ところであの件だけど……②
津名は、一年主任の香淀と三年主任と生徒会を管理する豊岡に職員室に呼ばれた。いよいよ退学通告をされそうになると職員室に生徒会の三人とクラスメイト達が津名の退学を止めようと集まった。
「み、みんなぁ……、うぅぅぅ……、ありがとうぅぅぅ……」
津名は大泣きしていたが、香淀も豊岡も顔を見合わせて苦笑いをしていた。
「い、いやはや……、あはは……、豊岡先生からお願いします」
香淀は苦笑いしながら、説明してくれと豊岡にボールを投げた。
「はぁ~、みなさん……。全くの早とちりだよ……。しかし、私達の判断は正しかったようだな豊岡先生」
「はいっ!」
生徒達はどういう意味だろうと思っていると豊岡は話を続けた。
「確かに彼は死亡届が出ていたのだが、特別な計らいをすることにしたんだよ。つまり、職員会議で一人ぐらい"幽霊生徒"が居ても良いだろうということにしたんだ。今日は死亡届の取消申請をしてくれとお願いしようと思って呼んだのだ」
それを聞いていた生徒達はシーンと静まり返った。
「つまり、安心したまえ。津名君の退学は無しだ」
津名は胸が熱くなり、目から大粒の涙がこぼれた。
「あ、あぁぁ……」
"ぬぉぉっ!?大逆転じゃまいか、津名氏ぃぃっ!!"
そして、立ち上がると諸手を挙げて喜んだ。
「バ、バンザ~イッ!ま、また通学できるっ!豊岡線、香淀先生、ありがとうございましたっ!みんなもありがとうっ!みんなのお陰だよっ!!」
それに釣られてみんなも歓喜の声を上げ始めて職員室は大騒ぎになった。
「うぉぉぉっ!」
「やった~っ!」
「ひゃっほ~っ!」
「やったな、」
「メガさいこ~っ!!」
「うれし~しょっ!」
「あははははっ!」
「うぇ~~い」
「バンザ~イッ!」
「バンザ~イッ!」
「バンザ~イッ!」
最後には万歳三唱となっていて、香淀も豊岡も他の教師達も笑ってしまっていた。
"みんな、しょ~わの人か~っ!けど、バンザ~イッ!"
津名がどんな人物であろうか、生徒達が彼を中心に一つになっていた。香淀も豊岡も、書面上の面倒なやり取りが待ち構えていようが、教育委員会への説明が待ち構えていようがどうでも良いと思った。子供らの成長を支えるが自分達であると思えたからだった。
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生徒達が職員室から出て行った後、津名と大寬と珠川えん、そして日高も一緒に生徒会の三人を送るため下駄箱までついて来た。彼らが靴に履き替えると津名は頭を下げて感謝の言葉を伝えた。
「生徒会長、ありがとうございました」
大寬と珠川と日高も頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
"ありがとうございました、聞こえないけど"
長田は津名の人徳が悔しいのか向こう側を向いていた。
「ふんっ!退学が無くなって良かったではないか。しかし、これだけは言っておくっ!」
「は、はい?」
「お前は三年になったら生徒会長になるんだっ!」
「えぇっと……」
「うん、まずは来年は書記としてやってもらおう」
「そ、そうですか……、し、しかし、私はあまり仕事はしたく……な……グボッッ!!!」
仕事はしたくないと言い出したので、大寬は光速でパンチを津名の腹に食らわせた。余りにも強烈だったのか吹き飛びそうなぐらい風が吹いてそばに居た珠川えんも日高も青ざめた。
「メガやばっ!」
"う~、お化けのあたしでも風を感じたんだが……"
完全に油断していた津名は腹を押さえて苦しみだした。目からは別の涙が流れていた。
"グ、グブッ……、こ、光速物理攻撃……、ひ、酷い……。というか、内臓がヤバい……"
"ふざけてないで受けなさいっ!!"
ついでに大寬はこれでもかと言うぐらい怒り顔で津名を睨んでいた。津名は渋々、長田の申し出を受けることにした。
「か、会長……、もちろん、受けさせて……頂きます……、あはは……」
しかし、強烈な腹痛のためか声は途切れ途切れだった。
「ふむ、それでこそだ。それでは失礼する。荒本、吉田行くぞ」
長田は後ろを向いたまま校門に向かった。荒本と吉田は後ろを振り向いて津名達に手を振った。
「んじゃね、大寬さんも珠川さんも」
「……クンクン」
その時、津名が何故か腹を手で押さえているのを不思議に思ったのだが、そのまま長田の後を追った。大寬も珠川えんも丁寧に頭を下げた。
「あ、あり……がとうございました……、バタリッ」
長田達が校門を出て角を曲がり消えると、津名はそのまま倒れた。
「ぬお~っ!ヤバヤバッ!」
"つ、津名氏、退学せんでよくなったのだ、死ぬんでな~いっ!"
彼は保健室でしばらく休んでから帰宅した。




