禍!アラクネ族
レイラが禍族として広がっている原因はすぐに分かった。
玲羅達が食堂に到着すると、一人の少年が大きな声で演説していた。龍族の話もあって生徒達は食事も食べずにその話に聞き入っていた。
「あぁ、なんと恐ろしき場所と化したのか魔導学校よ
その姿を恐れよ、皆の者
その姿にひれ伏せよ、小さき者よ
その姿をとくと見よ、弱き者よ
その者とはかの禍族なり
この街は不幸の雲が覆う
この大陸は不運に包まれる
さぁ、逃げろよ生徒達!
さぁ、逃げろよ皆の者!」
「イ、イェッド?」
禍族が現れたと騒いでいたのはあの龍族のイェッドだった。レイラは彼が自分の演説に酔っているため、怒る気も失せただ呆れるだけだった。
しかし、サダクは顔を真っ赤にして怒りが抑えきれないのか、今にも飛び出しそうになっていたし、他の二人も怒っているのがレイラにも分かった。だが、意外にも彼らよりも前に歩み出て行ったのは、ギエナだった。これにはレイラが驚いてしまった。
「ギ、ギエナ?」
「こんらぁっ!何してるんじゃぁぁっ!」
彼女はイェッドの周りにいる生徒達を飛び越えて壁に取り付くと、蜘蛛の尻から糸をイェッドに向かって飛ばした。
「あたしのこの新しい特技をくぅらぇぇぇっ!」
その糸は、イェッドの口の周りから身体までをグルグル巻きにしてしまった。彼は何も言えなくなり、そのまま為す術も無く倒れ込んだ。
「ムゴ……、ムゴ……」
ギエナの講堂に生徒達は驚きつつ、それ以前に高位種族の龍族を縛り付けてしまった彼女の行為に行為に震え上がった。ギエナはあっという間に蜘蛛の巣を作ると、イェッドを糸で振り回してその中心に据えてさらし者にしてしまった。
ギエナの行動をあっけにとられて見入っていったレイラ達だったが、腕を組んでイェッドを睨んでいる彼女のところに集まった。
「ギエナ……、ちょっとやり過ぎじゃない……」
「うんにゃ、とんでもないっ!こいつがしでかして申し訳ない」
イェッドは何も言えずもがき続けていた。
「ムグ……、ムググ……」
そしてギエナはイェッドに代わって頭を下げた。レイラはどういう関係なのかと思った。
「う、うん……。君ってイェッドと友達なの……?」
「はぁ、そうだね。腐れ縁ってやつ?」
龍族と腐れ縁だという彼女の発言に同族の者達もそんなことはあり得ない、誰だあいつはとざわめいた。
「ムゴゴ……」
「全くっ!なんつ~事をするのかっ!君のせいで無茶苦茶だぞぉ。君も謝れぇ~っ!あっ、しゃべれないか」
ギエナはさすがに口元の糸だけほどいてあげた。
「ほら、謝れェェッ!」
「え、えぇ~っと、ご、ごめんなさい」
蜘蛛によって龍が捕らえられて謝罪させられていた。レイラ達は何だか怒る気が無くなっていた。
「い、いいよ、もう……。なんであんなことを?街でもそうだったけど……」
「この方が進みが早いって思って」
「す、進み……?」
レイラは何を言ってるのか分からなかったが、それ以前にまたもギエナが腹を立てた。
「あぁ、もう、いっつもいっつもっ!いちいち行動が意味不明なのだよぉ、君はっ!少しはオチツケ、キ~ッ!」
「わ、分かったよ……。だから、これをほどいて……」
「はぁ~?駄目に決まっているっしょっ!そのままで反省しろぉぉ~っ!」
サダク達も訳が分からなくなってしまっていた。
「……なんか怒る気が失せちまった」
「そうだね……」
「誇り高き龍族はどこへやら……」
こうして取りあえず、イェッドは蜘蛛の巣にかかったまま食堂で見世物にされた。
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食事を終えて自室に戻ったレイラはベッドに横になった。
「何か、疲れたなぁ……」
「あはは、そうだよね。寝る前にお風呂行こうよ~……、って、もう寝ちゃったか」
レイラは疲れが溜まっていたのか、そのまますぐに眠りに落ちた。ギエナは布団を掛けて上げた。
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晒し者にされたイェッドは、食事を終えて寮に戻って行く生徒達を横目に涙目になっていた。仕方なく戻ろうとしている羽族の女生徒に声をかけて助けてもらおうと声をかけた。
「ね、ねぇ、そこの人……。助けてくれない?羽族は優しいって聞いているんだけど……、ね、ねぇ?」
「はぁ~……」
しかし、その子は大きなため息をつくとそのまま何処かへ行ってしまった。
「えぇ、ちょ、ちょっと……?あ、行かないでぇ……お願いっ!……い、行っちゃった……。だ、誰か下ろして~……」
イェッドは結局、誰もいない食堂で吊されたまま朝を迎えることになった。




