デートを眺める者
津名と日高が献血デート(?)を終えた頃、その隣にあった家の上から、様子を見ている二人が居た。二人は古いドイツ語で会話をしていた。
「アニヴァお姉ちゃん、また何もしなかったんだね、よっぽどのお気に入りだ」
制服姿の少女は、隣に居る幼い少女をお姉ちゃんと呼んだ。幼い少女は、制服の少女の質問にちらっと目を配らせるだけで別のことを言った。
「マリ、あいつは何者だい?」
「えっ、お姉ちゃんを助けようとした子でしょ?日高麻帆って子で私と同じクラスだったよ~。まぁ、お姉ちゃんの言った通り良い子だったかなぁ~。仲良くなれそうっ!」
「違うよ、もう一人の方だよ」
「ん?男の方?あいつは津名ほずみ、同じクラスの子だよ。自分の席も忘れちゃうアホなやつっ!しっかも、聞いてよっ!ここに誘うために噂話をしていた私らをナンパしようとしてきたんだよっ!笑える~っ!しかし、献血したことは褒めておこう、わはは~」
制服の少女は、津名のことを笑ったが、幼い少女は鋭い目のまま真剣な面持ちだった。
「あいつ、私らの正体を掴んでいやがった。」
「はぁ?掴んでいたってどうして?」
「それは知らないが、採血しながら二人を追い詰めやがった……」
「はぁ?あんな制服ボロボロの駄目人間がぁ?信じらんないんだけど」
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少し前、津名が献血車に入った頃、津名はエアコンの効いた献血車に驚きの声を上げた。
「はぁっ!エアコンが効いているっ!」
「はははっ!快適に採血できるようにしているんですよ」
男と女の職員は、津名がエアコンで驚いていることにニコニコとしていた。
「さあ、こちらにおかけになってください。少し質問がございます」
津名は問診するために女性職員に案内された椅子に座るとまた社内を見渡して、男の職員に質問した。
「しかし、随分古い献血車ですね」
「あはは、そうですね」
「ほら、これって自動運転じゃないでしょ?」
「運転が好きなんです、今時すみません」
男は苦笑いをしながら津名の質問に答えた。
「ガソリン車ですか?まぁ、軽油程度なら水と二酸化炭素で生成できる時代ですからね」
「そうなんですよ、電気自動車は中古市場でも高いですから。お金がないのですよ、我々もね。さぁ、こちらへ」
問診が終わると、津名は採血するためのベッドに案内された。
「チッチちゃんでしたっけ?あのキャラクター懐かしいですね、前の時代にも……あったかなぁ」
「車の横に書いてある、あのキャラクターですよね。親指を掴んでくださいね。……前の時代?」
職員は津名の腕をゴムバンドで縛って、血管を見つけると話を続けた。
「何十年と人気のあるキャラクターなんですよ、可愛いですよね。ちょっとチクッとしますね」
津名は採血されながらも質問を続けた。
「しかし、バイオ技術で血液は作れる時代に献血ですか」
「そうおっしゃる方も多いのですが、新鮮な血液は今でも必要なんです。体調の方は問題ないですか?」
男の職員は津名の質問に丁寧に回答していたが、次の質問で顔を青ざめさせた。
「はぁ~、そうでしたか……。ところで、血液は美味しいですか?」
「そ、それは……どういう」
「えっ?!」
女性職員までも津名の言ったことに動揺していた。
「霊体だけじゃ物足りないですか?ビルの間のところにいた少女達ですが突然消えてしまったそうですね、あなた達ですよね?彼女達に問題もありましたが、やり過ぎな気もしています」
「おっしゃる意味が分からな……いですな……」
「そ、そんな高校生は知りませんっ!」
女性職員の回答に津名は鋭く答えた。
「私は高校生なんて言ってませんよ」
「お、お前っ!」
「あ……」
「あ、血液取り終えましたね?」
津名は、自分で注射針を抜いてしまうと、ベッドを降りてとことこと出口に向かってしまった。
「では、失礼しますね。あっ!これもらって良いのでしょうか?」
「ど、どうぞ……」
「……」
「お二人はご夫婦でしたか、大変なことに巻き込まれてしまいましたね」
彼は図々しくも出口に置いてあったジュースを2つも掴んで持って行ってしまった。後に残された職員二人は顔を見合わせてどうするか相談し始めた。
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「騒ぎ立てられると不味いよ」
幼い少女は悔しそうにそう言った。
「この辺も駄目かぁ……、結構長く居られたんだけどなぁ。あぁ、学校も辞めるないと駄目ぇ?友達も出来たんだけど」
「何者か分からないが、二人とも殺ろう」
「おぉっ!それなら別の場所に行かなくてすむね。だけど、お気に入りだったあの子も?」
「気に入ってないよ、気まぐれだ」
「そっかぁ、仲良くなれそうだったんだけど」
「幸いなことにあの男、女を家に連れ込むらしい……、今日がチャンスだ」
「そうそう、だいた~んっ!ダメ男なくせにっ!結構、積極的じゃんっ!」
制服の少女は呆れていた。
「しかし、あの男の身体は何なんだ……」
「身体?えっ、お姉ちゃんもあの男に抱かれたいっ?!」
「バカな事言ってるんじゃない……。気づかなかったかい?左手の指が動いていなかっただろ?」
「え?そうだった?見てなかった」
「あいつの血は半分腐ってるかもしれない……取った血は捨てちまいな」
「えぇっ!!まじでっ!……貴重な生血なんだけどなぁ……」
「身体を悪くするよ……、あぁ、それにしても不愉快だ……、あの巨大な力……。太陽みたいだよ」
「ぷっ!太陽ってっ!あ~んなダメ男君がぁ?」
幼い少女は、黙って制服の少女を睨んだ。
「油断するな」
「ご、ごめんなさい……」
制服の少女はシュンとした。
「で、でもさっ!そんなにヤバいの?そんな風に見えないんだけど……」
「正体も分からないが聖職者か、それに似た奴らか……あぁ、腹立つっ!」
「うげぇ~~……」
「あいつらも連れて行く。お前も準備しな」
幼い少女は、献血社からこちらを見ている二人を顎で示した。
「うん、分かった」
二人はその場から一瞬で消えて準備に取りかかった。