表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
68/175

異世界転生の秘密③

 津名の剣によって、転生後の身体がどうなったのかを知った霊体はその実態に驚愕した。その身体は地獄界に落ちた霊に使われていた。宇宙の闇に住む邪神がその者を導いていたのだった。

 確かにその霊体も始めは自分が抜けた後の身体を気にしていた。しかし、知らないふりをした。調べることも出来たが、調べないでいた。それを知っても何も出来ないと分かっていたからだった。それ以前に恐ろしかったのもあった。


"か、関係ないっ!ワ、ワシの抜けた身体の事など関係ないではないかっ!"


「本当にそれはあなたの考えか?その言葉はあの女が言ったことではないか?」


"あ……"


 霊体は"あの女"と言われて背筋が凍った。何処にでもいるような高校生である津名が自分と闇の女との関係を知っていた。どうしてそこまで把握しているのか分からなかった。こちらを睨んでいるただの高校生が巨大に感じて恐ろしかった。


「あなたの無責任な思いで身体だけが放り出されたのだ、愚かな魂よ。お前を愛した者達の苦しみも想像できぬか」


 その言葉で自分のために色々としてくれた母親の姿が思い出され、その霊体は一時的に開成の顔に戻った。


"……お、お母さん……。お母さん、ご、ごめんなさい……"


 しかし、すぐに老人の姿に戻ると、かすかに残った良心を振り払った。それを認めると自らの過ちを認めることになるからだった。


"あぁぁぁぁ……、や、やめてくれぇぇ……。ワ、ワワワ、ワシは……悪くないっ!ワシとは関係ないっ!関係ないっ!関係ないっ!関係ないのじゃっ!"


 霊体は大声で自分を誤魔化し続けたが、津名はそれに追い打ちをかけた。


「それだけではないはずだ」


"な、なに?なんだと……?"


「あなたは自己保身の欲望で魂の宿る身体を奪い続けただろう」


"そ、それは……"


「あなたが身体を奪ったために五人の魂は今でもこの地上を彷徨い続けている……」


"……!"


 それも何となく分かっていたが、事実として認めたくなかった。自分が宿ることでその身体に宿っていた魂がどうなるかなど無視し続けていた。


"あ、あぁ……"


 様々な事実を突きつけられて、もはや、その霊体は冷静ではいられなかった。


"そ、そうじゃ……、あ、あの女っ!そうじゃっ!そうじゃっ!あの女のせいじゃっ!ワシは悪くないっ!"


「始めの転生を試みた時点であなたの罪は確定している」


"わ、悪くない……、悪くない……、悪くない……"


「邪神に魅入られたとはいえ宇宙同士を結びつけた罪も計り知れない」


"あぁぁぁぁ……、ち、違う……違う……。か、関係ない……。ワシは騙された……のだ……、な、そうだろ?ワシは悪くないだろ?」


 恐れのためか、その霊体の目は泳ぎ、たまたま近くを歩いていた者を見つけた。


"……あ、あいつっ!!!はぁぁ、あははは……、ワシはついているぞっ!"


----- * ----- * -----


 それは後夜祭が終わって帰路につく蓮沼舜一と時子だった。


「婆ちゃん、終わったね。腹減ったなぁ」


「お疲れさん。しかし、やったじゃないか。さすが私の孫だよっ!」


「いや、最大の功労者は津名だよ」


「あの泣き虫君ね、フリマも彼が主催していたね。参加者はみんな感謝していたよ、たいしたもんだ」


「だなぁ……。だけど、退院してからな~んか変なんだよなぁ」


「確かに不思議な子だったねぇ……」


----- * ----- * -----


 霊体はその場から逃げ出したい一心で蓮沼舜一に転生しようとした。


"は、蓮沼ぁぁぁっ!も、もらうぞっ!か、身体をもらうぞぉぉぉっ!!あははははっ!"


 しかし、蓮沼舜一に何度ぶつかろうとしてもすり抜けてしまい、その身体は奪えなかった。霊体は理解出来ず、声を荒げた。


"は、入れない?な、何故だぁぁぁっ!はぁぁ、か、身体をくれっ!は、早くぅぅぅっ!"


 津名はそれを見届けると光の剣を紐のように伸ばして、その霊体に絡ませた。


"はぁぁ?こ、これは何だっ!?あ、あぁぁぁぁ……、や、止めろぉぉっ!"


 そして、そのまま自分の目の前に引っ張り上げた。


「すでに転生の力は消し去った。気づかなかったようだな。無論、元に身体に戻れない」


"そ、そんな……"


「愚かな魂よ、元の宇宙に戻るがよい……」


"い、いやだぁぁ、戻らないっ!も、戻らないぞ"


「因果の理法は、どの宇宙でも働く共通の法則。そこからは誰も逃れられない。この世界で起こした罪は全てカルマとしてお前の魂に刻まれた……」


"ひ、ひぃぃっ!あの老体に戻りたくはないっ!!やめろ、やめろぉぉっ!"


「老体に戻る?それは違うぞ。人になれると思うか、反省無き愚かな魂よ」


"は、はぁ……?ふ、ふざけるな……"


「もはや永遠に人として生まれることはないと思うが良い……」


"やだぁっ!やめろぉぉぉっ!嫌じゃぁぁっ!な、何故じゃ……、何故ワシがこんな目に遭うのじゃ……、ワシは悪くないのにっ!"


「神のくびきから外れた異端なる者よ、今こそ浄化しよう……」


 津名は再び剣を両手で振り上げた。


"あぁ、あぁ、あぁぁぁぁ……"


 そのまま剣を振り下ろすと、その霊体は地球で生まれ変わった青年達に顔を変えながら、最後に螢田となりその場から消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ