ところであの件だけど……①
後片付けの翌日の放課後、津名は職員室に呼ばれた。その理由は分かっていた。あの期限が切れる時期であり、つまり、退学の通告だった。
「はぁ~……」
"まぁ、そんなに落ち込むぞな……。あたしは君の背後霊としてついて行く所存ですっ!"
「は、背後霊……?ありがとう」
肩を落としながら津名はセキュリティカードをかざして職員室に入ると一礼して以前にも入った奥にある会議室に向かい、扉をノックした。
「津名君だね、入りたまえ」
一年主任の香淀の声が聞こえたので津名は扉を手で開いて入った。
「失礼します」
すると、他にも三年主任と生徒会を管理する豊岡も席に座っていた。
「あ、は、始めまして」
豊岡と会うのは初めて出会ったため、思わず津名は頭を下げて挨拶をした。
「始めまして?カメラ越しで何度も会ったというのにっ!丁寧だね、君は。まあ、座りたまえ」
「い、いえ、そうですか。その節ではご迷惑をおかけしました」
「あはは、気にしていないよ。それどころか君は主体的に文化祭を盛り上げてくれたではないか。むしろ、私達教師の方が感謝しているところだよ。そうだろ、香淀先生」
香淀もうんと頷き、笑っていた。
「豊岡先生、そうですね。フットサル部のエースだった君はリーダーにもなれるんだな。失礼ながらそうは見えないんだよな」
「きょ、恐縮です……、出過ぎた真似をしてしまいました」
「あぁ、すまん。そういう意味ではないのだよ。君のクラスも人気投票で優勝したし、凄い事だって意味だ。ともかく、生徒達が主体性を持って文化祭を盛り上げたことが嬉しくてな」
豊岡もうんうんと頷いていた。
"津名氏、褒め殺し状態……、私の指導のお陰だな、うんうん"
おまけで日高もドヤ顔になってうんうんと頷いていた。
「ところで文化祭前に話した事なんだが……」
日高は遂に退学の話が来てしまったと頭を抱えた。
"あ~、本題がキテもうたよ……"
"はぁ~……、寂しいなぁ……"
すると、職員室がざわつき始めた。
「な、なんだ?どうしたんだ?」
「う、うむ……」
香淀も豊岡も何が起こっているのか訳が分からないでいるとドタドタと音がして何かが会議室に近づいて来て、会議室の扉が誰かによって開かれた。
「豊岡先生っ!お話しがありますっ!」
"なっ!クンクンせぃと会長~っ!?なにしに来たんじゃ?"
「え、えぇ……、せ、生徒会長……。そ、それにみんなどうしたのっ!?」
扉の前には生徒会の面々の他にも津名のクラスメイト達が所狭しと集まっていた。
香淀も豊岡も津名も驚いていると、皆が声を荒げ始めた。
「津名が、退学とかあり得ませんっ!」
「そうですっ!津名君が何かしたんですかっ!!」
「何も悪くないですっ!」
「あれだけ活躍したのに何で退学なんですかっ!」
「だ、駄目です」
「ありえんてぃ~っ!」
「そうだ~、ありえんてぃ~っ!」
「先生、考え直して下さいっ!」
津名は誰が退学のことをしゃべったのだろうかと思っていると、大寬と珠川えんがごめんねとジェスチャーしていた。
"あの二人しかおらぬかっ!しかし、さすが女神様と吸収少女……"
豊岡は生徒会だけが持っている職員室への入室許可権限を使ってみんなを入れたのだろうと推察した。
「落ち着き給え……。長田君も君らしくないな……」
指摘を受けた長田が話し始めた。
「豊岡先生、香淀先生、お話しというのは津名君の退学の件です」
「う、うむ」
「彼は文化祭を大いに盛り上げてくれました。この学校にも、そして将来的にも重要な人材であると考えますっ!ここで退学にしては彼の人生で大きな痛手となると思うのです。彼の発言には大いに共感、……いや、ちょっと腹が立つところもありま……痛っ、荒本っ!……や、やめろ、分かってるって……。ゴホン、つまり、教戒できるからこそ、ここまでみんなも集まっているのです。退学は考え直して頂けないでしょうか?」
荒本に突っ込まれながらも言い切ると、蓮沼が大声を出した。
「そうだ、そうだっ!退学反対っ!」
すると「退学反対」と皆も連呼した。
大寬はみんの津名への思いに涙を流していた。
迷っていたが、勇気を出して自らが教壇に立って津名の退学の話をして良かったと思った。その後、生徒会室にも言って説明すると、以外にも長田達も一緒に行くと言ってくれた。
無論、津名はみんなの思いにむせび泣いていた。
「み、みんなぁ……、うぅぅぅ……、ありがとうぅぅぅ……、が、学校を辞めてもみんなのことは忘れないよぉぉぉっ!うわぁぁぁぁん……」
"みんないい人じゃまいかぁ、ぶぇぇん……グスッ"
ついでに日高も泣いていた。




