痛すぎる会話
クラスメイトの珠川えんと一緒に登校した日の何気ない休み時間だった。
珠川えんを含めた三人の女生徒が教室でだべっていた。日高が彼女らを遠くから見つめていると、珠川がこちららを見つめて手を振ってきた。日高は思わず恥ずかしくなって顔を背けてしまった。
「えん?今、誰に手を振ったん?」
「別にぃ」
「はぁ、そうなん?変なの~笑笑」
「ところで、あの献血ルームがどうしたって~?」
「あそこで献血するとマジでヤバいんだって~っ!」
「ぅえ~、まじでぇ~っ!」
「ふぇ~、なにがヤバいん?」
「あそこで献血すると、死んだみたいになっちゃうんだって~っ!まじかってぇぇのっ!」
「献血じゃ無くて、あれを打たれちゃうんじゃん?ゾンビになっちゃうやつあるじゃんっ!」
「え~、ヤバヤバ~?」
「ほら、ユウコが今日来てないっしょ?昨日さ、献血したって自慢してたじゃん?」
「キャハハ、うける~」
日高は適当なことを話してるなと思って聞いていたのだが、そこに津名が加わろうとしたのでずっこけた。
「ちょ、ちょっと、それって本当、わ、笑えるよねぇ~っ!も、もっと詳しく知りた~い……じゃん」
しかし、その声のかけ方は中年親父が無理矢理女子高生の会話に加わろうとしているように見えた。
「はぁ~、なになにぃ?」
「変な割り込み~」
「あんた誰だっけ?」
日高はだんだん自分が恥ずかしくなってきた。
「こいつってば、しばらく休んでいたやつじゃね?」
「あぁ、事故ったんだっけ?」
「え~、知らないし~」
無論、女生徒達も同様で怪訝そうな顔をしていた。
「あ、あの……、僕は同じクラスの……津名ほずみじゃん……。だから、その献血ルームって何処にあるじゃん?」
「んだよ、うちらの会話聞いていたんだよ、こいつっ!キモッ!」
「なんか気持ち悪いんだけどww」
「これって、ナンパっしょっ?!うける~っ!」
「う、うけるよねぇ、で、その献血ルームが何処にあるのか……知りたい……んだけど」
津名が惨めすぎて痛々しくて日高はもどかしくて仕方なかった。
「知らねぇよっ!」
「あっちいけってっ!」
「きもっ!」
そんなところへ大寬まやがやって来た。
「ほんっとキモいよね、こいつって~っ!笑えるわ~っ!」
津名は大寬にお前は何だと言いたげだった。しかし、日高は、彼女が津名を助けに入ったのだろうと思って、そうじゃないと言いたかった。
「まや、こいつの知り合いなん?」
「どしたの、こいつは?」
「もしかして、まやの彼氏?ww」
「んなわけないっしょっ!無理矢理、会話に入ろうとしているところとか笑えるしっ!こいつバカッしょっ!」
「んだよねっ!」
「へんなやつ~」
「ナンパならもうちょっと身なりをよくして来いって~の」
「あ、え、え~っと……」
もはや、津名ほずみの入る余地は無く、しょぼしょぼと自席に戻って机に顔を埋めてしまった。肩が震えているので泣いているようにも見えた。
日高が大寬を見ると、彼女は視線で津名のところに行けと伝えていた。日高はうんと頷くと、それに従うように津名のところに行った。
「津名君、だ、大丈夫……?」
「う、うん……」
顔を上げた津名ほずみは、涙目になっていたのでやっぱり泣いていたのが分かった。
「ぼ、僕は……、なにを間違えたんだろう……」
日高は全てが間違いな気がしたが言えなかった。津名がどうしてあの女生徒達の会話に入ろうとしたのか理解出来なかったが、彼は献血に興味があるのだろうと思った。
「き、気にしないちゃ駄目だよ……。け、献血ルームの場所なら分かるよ?」
「えっ!本当?!」
津名が笑顔を取り戻したようだったので、日高はちょっと安心した。
「放課後、行ってみる?」
「うん、ありがとうっ!」
こうして、二人は放課後、献血ルームに向かう事にした。大寬はアホかといった顔をしていた。