禍族(まがいぞく)
龍族という種族もゲームには存在しなかった。しかし、他の人達は龍族を知っているようだった。
「りゅ、龍族……?」(そんな種族いなかったのに……)
レイラが頭を悩ましていると、シェラが龍族について説明を始めた。
「君は龍族を知らないのか……?龍族は魔族の中でも上位に位置していて、力も魔力も全種族で最も高いと言われている。しかし、龍族はここしばらくは鎖国政策を始めていて、他国との交流はなくなったと聞いていた。この場に龍族が居ることが不思議な事なのだよ」
「そ、そうなの……?ふ、ふ~ん……」
しかし、当のイェッドは頭を掻いて何だか頼りなく笑っていた。
「そんな種族なんだね……、あはは……」
レイラは改めてイェッドを見つめて何だろうこのNPCはと思った。
(彼って何処かで見たことあるような……、んなわけないか……。NPCよね……)
顔はどこか日本人のようにも見えて親しみがあった。一本だけ生えた角と耳はえらのような形をしていた。腕には鱗が見えて大きな尻尾が後ろに見えてそれが左右に揺れていた。レイラは攻略対象ではないからNPCキャラだと思ったが、それにしては存在感がありすぎた。
(NPCにしては、ちょっと格好いい……ということはないけど、話しやすい人)
レイラがボケッとイェッドを見ていると、彼は彼女を見返して驚くべき事を言った。
「それよりも、レイラ、君は禍族だね」
「はぁっ!あんたがそれ言うのっ!?」
ゲームであれば、シェラが言うセリフだったが、龍族の少年がレイラの正体を明かしてしまった。
「あぁ、なんと恐ろしいことだろうか~ぁっ!禍族がここにいるぅぅ~」
その後、イェッドは、大げさに驚いた仕草をした。しかし、それはわざとらしく見えた。
(なんなの、この龍族ちゃんは~っ!はっ!みんなは……)
レイラが心配したとおり、禍族という事を聞いて皆驚いた顔をしていた。
「えぇっ!昔話に出てくる、かつて、この地を破壊したという災いの種族?まさか本当に存在していたのかい?見たことが無い種族だと思ったんだ、角も羽も鱗も無いし」
フムアルは昔話を思い出してそう言った。
シェラは知識として知ってるようだった。
「やはりそうか……。時々、現れることがあると本で読んだことがあったのだ。その容姿にそっくりだからまさかと思ったのだ……。世界を破壊するだけの強大な魔力があるとか……」
「そ、そんなわけないしっ!」
レイラは否定したが、サダクは今までの行動に納得がいったようだった。
「禍族か……、子どもの頃に婆ちゃんに何度脅されたかたか分からないぜ。悪さする度に禍族が来るって言うんだからな。う~ん……それでレイラは意味の分からないことを話していたのか?」
しかし、疑問が沸かなくもなく、まじまじとレイラを見つめた。
「……ほ、本当かぁ?ただの貧弱な記憶喪失女にしか見えないけど」
「し、失礼なぁっ!禍族ってのもかな~り失礼だぞぉ……。こんな可愛い女子なのにぃっ!」
レイラがいくら否定しようが、彼らが街の中心地で騒ぐのでいつの間にか他の魔族達も騒ぎ始めていた。
この世界では人間は、禍族と呼ばれていて、昔話の中で破壊をもたらすものとして認識されていた。魔族の国に時々、禍族が彷徨って来ることはあったが、その時は国が滅ぶときとか、世界が消えるときとか、何らかの災害が起こるときなど、まことしやかに噂されていた。
「お、おい、禍族だって?」
「禍族に会うと不運になるって言うぜ」
「俺は呪われるって聞いてるけど」
「ほ、本当?ただの女の子でしょ?」
「角も爪も無いけど」
「いやぁ、容姿で騙すって言うぜ?」
「と、ともかく、この街から追い出せよ」
禍族なんて見たことの無い魔物がほとんどだったが、イェッドの大声で収拾が付かなくなり始めていた。サダク達は思った以上に人が集まってきたので焦り始めた。
「お、おいおい、やばくねぇか?」
「わぁ、ど、どうしよう……」
「こ、これは……」
レイラは顔を青ざめさせた。
「ちょちょちょ~……、何てことをするんだぁ、この子はっ!」
彼女は、イェッドをちらっと見たが、黙ってニコニコとしているだけだった。
「こ、このイベントはどうなるんだぁぁっ!」
ゲームではシェラが禍族だと指摘するが、あり得ないだろうということでそのまま魔導学校に連れて行くだけのイベントだった。しかし、イェッドというNPCのお陰でとんでもない騒ぎになり始めていた。
周りはすでに武器を持ちだした者も現れて、この災いの種族をどうにかしようという魔族達で殺気立ち始めていた。
「ひ、ひぃぃっ!たいへんだぁ~っ!」
今にも群衆がレイラを襲おうとしたところで彼女の前に突然一人の男が現れた。彼女はその姿にまた驚愕した。
「こ、校長ぉ?ここで来るぅ~っ!」
レイラ達の前に現れたのは魔導学校の校長、コカブだった。




