異世界転生の秘密④
一部始終を見ていた大寬と日高は、やっと言葉を発することが出来た。
「イフレ、終わったわね……」
"あ、あの人って誰だったの……?賢者とか、魔法とかって言ってなかった?だけど、最後、螢田君みたいに見えたし……。フ~過ぎてついてけませんっ!"
津名は二人の話には答えず真剣な顔のままだった。
「……イフレール?……キャンッ!そ、そんなに見つめられちゃうと、わ、私……モジモジ」
"わんた、キャンキャンしてる場合じゃないぞよ……、津名氏……、なんか怒っているぞ"
「え?私達何かした……?」
"ち、違うんでないかい……?あたしらの後ろを睨んでるみたい……"
日高の言う通り、津名の目は大寬達の後ろをに居る存在を捉えて睨んでいた。
「う、後ろ?」
"後ろから変なもんを感じて振り返りたくないだが……"
大寬と日高は恐る恐る後ろを振り返り、その存在に震え上がった。そこには真っ黒な宇宙空間が広がっていて、不気味ないくつもの目がこちらを見つめていた。二人は得体の知れないその存在に身体が震えた。
「ひっ!な、なに?」
「……あ、あ、なんじゃら、あ、あれは……ガクガク……」
津名はその者にこの場に剣を向けた。大寬と日高はその剣を避けるように津名の後ろに回った。
彼は、その者を否定した。
「宇宙創成から混乱させ続ける闇の者よ、お前も消えよっ!この場に居てはならないっ!」
「えっ!?そ、それって……まさか……」
"や、闇の者……?フ~?"
それは不気味に笑い出した。
≪ ふふふっ!あははははっ!やはり、お前は宇宙神の使いかぁぁぁっ!しかしぃぃ、しかし、しかし、しかし……、お前の力をもってしても、あちらとこちらを繋いだ宇宙の穴はそう簡単には消えぬぞぉぉぉっ! ≫
「お前とあの賢者が作った異世界への扉がどれ程の魂を迷わせたと思っているのだっ!」
≪ はははぁぁぁ……、へへへぇぇ……、ケケケケ…… ≫
女は不気味に笑い続け、その笑い声は自身の行った事すら薄ら笑っているように聞こえた。
「イフレール、どういうこと?」
津名の仕事は、転生者を元の宇宙に帰すことだと大寬は聞いていた。
「異世界の扉ってなに?聞いてないわ……、それにこの悪魔……お父様が忌み嫌う存在……」
しかし、目の前には悪魔が居て思っていた以上の何かが起こっていた。
「この悪魔が宇宙間を結ぶ扉を数多く作ってしまった……」
「えぇ……、宇宙間を結ぶ……扉……?そんなもの作れるの?」
「犠牲者は数知れない……」
「ぎ、犠牲者……?」
「宇宙人も共謀している……」
「つ、つまり……?その宇宙人達が……?」
"ゴ、ゴクリ……"
「この星の魂達を向こうの宇宙、つまり異世界に連れてしまった……。何百人も、いや、もっとかもしれない……」
「えぇ……、そんなの許されるわけないでしょ……?」
"そ、それって異世界転生みたいな……?"
≪ お嬢ちゃん、良いこと言うねぇ…… ≫
"ひ、ひぃっ!せ、正解ですかぁ……?お、恐れ、恐れ入ります……、ガクガクブルブル……"
≪ そうさ、"異世界転生"さ、あははははっ!ケケケッ…… ≫
「ふざけたことを言うなっ!」
≪ ふざけたぁぁぁ?そんなことはないぞぉぉぉっ!ちゃ~んと奴らはお前らと同じ猿型の人類を選んで転生させているぞぉぉ?違和感ないだろう? ≫
「嘘をつくなっ!人だけじゃないっ!動物や、昆虫や、モンスターの場合もあるだろっ!」
≪ ケッ!しかしぃぃ、みぃぃんな喜んで転生して行くではないかぁぁ、違うかぁぁ?あぁぁん? ≫
「苦労の続く者達を交通事故などで死に追いやっておいて何を言うかっ!挙げ句、宇宙人達は神のふりをして甘い言葉をかけている……」
「だ、だから騙されちゃってる……?」
"それは騙されちゃうのでは……"
≪ はぁぁ?聞こえの悪い言い方だなぁぁ?あやつらは異世界とやらで楽しくやっているではないかぁぁ?魔法も使えてさぞかし楽しかろう。違うかぁぁ? ≫
「それも嘘だっ!お前たちは文明の劣る星ばかりに転生させているではないかっ!何故、高度な文明を持つ星に転生させないのだっ!」
≪ はぁ?そうなのかぁぁ?知らないねぇ……。あっちの宇宙は文明が全部低いだけなんじゃないか?ひぇひぇひぇ…… ≫
「ふざけるなっ!宇宙船を持つ人類もいるではないかっ!」
≪ あははぁぁっ!そうなのかぁ?私は知らないね……、あははははっ!ゆぅふぉぉ?あははぁぁぁっ! ≫
「身体に宿った魂達はどうしているんだっ!」
「それって転生先の身体のこと?」
"うぇぇ、それってさっきの賢者さんと同じ事をしていたのでは……?"
≪ さあねぇ?どっか行っちまったんじゃないか?身体には一つしか魂は宿れないからなぁ……。もしかしたら、そんなもんは居なかったんじゃないか?きっと、空っぽの身体だったんだよっ!あはははぁぁぁ、はぁぁ……、ひぇひぇひぇ…… ≫
「そんなわけがあるかっ!お前は一体何が目的なんだっ!何故、この星の魂を転生させているんだっ!」
≪ な・い・しょ……、フフフ……、あははははっ!ヒャヒャヒャ……。異世界っ!転生っ!異世界っ!転生っ!異世界っ!転生っ!楽しいじゃないか?こっちで不幸、向こうで幸福っ! ≫
「邪悪な者が正しいことをしたようなふりをするなっ!」
≪ フフフ、それじゃあ、私はお前が言うように消えるとしよう…… ≫
津名は邪神が消えようとしたため、剣を振った。
「くっ!やはり、無理か……」
しかし、その者を切り捨てたが空気のように拡散するだけで手応えが無かった。
≪ またなぁぁぁ、宇宙神の子らよぉぉぉ……。あははははっ!ヒヒヒヒッ!ひぇひぇひぇ…… ≫
影の女はそう言い放つと影の中に消えていった。不気味な笑い声だけがしばらく響き渡った。
「イフレール……、あ、あれはアンラ・マンユよね……?」
"あんら……何て言った……?"
「別名、アーリマン……」
"アリマン?ちっちゃそう……"
「アーリマンッ!もう、ふざけてるのっ!?宇宙の裏側から星々の地獄界を牛耳る悪魔の一種よっ!」
"はぁ~っ!?んな、巨大なフ~だったのぉぉっ!?"
津名はゆっくりと地面に降りると、変身を解いた。大寬と日高もそれに続いた。
「まいったなぁ……」
変身を解くといつもの顔に戻っていた。周りはすでに夜の帳が下りていた。彼の光が落ち着くと川沿いの小さな小道は真っ暗となり、虫の声が聞こえ始めた。
「つ、津名、どうするのよ……」
大寬の声に津名はため息をつくと疲れ切った顔になり、肩を落とした。
「はぁ~、仕事が増えちゃった……」
「そ、そうだけど……」
「働きたくないのに……」
津名がまたも働きたくない発言をしたので、大寬と日高はずっこけて、大寬は思いっ切り津名の頬を引っぱたいた。
「痛っ!!大寬さん、酷いっ!」
「あ~っ!もうやだっ!あり得ないっ!あれを見てそのセリフなのっ!?バカなのあなたっ!バカバカバカッ!」
"わんた、あたしは逆に安心したぞよ……。あんな怖いもん見て、この落ち着きっぷりだもん……"
「はぁ~……」
大寬はもはやため息しか出なかった。
「帰ろうよ……、疲れたよ……」
「あんた、あいつの報告もお父様にしなさいよっ!」
「大寬さんが、報告してくれない?」
「ブチッ!」
津名の言葉で大寬はぶち切れて、お前死ねと言わんばかりの目で彼を睨んだ。津名はさすがに怯んだ。
「……な、な~んてねぇ。た、対策ねらないとなぁ……。あはは……」
"はぁ~、駄目モード津名君じゃまいか……。やっぱり不安になった……"
取りあえず、三人はアパートに戻っていった。
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ここは別の宇宙に存在する地球とは異なる星……
小さな虫が大きな草の先に上ってじっとしていた。その虫は地球では見られないような姿をしていて、やがて甲殻を開くと水色の半透明な大きな羽が広がった。元は人だった魂の宿ったそれは連星となった太陽に向かってどことなく飛んでいった。




