思い出の魔法フィルム
アルラウネを倒した私達は、依頼主のところに戻って来た。その道中、サダクは命を落としかけたことに腹を立てていて、私がなだめても駄目だった。
「……あぁ、君たちか」
扉をノックして依頼主のオークを呼び出しすと、案の定、サダクは大声を張り上げた。
「あぁ、じゃねぇよっ!!ふざけるなよっ!!アルラウネの奴らが出て来て俺達は死ぬところだったんだぞっ!!」
すると依頼主は反抗もせず、申し訳なさそうにした。
「そうか……。すまなかったな……。しばらくトレントだけだったから学生だけでも問題ないと思ったんだ……。報酬は倍やろう」
「んなことで許されるかっ!」
サダクの怒りは収まらず、しかし、彼の後ろに居た私はあることに気づいてしまった。私はサダクの上着の裾をちょんちょんと引っ張った。
「サダク……」
「なんだよ、レイラ。お前だって酷い目にあっただろっ!」
「違う……」
私は廊下の奥にある魔力で描かれた映像を見て欲しくて目配せした。
「えっ?何だよ……、あ……」
そこには、彼の子どもの動画が映っていた。
子どものオークは楽しそうに草原を走っていて、勢い余って転んでしまうと泣いてしまった。母親のオークは、その子を優しく抱きしめると、その胸で子どもは笑顔を取り戻すといった動画が繰り返し流れていた。
動画と言ってもスムーズなものじゃなくて飛び飛びの写真を連続して映しているだけの粗末なもの。
この世界に写真や動画は無いけど、魔法を使って人の思いを特殊な魔力がかかった板、つまり、魔法フィルム?に投影することが出来た。この魔法フィルムは、とても高くて学生の手が出せるものではなく、しかも、その魔力もいずれ消える運命にあった。このような一時的なものだったため、使う人も少なかった。
それでも彼は子どもの思い出を残したいと思ったのだろう。愛情溢れるその動画を見て私は胸が苦しくなった。
「……」
言葉を失ったサダクの代わりに私が話した。
「あ、あの……、お子さんのことは……、そ、その……アルラウネが話していました……」
「そうか……」
依頼主は顔を下に向けて言葉を詰まらせた。
「家族を犠牲にして経営を優先したツケが回ったんだろうな……。妻にも愛想を尽かされてしまった……」
私達は何も言えなくなっていた。
「……それでアルラウネから逃げてきたのか?」
「い、いえ、私達が倒しました……」
依頼主は少し驚いたようだった。学生がまさかあの魔物を倒すとは思わなかったのだろう。そして、悲しみの顔は少し和らいだのが分かった。
「そうか、そうか……、お前たちは仇を討ってくれたんだな……」
「仇だなんて……」
「さぞかし危険だったろう……。君が怒るのも仕方ない。……申し訳なかったな」
依頼主はサダクに目をやると頭を下げた。
「もう遅い時間だ。二人とも今夜は泊まっていくと良い」
「えっ!そ、そんな……」
「遠慮する必要は無い。部屋は沢山空いているしな。どの部屋を使って良い」
泊まっていけと言われて私は戸惑ってしまった。だけど、確かに天から太陽の光を指している水晶は、その光を落とし始めていた。つまり、夜になりかけていて、危険な魔物達も増え始める時間だった。
「さぁ、入るがいい……。子どもが遠慮するものじゃない」
依頼主は部屋の奥に案内してくれた。
「あ、ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます。ほ、ほら、サダクもお礼を言ってっ!」
「……」
サダクは特に頭を下げなかったが、彼なりに酷いことを言ってしまったと反省してるようだった。もう、しょうがないなぁ……。




