業務通り
レイラ、サダクとフムアルは、門を抜けて大陸の中央に位置する街、ポラリスに入った。この街では招待制を取っていた。フムアルは招待状を旅の途中で紛失したが、サダクの持っている招待状で入ることが出来た。
レイラは街並みを見るなりポカンと口を開けて感心した。
「はぁ~、リアルだと凄い迫力だなぁ……」
五千名を収納できるポラリスには、RPGに登場しそうな魔物達が普通の日常を送っていた。
この街を囲む壁は数十メートルにも及んだが、中の建物は、ちらほらと高くそびえ立つ高い建物は政治を行う建物や、病院など公共の建物だった。それ以外の建物は、せいぜい二、三階程度の建物が多かった。
「そうそう、キノコを使った建物も多いんだよなぁ」
この文明では、木材も使われたが、菌類、つまり、巨木のように育ったキノコを建材に使うことも多かった。つまりそれを薄く切って壁のように使ったり、ブロック状にして乾かしてレンガのように使ったり、キノコ自体をくり抜いて、そのまま使ったりと様々な使い方をされた。
様々なところを見ては嬉しそうにしているレイラを見てフムアルは、ふと不思議に思った。
「キノコを使った建物が多いんだよなって、君はこの街が初めてって言わなかったかい、レイラ?」
「う、うぇっ!?そ、そう、そうそう。もちろんそうだよぉ。ほ、ほら、噂で聞いてたからさぁ……」
サダクも疑い続けていたのでフムアルに同意した。
「やっぱ、お前初めてじゃないだろっ!」
「は、初めてだよぉ、変なこと言う人達だなぁ……」(ゲーム画面で見ただけだよ……)
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三人が中央に位置する噴水に到着すると、フムアルは改めて二人に自己紹介をした。
「ともかく助かったありがとう。名乗ってなかったね。僕はフムアル・サマカー・スケスピ」
レイラは、お礼のために頭を下げて、顔を上げたフムアルを改めて見た。
角族らしく、両耳の上から生えた二本の角がねじれながらも真っ直ぐに上を向いていた。この角は綺麗な形であるほど異性にもモテたし、その能力も大きかった。能力が高ければ強い権力持つことも出来た。
しかし、彼は部族でもトップクラスの角を持っていたが、気が弱く、それを現すように目の上まで伸びた前髪で綺麗な目も見えないぐらい隠していた。角族らしい黒いマントも身体を覆っていて気の弱さを強調しているようにも見えた。
「さっき話したかもしれないけど東の国から魔導学校に入学するためにここまでやってきたんだ」
サダクとレイラも自己紹介をした。
「俺は、サダクビア・スアリ・エクアって言うんだ。サダクで良いぜ?俺も魔導学校に入るために来たんだ」
「私はレイラ、よろしくね」
「そうか、サダク。君もか。学校ではよろしく。招待状はありがとう」
「フムアル、よろしくな。てか、礼ならこの女に言えよ。俺は悪いけど無視してしまおうと思ったしな」
「サダク、別に自分を責めないでくれ。招待状を落としてしまった自分が悪いんだ。レイラ、ありがと」
「やだなぁ~、フムアルぅっ!それこそサダクにお礼を言ってよぉ~、私の招待状じゃぁないもんっ!」
「そうだね、二人ともありがとう。それにしても名前呼びかい、レイラ?あははっ!」
「だぜ?いきなり馴れ馴れしいんだよ、こいつは。俺のこともサダクって呼ぶしなっ!」
「あは、あはは~……」(あちゃ~……、馴れ馴れしいキャラで通すしかないかぁ……)
レイラはゲーム名に慣れてしまっていて、ついキャラクターを通称で呼んでしまっていた。彼女は恥ずかしさの余り、話を逸らした。
「フ、フムアル、それよりもさぁ、魅了を使えば入れたのにどうして使わなかったの?」
魅了という言葉にサダクは聞いたことのない能力で驚いてしまった。
「み、魅了っ!?そんな能力があるのか」
フムアルも別の意味で驚いていた。
「レイラ、なんでそれを知っているんだい……?僕らは少数魔族だからこの能力を知ってる人も少ないのに……」
「え、え~っと……、な、なんでかなぁ」(駄目じゃん、これも後で知る能力じゃん……。今、言っちゃったらシナリオはどうなっちゃうんだぁ……?)
「ち、またお前の不思議発言か」
「ともかく、この能力は使っては駄目なんだ……。他人を自分の思い通りにするなんて駄目に決まってる。みなが自由な意思を持っているんだから」
「おぉっ!ゲーム通り、真っ直ぐな性格っ!」
レイラはしまったと思って口を押さえたがすでに遅かった。
「げーむ?」
「褒められて嬉しいけど、なんだいそれは?」
「うぎょぎょ……ぎょーむ、そう、業務通りだなって意味ぃ……。あははぁ……」(私しゃぁ、だめだ……。何でもしゃべっちゃう開けっぴろげな性格が災いとなってるぞぉ……)
二人は何言ってるんだという眼でレイラを見つめていた。
「あははぁ~……はぁ~」




