。

 私が興味あったのは梨穂子の恋愛だ。笠原幸助という人物がどういう人物を深く知りたいとは思ったことは一度もない。

 

「てかさ、これ、どうやって幸助くんに話しかけるの?」

「さあ?」


 私の疑問に、梨穂子は首を傾げる。

 私、彼と一対一で話したくない。彼にもっていかれそうだ、なにもかも。

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