二人目
レイラは、サダクに連れられて巨大な門にたどり着いた。この門は大きな街を囲むために作られたものだった。カベの外側は大きな堀となっていて、水が張られていた。よく見ると、巨大な魔物が上から落ちてくる人達を待ち構えて泳いでいるのが分かった。
「ぐぇぇ、あんなのいたっけ?……ブルルッ!」
ゲーム上では1ブロックで現される水堀だったため、あんな魔物は表現しきれなかったのかと思った。レイラは自分が落ちてしまったことを想像して身震いした。
「また変なこと言いやがって。お前来た事あるのかよ?空から来たんだろって、言っててバカらしいわっ!」
「ななな、な~い、無い無いっ!あるわけな~いっ!」
レイラは慌てて否定したが、サダクは呆れるばかりだった。
「ホント分からんわ。まぁ、いいや。やっと門まで着いたぜ。……しかし、なんだこの行列は……」
巨大な門の入口では、武装した門番が街に入ろうとしている人達を一人一人を検閲していた。招待制が取られたこの街では招待状を持たない者は入れなかった。
サダクは橋に並んでいる人達の多さにうんざりした。
「すげー並んでるな……って、お前何処に行くんだよ」
「ちょっと待ってて」
「はぁ?待ってろって、お前、何処に行くんだよっ!」
レイラはサダクの話を聞かず、様子を見るため、列の先頭まで走って行った。
「……聞いちゃいねぇ」
混雑の原因は、先頭で誰かが門番二人と揉めているからだった。
(あぁ、やっぱりね……)
レイラは揉めてる人物を知っていた。
(……フムアルだ)
彼はこのゲームの二人目の攻略対象者だった。
フムアルは一生懸命、二人の門番を説得して中に入れてもらおうとしていた。どうやら旅の途中で招待状をなくしてしまったようだった。
「あ、あの、ど、どうしても駄目でしょうか……」
「駄目だって言ってるだろうっ!招待状を探してこいっ!」
「はぁ……、お、お願いします……、街に入れないと魔導学校に入学できないのです。≪ どうか私を中に入れてください ≫ 」
彼の願いのこもった言葉が発せられると、周りに響き渡って門番が一瞬意識をなくした。レイラは角族特有の魅了がかかったのだと分かった。魅了されるとどのような者も使役されてしまう能力だった。
「……な、なんだ?門番の様子がおかしいぜ?」
いつの間にか、サダクも様子を見に来ていた。門番達は朦朧とした意識のまま、フムアルが街に入ることを許した。
「……それでは……仕方ないな……特別だ」
「……入るが良い」
しかし、それを知った彼は慌てた。
「あっ!し、しまったっ!魅了してしまった……。ごめんなさい……」
フムアルは両手をパチンと叩くと門番達の魅了を解いた。彼らは意識を取り戻したが、まだ頭をフラフラとさせていた。
「ふ、ふむぅ……今日は調子が悪い」
「俺もだ……どうしてだろう……」
彼らは別の門番に変わるため奥に引っ込んでしまった。
フムアルはそれを見届けると、きびすを返し、街から離れようとした。
「はぁ~……、せっかく合格したのに……。一年を無駄にしてしまった……ショボン」
そんな彼にレイラは声をかけた。
「ねぇ、帰らなくても。招待状はこの人が持ってるから大丈夫だよ」
それに驚いたのはサダクだった。この女は何を言っているのだろうかと思った。
「はぁ?何勝手な事言っているわけっ!?」
レイラの親切心にフムアルは自分の魅了がかかってしまったのだと思った。
「えぇ、あぁ、ごめん。君にも迷惑をかけちゃった……、すぐに解くね」
「大丈夫、魅了はかかってないよ」
「えっ、そうなの……。そ、それならなんで……?」
「一年を無駄にするのは可哀想だと思って」
彼女はそう言ったが、サダクは全く無関係なのにどうして巻き込まれるのかと思った。
「はぁ……、お前ねぇ……俺は関係ないってのに……」
フムアルも申し訳ないと思い始めていた。
「こう言ってるけど……」
「この人はいい人だから大丈夫ぅっ!」
「ちっ!勝手なことを言いやがって……。お前って奴が分かってきた気がするぜ」
すでにサダクはレイラに言われると何も言い返せなくなってしまっていた。
「あ、ありがとう……。君も申し訳ないが入れてもらえると大変助かる……」
サダクは不機嫌そうな顔をしていたが、もういいやと投げやりになっていた。
こうして、レイラとサダク、そして、フムアルは、数々の魔物達が集まる街、ポラリスに入った。




