分岐点
バイトには色々なものがあった。何かの採集に、魔物退治に、隣町へのお届けに、服を作るっていうバイトもあった。ゲーム通りだったけど、リアル体験だから違和感だらけ……。
あ~、そう言えば、海で魚を集めるというバイトには驚いたなぁ。魚の方じゃ無くて海にね。
海岸に到着して水平線まで見えた時はちょっと感動した。こんな岩肌の天井しか無い場所だったけど、海ってあるんだって。水平線のその先は壁らしいけど……。
それよりも波に違和感があった。波打ち際のザワ~ってのが無いの!なんだこれ?って思って海に触ったら、ゼリーみたいだった。すっごい柔らかいゼリー!!これじゃぁ泳げない……。正確には泳げるけど、めちゃくちゃ疲れる!だからかもしれないけど、海水浴をしている魔族は一人も居ない。
川や湖は普通?の水だけど、海に流れてくるとこんなになっちゃうらしい、よく分からん。こんなところだけど、魚は泳いでいるし、海の底では人魚族という魔族も居るらしい。
まぁ、ともかく、勉強もこなして、バイト(実技)もこなして、学校生活に慣れた頃だった。教室での勉強が終わって、いつものバイトタイムがやってきた。私は掲示板のある食堂に向かっているところで声をかけられた。
「お、おい、レイラ」
「な、なあに?」
まさかと思ったけど、振り向いたらサダクだった。遂にこのイベントがやって来た。分かっていたけど本当にやって来るなんてなぁ。
「い、一緒に魔物退治に行かないか……」
そうやって誘う割りにはそっぽを向いていて、だけど、顔は赤くなっているのは分かった。ちょっと可愛いかも。
「北西部の森でトレント退治って依頼だ……。お、お、お前的には、"ばいと"だっけか……」
私が依頼のことをバイト、バイトって言うから合わせてくれたのね。
「いつ?」
私は返答を聞かなくても分かっていたけど意地悪しちゃった。
「こ、これからだよ」
「フムアルとかシェラとかイェッドは?」
「い、いないよ」
これも知ってたけどね。
「二人だけ?私はポンコツ魔道士だよ?」
「お、おれが守ってやるから大丈夫だ」
「ふ~ん……」
「んだよ、駄目か?い、忙しいなら、ま、また別の時に……」
「いいよ~」
「おっ!!おぉ、そうかっ!!」
私がOKしたときの彼の顔!凄く嬉しそうだった。
「ちょっと待ってね。魔法回復薬を買ってくるから。この杖があっても油断できないからね」
「おう、北の校門で待ってるっ!」
一旦、サダクと分かれた後、購買部に向かったけど、その途中でギエナに会った。何故かイェッドと一緒だった
「おんやぁ、慌てて何処行くんじゃぁ?」
ギエナは何故かニヤニヤしていた。目つきがいやらしい……どういうこと?
「べ、別に……。ちょっとサダクと一緒にバイトに行くの」
隠すのも変だし、だけど、ちょっと恥ずかしかった……。
「はぁ、二人だけで何処にぃ?」
「ま、魔物退治よ、北西の森に……」
「ほ~、ほ~。えへへへ~、ひぇひぇひぇ……」
「な、何よその笑い」
「なんでもないったらりん」
「うん」
イェッドは何故かじっとこちらを見ているだけだったんだけど、また変なことを言った。
「その選択にするんだね」
「せ、選択?」
そう、この選択はサダクコースと呼ばれている分岐点。彼と一緒に行くのを選択すると、彼と、そ、その親密になっていくんだけど……ん、あれ、なになに?まさか、この子はゲームの事を知っている?私が不審がっていると回復薬を出してきた。
「ほら、僕の回復薬が余っているから上げるよ」
「むむ?……こ、こんなに?く、くれるの?お金払うよ」
「お金なんていらないよ」
「そんなわけいかないでしょ?というか貧乏学生でしょ、あなたって」
「ぐっ!痛いところを……、でもまぁ、アルバイトを結構こなしているから少しは貯金も出来ている。良いからそれ持って行ってよ」
「う、うん……、そ、それなら」
貯金がある?相変わらず穴だらけの制服を着ているくせに演技が下手だなぁ。ん?今、アルバイトって言った?
「頑張ってね~。あたしはこいつと話があって行けぬのだよ」
「う、うん」
正直言うとギエナが来たらどうしようかと思っていたんだけど、もしかして気遣われた……?ギエナもこの分岐を知っている……?そんなわけないか。
この二人には違和感があったけど余り考えていられなかった。サダクを待たせているから急がないと。




